《04-01》

【4】


 あれから十日が過ぎた。平穏な火曜の昼休み。

 

 まろみの執務室で、御形 凛華は危機的状況に陥っていた。

 

「どうしたというのだ? 凛華、遠慮はいらぬぞ」

 

 まろみが笑顔で手にしたタッパーを押し付けた。必然的に中が目に入る。

 

 中に並んでいたのは歪な形に千切られたパンだった。

 陣形は二つ一組。

 間に具材を挟むという伝統的なフォーメーション。

 

 問題はその具材だ。

 

 黄と赤がまだらに混ざり合った物だったり、紫の粘液がへばり付いた緑の葉っぱだったり、糸を引いている豆にピンク色のソースが絡んでいるのもある。

 しかも、それぞれの量が多過ぎて、隣と干渉し合っているではないか。

 

 人の内面を抽象的に表現してみました。と言っても納得できるような代物だ。

 

「まろみ様、これは?」

「見たままのサンドウィッチだ」

 

 どこがどう「見たまま」なのか甚だ疑問が、そこには触れず、少し踏み込んだ質問をしてみる。

 

「いきなり料理とは、どうしたというのですか?」

「余も料理くらいできるようにならねばと思ってな。で、お前に尋ねたであろ」

 

 思い出した。

 昨日、生徒会の仕事を終え、帰り支度をしていた時。

 不意にまろみがこう言ったのだ。

 

「凛華よ。料理初心者が作れて、見栄え良く美味しいお弁当と言えば、どういう物になる?」

「定番ですがサンドウィッチでしょうか。シンプルですが、それなりに手作り感も出ます」

「なるほどな」

 

 今思えば随分と唐突な話題。

 妙に感心するまろみの態度に気付くべきだった。

 

「余でもそれなりにできたからな。ま、それはいい。とにかく食べてみてくれ。その上でアドバイスをして欲しいのだ」

「まろみ様、念の為に伺いますが」

 

 くいっと左手で眼鏡を上げ、冷静さを装う。

 

「味見はされましたか?」

「もちろんだ。余とてそのくらいの常識はある」

「そうですか。安心致しました。では恐縮ですが一つ頂きます」

 

 黄と赤のまだら物体。野菜に紫のねっちょりソース。ピンクに染まった納める豆。

 正解のない三択としか思えないが、どれかを選択しろというのであれば。

 

「これを」

 

 凛華が選択したのは二番の紫。

 手に取ると湿っぽいし、ピンク色の納める豆がかなり付着している。

 見ているだけで気が遠くなる代物だ。

 

 

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