《02-19》

「そ、それは」

 

 独裁と民主主義。どちらが正しいか。

 人類の歴史は既に明確な答えを出している。

 

「ウチらは、この学区をより健全な形にしたいだけなんや」

 

 その決意に満ちた目は、春乃の心に深く訴えかける物があった。

 

「解ったよ」

 

 春乃が大きく息をついた。

 

「明日、まろみたんと中央モールに出掛ける約束をしてるんだ。途中で話せる時間をとれるようにしてみるよ」

「ホンマ? 嬉しいわぁ!」

 

 ぱっと表情を明るくした。

 

「でも、約束して欲しい。絶対にまろみたんに危害を加えないって」

「解った。約束や。まろみはんの前には、ウチしか姿を見せへん。それならよろし?」

「ダメだ。逆に姫の身が!」

「ええか、萩人。春乃はんは、ウチらを信じて会談の場を設けてくれるんや。せやったら、こっちも相応の誠意を見せるんが筋や」

 

 そう言い切られては、萩人は反論できない。

 

「いつくらいがええやろ。二人の邪魔するのも悪いしなぁ。夕方でええかな?」

「あ、うん」

「ほな、十六時に。地下のアイスクリーム屋で」

「うん、解った。十六時に地下のアイス屋だね」

「よろしゅう頼むで」

「あ、あのさ」

「なんやろ? 気になることでも?」

「君達を誤解してたかもしれない。酷いこと言っちゃって、ごめん」

「春乃はん」

「気にするなよ。そんなのは慣れっこだからな。なんなら『ハルベルデ』に参加してみるか。もっと誤解が解けるかもしれないぜ」

「いや、それは遠慮しておくよ」

 

 萩人の冗談に小さな笑みを返した。

 

「じゃあ、僕はこれで」

 

 手を振って寮に向かっていく春乃を、二人が並んで見送る。

 

 春乃の姿が随分と小さくなったのを確認して、撫子が口を開いた。

 

「春乃はんのこと、どう思う?」

「悪い奴じゃないな」

「そうやな。ええ人や。惚れ惚れするくらいにな。せやけど……」

 

 笑みが消える。

 

「生きていくには、ええ人ではあかん。利用されてしまうだけや」

 

 愛想の良い顔が、一転して冷め切った物に変わった。

 

「そういう人間を阿呆言うねん。アンタもよお覚えとき」

 

 

 

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