《01-10》

「が、小鬼田 函辺個人としては、お願いという言葉に好感を覚えた。この感情に従うのは間違いではないだろう」

 

 笑みを浮かべる。

 今までとは違う。武装風紀委員長ではなく、小鬼田 函辺としての表情だ。

 

「草陰、十一学区にようこそ。よき友人になりたいものだな」

 

 そう言って差し出された手を、

 

「ありがとう。これからよろしく」

 

 しっかりと握り返す。

 

「はいはぁい。私は桜木 咲夜(さくらぎ さくや)。咲夜ちゃんでいいよ。これからよろしくね。春っち」

 

 頭ぐりぐりのダメージから回復した桜木が、大きく挙手しながら函辺を押し退ける。

 

「あ、うん、よろしく」

 

 いきなりのフランクな呼び方に若干気圧されてしまう。

 

 桜木の自己紹介に続いて、武装風紀委員が次々に名前を告げていった。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 第六校舎最上階。フロアの中央にある部屋の前で、春乃達は足を止めた。

 ドアは左右に並んでいる物より重厚で立派な造り。

 近づくのすら躊躇ってしまうほどだ。

 ドアプレートに書かれているのは、『まろみ様』という文字。

 

「ここがまろみ様の執務室だ。ここからは、武装風紀委員長として接させてもらう。公私混同はできないからな」

「うん。ありがと。余計な気遣いをさせて悪いね」

「余計な気遣いをしてるのは草陰の方だ。そんなだと将来間違いなくハゲるぞ」

 

 函辺の言葉に周囲の武装風紀委員達が小声で笑う。

 

「さて」

 

 一呼吸。函辺の顔が引き締まった。

 それを合図に他のメンバーも緊張感を取り戻す。

 

 函辺が姿勢を正し、ドアを二度ノックする。

 

「武装風委員委員長、小鬼田 函辺です。草陰 春乃様をお連れしました」

「ふむ、入れ」

 

 甲高い澄んだ声が返ってきた。

 

「はっ、失礼します」

 

 静かにドアを押し開ける。

 そこで半歩退き、春乃に入室を促す。

 

「どうぞ、草陰様」

「ありがとう」

 

 室内は約十畳。正面の大きな窓から、対面の第三校舎が見えた。

 窓に近づけば広い校庭が一望できるはずだ。

 

 春乃から見て右側の壁には、天井に届きそうなほどの本棚。

 左手の方には木製のチェスト。

 それに応接用のソファーとテーブルが置かれていた。

 

「函辺、ご苦労だったな」

 

 その声に春乃が目を正面に戻す。

 

 窓の前に書斎机と椅子があった。

 机は木製で重厚な造り、椅子は豪奢な革張だ。

 

 今、椅子は後ろを向いている。春乃に見えるのは背もたれだけ。

 

「もう、いいぞ。外で待っているが良い」

「はい。では、失礼します」

 

 ドアが小さな音を残して閉まった。

 

「あの……」

「ようこそおいでくださいました。草陰様」

 

 机に近寄ろうとした春乃の背後から声が届いた。

 

 入り口の脇。

 ドアが開いていると死角になる位置に細身の少女が立っていた。

 

 

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