《03-15》

「ん?」

 

 ウインドウの一つに映っている人物に気付いた。

 

「副官さんか。服装のセンスは頂けないけど、実に優秀だ。悪いけど君達に動いてもらうわけにいかないんだ」

 

 ディスプレイの上を指が走る。

 いくつものコマンドが瞬時に実行された。

 

「これでまろみは、最後のカードを切るしかない」

 

 椅子の背もたれに体重を預けた。

 軋み音が狭い室内に響く。

 

「さあ、転校生。君の想いが、本当に彼女の救いとなるか。見せてもらうよ」

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

「おい! シャッターが下りたぞ!」

「見れば解ります! 全員に集合を掛けて! 早く!」

 

 函辺の切羽詰った声に、凛華がすぐさま指示を出した。

 常に冷静沈着な彼女も、いきなりの展開に動揺を隠せない。

 

 屋上にあるオープンカフェで二人の会話を耳にした凛華は店を出た。

 断腸の思いでパフェを残してである。

 それから函辺と合流して地下に。

 まろみと春乃がアイスクリーム屋に入る様子を、身を潜めて伺っていたのだが。

 

「武装風紀委員第一斑。非常事態が発生した、直ちに地下一階に集合せよ」

 

 函辺がポケットから取り出したレシーバーに向かって繰り返す。

 

 学区内では情報機器の持ち込みは禁止。

 つまり携帯電話や特殊端末は誰も持っていない。

 特定の相手とやり取りできるトランシーバーが唯一の連絡手段だ。

 

 その間に凛華は近くの公衆電話に駆け寄り、非常時のコールボタンを押した。

 

「はい。こちら中央警備ルームです。どうかされましたか?」

 

 状況を伝えようとした矢先、いきなり回線が切れた。

 

「そんな」

 

 何度コールボタンを押しても、フックスイッチを上下させても回復しない。

 

「とりあえず集合は掛けた。直ぐにみんな集まってくる」

「小鬼田さん、ここでの指揮をお願いします。私はシャッターを開けてもらうよう……」

 

 サイレン音が凛華の言葉を遮った。

 と、通路の防火シャッターがゆっくりと下り始める。

 

「な、何が起こっているというのです?」

 

 半ば独り言のように呟く凛華に、函辺はただ首を振るしかない。

 

 周囲の客達もただ唖然とするばかりだ。

 

「防火シャッターが誤作動したようです。シャッターは数分で開きますので、パニックにならず落ち着いて行動してください。繰り返します。防火シャッターが誤作動しました」

 

 スピーカーから優しい声が届いた。

 

 誤作動という単語に、ひとまずは安心という空気が生まれる。

 

「なんだ。誤作動かよ。びっくりさせてくれる」

「してやられました」

 

 安堵を見せる函辺。だが凛華は厳しい表情を崩さない。

 

 

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