《03-14》
座っていた男子達が腰を上げた。
振り返ると同時に己の肩口を掴んで服を引っ張る。
どういうカラクリか、服が次々と解け、布と化して宙を舞った。
中から現れたのは黒い全身タイツ。
同じく漆黒の頭巾に、金色の般若面。
要所にプロテクターを付けたその姿は、一昔前のアニメに出てくる悪役戦闘員と言った風情だ。
「紹介させてもらうわ。これが『ハルベルデ』が誇る最強の実戦部隊。桔梗忍者隊や」
得意満面でそう告げる。
忍者というよりは、ニンジャーと表記したくなるレベルの集団だ。
「撫子さん、どういうこと? これはどういうことなの!」
「どういうことやなんて、ウチに説明させる気やろか? 春乃はんは意地悪やな」
「春乃が人質というわけか」
と、まろみ。
平静を装ってはいるが、押さえ切れない怒りが目に表れている。
「嫌やわぁ。そんな無粋な言い方」
穏やかな表情のまま答える撫子に、逆に春乃はそこはかとない怖さを感じる。
「約束が違うよ! 僕達には危害を加えないって! ただ話したいだけだって!」
「春乃はん、ウチはあんたのことが好きや。せやから、ええこと教えたるな」
撫子が静かに立ち上がった。
「約束っちゅうのは、相手に守らせるためにあるんや、自分は破っても構へんのや」
「そんなの間違ってるよ!」
春乃の叫びに、撫子は呆れたように肩を竦めるだけだった。
「萩人くん、君だってこんなの間違ってると思うだろ!」
「姫の言葉が俺にとっては絶対の正義だ」
「そう、ウチの言葉が正義。ウチの言葉が絶対。ウチは桔梗の人間やからな」
何を言っても無駄。
春乃は自分の非力と愚かさに唇を噛んだ。
「お前の腐った主張を聞いているほど、余と春乃は暇ではない」
まろみが細い腕を組んだ。
これだけの敵に囲まれた、絶体絶命のはず。
にも拘わらず、余裕すら感じるほどの落ち着きがあった。
それは支配者と呼ぶに相応しい態度だ。
「随分な言われようやけど、まあええ。まろみはんにお願いしたいのは一つ」
そこで言葉を止めた。
まろみと春乃に絶望を感じさせるための残酷な間をとったのだ。
「全ての権利をウチに明け渡して、この学区を去って欲しいんや。簡単なことやろ?」
※ ※ ※
電気の消えた暗いそこは、ダグダのデータベースには存在しない秘密の部屋だ。
唯一の光源となっているのは小型端末のディスプレイが放つ冷たく弱々しい光だけ。
その小さな明かりに照らされていた口元が僅かに緩んだ。
「桔梗 撫子。彼女の権勢欲に歪んだ人間性はむしろ神聖さすら感じるね」
ディスプレイはいくつものウインドウが開き、モールのあちこちの映像が写っていた。
中央、一番大きいのはアイスクリーム店。撫子と対峙するまろみだ。
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