《05-15》

「あぁ」

 

 呼気と共に弱々しい声が漏れた。

 膝から力が抜け、後方に倒れていく。と、その身体が背中から支えられた。

 

「まろみたん!」

 

 気を失い、ぐったりともたれ掛かってきたまろみに思わず声を上げる。

 

 咄嗟の行動だった。

 まろみの足が覚束ないのを見て、反射的に駆け出したのだ。

 倒れる前にギリギリ走り込めた。

 

「草陰 春乃、やはりお前か」

 

 呟くもう一人のまろみに、春乃がキッと視線を向けた。

 

「なんてことをするんだよ! 頭をぶつけたりしたら、どうなると思っているんだ!」

「うるさい! 黙れ!」

 

 憤る春乃に、それ以上の感情を込めて怒鳴った。

 

「全てお前が悪いんだ! お前が!」

 

 殺意のこもった目で睨まれ、春乃が言葉を飲み込む。

 

「草陰!」

 

 近づいてきた函辺達に、軍服のまろみが僅かに距離を開ける。

 

 両手に警棒を構えて、春乃達を庇う位置に函辺が立った。

 一気に踏み込んで打ち倒すべきかと思うが、主と同じ顔に決意が鈍る。

 

「まろみたん、しっかりして!」

 

 だが、悲鳴に近い春乃の声に迷いが失せた。

 

「捕縛するぞ!」

「了解です!」

 

 隊長たる函辺の命令に、武装風紀委員第一斑は異を唱えず従う。

 

「まろみ様を救出するんだ!」

 

 二斑と三班が慌てて駆け出すが、数歩のアドバンテージは圧倒的な差だった。

 

「仕留める!」


 函辺は瞬きほどの間でまろみの眼前に迫ると、その手にした警棒を繰り出す。

 

「動くな!」

 

 触れる寸前、軍服のまろみが低い声を発した。

 

 ぴたりと函辺の動きが止まる。

 いや、彼女だけではない。

 展開していた第一斑の五名も、走り寄ってきていた二班、三班の二十名も、全員が固まっていた。

 

「そんなバカな」

 

 まろみを抱きかかえたまま、春乃が小さくこぼす。

 

「余の言葉は全ての人間を支配する。これが絶対支配者たる菜綱 まろみの力なのだ」

 

 優越感に酔いしれた表情で呟くと、春乃に視線を移した。

 

「草陰 春乃よ。このまま余についてきてもらおうか」

「嫌だ」

 

 即答する春乃に、まろみのこめかみがぴくりと動く。

 

「余の命令に抗する。ふふ、やはりな。思った通り、お前が猟犬か」

「猟犬? 猟犬ってなんだよ!」

 

 

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