《03-12》
「気分を悪くしないで聞いて欲しいんだけど」
「へ、へへ下手な気遣いは無用だ。よ、余も覚悟を持って、この場に来ておる」
「覚悟?」
「な、何ごとにも覚悟は必要であろ。で、お願いとはなんなのだ?」
平静を装いつつも、声は緊張で掠れてしまっている。
「あのね。まろみたんに会いたいって人がいるんだ」
「ほぁ?」
随分と間の抜けた返事が出た。
ついでに口を半開きにして随分と間抜けた顔にもなる。
抱いているヌイグルミにオーバーラップする表情だ。
「会ってあげてくれないかな」
ぐにょにょと羊が歪んだ。
ヌイグルミに痛覚はないと解っていても、ちょっと同情するほどの力の入れ具合だった。
「つまり、余と誰かを引き合わせたいということなのだな」
「うん。やっぱり気を悪くした、よね?」
限界まで膨らんだまろみの頬を見れば、不機嫌になったのは誰でも解る。
その頬袋に、過剰な期待と乙女チックな妄想。勘違いによる羞恥とやり場のない怒り。
その他もろもろの感情が詰まっているなんて春乃には解らない事だ。
「あの、まろみたん」
「もういい。解った」
無愛想に答えると、アイスミルクの入ったグラスを掴んだ。
ストローを無視して、一気に中身をあおる。
ごくごくと喉を鳴らしながら飲む様は、惚れ惚れするほど見事だ。
氷だけになったグラスを荒々しく置いて腰を上げた。
「さっさと行くぞ」
そう言うと、くるりと背を向ける。
「あ、うん。その、ごめん」
「気にすることはない。お前は何も悪くない。で、相手は誰だ?」
「『ハルベルデ』のリーダーの桔梗 撫子さんだよ」
その名前に何故か黒いトレンチコートが咳き込んだ。
※ ※ ※
エスカレータを使って地下まで降りた。
最北端にあるアイスクリーム屋に向かう。
「無能を束ねる無能の頭領が自ら出てくるとはな」
「そんな言い方って」
「春乃、余はあの連中を快く思っておらん。この意味が解るな?」
「生徒会と『ハルベルデ』が敵対しているのは知ってるよ」
「言っておくが、あの連中はな」
「撫子さんは悪い人じゃないよ。今日だって、一人で来るって約束してくれたんだ。誠意を見せるって言って」
「もういい」
まろみが遮った。
力説する春乃が、なんとなく面白くない。
「余が会えば済む話だ。あの店で間違いないな」
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