《04-02》
「頂きます」
「やはりドキドキするな。素材を個々に味見はしたが、完成品は未知数なのだ」
凛華の手が止まった。
決意が押し戻される。だが、心配そうな主の目と、開けたままの口から一筋垂れた涎が覚悟を完了させた。
ぐっと! 噛み締める。
食パンのしっとりとした感触に、具材の味わいが口内に広がる。
最初に感じたのは甘み。
紫の粘液はブルーベリーのジャムだったのだ。
甘く煮詰まった砂糖とフルーツ。
次はさくっとした歯ざわり、緑の葉っぱはレタスだった。
野菜の水分が柔らかく溶け出す。
続いて納める豆、平たく言えば納豆の芳醇な味と独特の香り。
ピンクのソースはタラコソース。
濃厚なマヨネーズに海産物の風味がぐっと生きる。
食材が奏でるハーモニー。
これだけ異質な味が絡み合うと、とても悲惨な状態、思わず吐き出してしまう味になると想像できる。
だが、意外なほどに違ったのだ。
奇跡というべきか、口を動かす気さえ起きない味だった。
人間は咀嚼せずに食物を飲み込む事ができない。
だが、それすらをも奪い去る味。
しかも口内に残り続ける事で、徐々に気力と体力を蝕んでいく。
「凛華?」
フリーズした凛華にまろみが首を傾げた。
その視線に凛華は力を振り絞る。
副官としての責任感、まろみに対しての忠誠心が生み出す脅威の爆発力だった。
もしゃもしゃっと咀嚼。
むにゅむにゅっと咀嚼。
ねちょねちょっと咀嚼。
どんどん混ざり合っていく味に肩を震わせながらもようやくにして飲み込んだ。
もう、目からは涙が溢れそうだ。
「うぇぐぅっ」
口元に手を当て、逆流しようとする食の悪魔を抑えた。
「凛華、済まぬ。無理をさせてしまったな」
まろみの声は落胆で消え去りそうだった。
「顔を見れば解る。とても人の食せる物ではなかったのであろ」
「そんなことはありません。個性的ではありますが、十分に……」
「言うな。好きな物をチョイスすれば美味しくなるという発想が間違っていたようだ」
ふっと憂いのある表情になった。
「料理とは奥深いものなのだな」
「まろみ様」
「春乃と約束をしたのだ。弁当を作ってやると。だが、余には無理なようだ」
「お待ちください」
凛華が姿勢を正した。
額に浮かんだ汗と憔悴しきった顔が痛々しい。
それでも、その名が示す通りの凛とした表情を作る。
「ここはこの凛華にお任せください。私は家事や料理には、それなりの自信があります。私の持つ技術を全て、まろみ様にご教授させて頂きます」
「なに? 本当か?」
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