《03-16》

「電話回線の寸断に、防火シャッターの誤作動。まろみ様のピンチに、余りにタイミングが良すぎます。恐らく裏で糸を引いている人間がいるのでしょう」

「まさか、サトリの仕業か?」

「断定はできませんが、恐らく。私達は上手く引っ掛けられたようです」

 

 凛華がぎりりと奥歯を噛んだ。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 アイスクリーム屋の中。

 誤作動のアナウンスを聞いた撫子がまろみに告げる。

 

「な、ウチの言うた通り、誤作動やったやろ」

「まるで知っていたような口ぶりだったな」

「そこは企業秘密や」

 

 撫子が優しく微笑んだ。

 

「で、先ほどの要求やけど。もちろん、飲んでくれるんやろな」

「嫌だと言ったら?」

「いけずやなぁ。そんなん言われたら、ウチ困ってまうわ」


 頭を振って、大袈裟に溜息をこぼした。

 

「交渉を円滑に進めるためや。萩人、そのまま右腕をへし折ったり」

 

 萩人がぐっと力を入れる。

 

 途端に増した痛みに春乃が呻きを漏らす。

 

「待て! 待つのだ!」

「ストップや。まろみはんも、状況っちゅうもんが理解できたようやし。それにしても面白いなぁ。絶対支配者を自称するまろみはんが、こないなことで屈服するやなんて」

「そんな言い方するな!」

 

 春乃が怒声を上げた。

 

「どうしてそんなことが言えるんだよ! 撫子さんだって、萩人くんを人質に取られたら」

「ウチはなんともあらへんで。萩人の代わりくらい腐るほどおる」

 

 笑みを崩さず、事も無げに答える。

 

「そんな! 萩人くんはそれでいいの!」

「何度も言わせるな。俺にとって姫の言葉は絶対の正義だ」

「春乃、これが桔梗なのだ」

「そんなの酷いよ。可愛そうだよ」

「俺に同情する必要はないぜ。俺は自分の意思で姫に仕えているんだからな」

「違うよ。可愛そうなのは、撫子さんだよ」

「ウチ? ウチが可愛そうやて? どういう意味や?」

 

 撫子の顔から柔和な微笑が消える。

 

「慕ってくれてる人がいるのに。大切に想ってくれる人がいるのに。その気持ちを桔梗という名前に縛られて、素直に受け取ることもできない。そんなのって……うっ!」

「黙れ。姫に無礼な口を利く奴は俺が許さない」

 

 萩人が力を込めなおして、春乃の口上を遮った。

 

「ふん。しょうもない話で興が削がれてしもうた。まろみはん、さっさと終わりにしよか。この証文と退学申請書にサインしてもろたら結構や」

 

 懐から紙とペンを取り出し、テーブルに置いた。

 

 

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