《05-17》

「お待ち下さい、まろみ様」

「なんだ、函辺」

「草陰は友人です。説得の機会を」

「この期に及んで説得だと?」

「お願いします。自分の心中をお察し下さい」

 

 深々と頭を下げる函辺に大きく溜息をつくと、殊更面倒そうに頷いた。

 

「ふん。だが余は時間を無駄にするのを好まん。くれてやれるのは三分だ」

「ありがとうございます。では、少し離れて頂けませんか。彼を刺激したくありません」

「ん。まあ、いいだろう」

「遠導、那須、まろみ様を頼む。第一班は不測の事態に備え、現距離を保ったまま待機だ」

 

 軍服のまろみが距離を開け、彼女を護るために二斑、三斑が下がった。

 函辺の第一斑だけが春乃達を囲む。

 

 包囲は手薄になったが、意識のないまろみを抱えて逃げるのは難しい。

 

「草陰、一緒に来い。お前達の安全は自分が保障する」

「そうだよ。私達、春っちに暴力を振るったりしたくないんだよ」

 

 春乃の後ろから桜木が続く。

 その言葉に第一班の全員が頷いた。

 

「ありがとう。ハコベさん、桜木さん、それにみんなも。でも僕には、偽者にまろみたんを渡すなんてできない」

「落ち着け、草陰。お前の腕にいる方が偽者だ。確かに顔つきは似ているが」

「違う。こっちが本者のまろみたんだよ。ずっと一緒にいたじゃないか」

 

 春乃の主張に函辺が困惑を浮かべる。

 

「何故、お前が解らないんだ。お前は自分より、もっとまろみ様に近い存在なのに」

「このまろみたんが本物なんだ」

「何を根拠にそう言い張るんだ?」

「僕がまろみたんを間違うはずがないからだよ」

 

 強い意思を込めた目で函辺を見つめる。

 

 やれやれと函辺が首を振った。

 

「そんなのが根拠とはな。主観や記憶ってのは曖昧で当てにならないんだよ」


 腰のホルスターから警棒を抜いた。

 

「自分は武装風紀委員の委員長だ。役目は心得ている」

 

 視線を春乃から、軍服のまろみに移した。

 

「申し訳ありません、まろみ様。説得は失敗です」

「それ見たことか。愚直なお前に説得等と言う真似ができるか。身のほど知らずめ。さっさとひっ捕らえて連れてこい」

「了解しました」

 

 春乃に顔を戻す。

 

「最後にもう一度だけ聞くぞ。どちらが本物のまろみ様だ?」

「何回聞かれても、答えは変わらない。本物のまろみたんは、ただ一人だけだよ」

「そうか。なら仕方ないな」

 

 くるりと踵を返し、再び軍服のまろみに身体を向けた。

 

 

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