《03-13》

「うん。あそこだよ」

 

 ガラス張りの明るい造りになっている店だ。

 大きなショーケースに並ぶのは、カラフルなアイス。

 基本はテイクアウトだが、店内には簡素なテーブルセットがいくつか置いてあった。

 

 アイスクリームと言えば女子が食べる物というイメージがあるが、この店は少し違う。

 テーブルに着いているのは、がっしりした男子ばかりだ。

 

「まろみたん、何か注文する?」

「いや、いい。どうやらお待ちかねのようだしな」

 

 時刻は十五時四十分を回ったところ、約束の時間には随分と早い。しかし、一番奥の席に撫子の姿があった。

 制服姿で背筋を伸ばし、テーブルに置いた文庫本を読み進めている。

 近づいてくる二人に気付くと、ゆっくり顔を上げた。

 

「早いお着きやなぁ。びっくりしたわ」

 

 と言いつつも驚いた様子は微塵もない。

 

「久しぶりだな、撫子」

 

 春乃よりも先にまろみが答えた。

 

「こうして会うのは一月ぶりやな。お元気そうでなにより」

 

 春乃が二人の会話に違和感を覚えた。

 近づく事もできないと言っていたはずなのに。

 

「春乃はん、おおきにや。これでようやく話せる」

「あ、うん」

 

 春乃の顔色を察した撫子が先手を打つ。

 

「で、撫子よ。春乃をダシに余を呼び出してどうするつもりだ?」

「もう、まろみはんは無粋で嫌やなぁ。そんなんやったら殿方に嫌われるで」

 

 口元に手を当てて、白い歯を覗かせた。

 

「お前との下らないやり取りに時間を割く趣味はない」

「えらい嫌われるみたいや。まあ、しょうがないな。ウチの話やけど。その前に春乃はん」

 

 春乃の方に顔を戻し、柔らかい笑み浮かべる。

 

「もう三歩ほど下がってもらえんやろか」

「あ、うん」

「春乃! 後ろだ!」

 

 後ろに踏み出した春乃に、まろみが悲鳴に近い警告を上げる。

 しかし、遅かった。

 

 背後から伸びた腕が春乃の首に巻きついた。

 振りほどく隙も与えず、更に右腕を捻り上げる。

 

 一瞬にして動きを封じられた春乃の耳元で、聞き覚えのある声が告げる。

 

「悪く思わないでくれよ。姫の命令なんでな」

「は、萩人くん?」

 

 圧迫された喉の苦しさすら忘れるほどの驚きだった。

 

 唖然とする春乃の前で、撫子がしなやかな動作で手を二回打った。

 それを合図に次々とシャッターが下りていく。

 僅か数秒で全ての窓が分厚いシャッターに覆われてしまった。

 

「撫子さん、どういうこと?」

「ここは桔梗グループのお店なんや。今日はゆっくり話せるよう、貸切にしたんや」

 

 再び手を叩く。

 

 

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