《05-14》

 現れたまろみに幸一と誠二が狼狽を見せた。

 いや、二人の後ろに並ぶ武装風紀委員達もかなり驚いている。

 

「ふん。解りきったことを聞きよるな」

 

 澄んだ声が飛び込んできた。

 語尾を強める口調は、まろみの話し方に酷似している。

 

「勅令を発することができるのは、この学区の頂点に君臨する者だけだ」

 

 と、声が続ける。

 

「面白い。それほどの大口を叩くのなら、こそこそ隠れておらず出てきたらどうだ」

「いいであろ。道を開けよ」

 

 武装風紀委員第二斑と三班の列が左右に割れる。

 

 その先に立つ少女を目にした春乃達は言葉を失った。

 

 目尻の上がった大きな目に、薄桃色の形良い唇。

 肩まで伸びたストレートボブの髪。

 白銀に輝くカチューシャまで。全てが瓜二つ。

 

「余こそがこの十一学区の支配者」

 

 呆然とする春乃達を威圧するように、羽織ったマントを大きく払う。

 その芝居じみた仕草に、将校服を模した漆黒の衣装が奇妙なほどにマッチしていた。

 

「菜綱 まろみだ」

 

 学区の支配者たるまろみが二人存在する。

 その衝撃に誰もが言葉を失ってしまう。

 

「ふん。下らぬ」

 

 沈黙を破ったのはまろみだった。

 春乃の近くにいる制服姿の方である。

 

「よく見るのだ。確かに顔は余に似ておるが他は酷い物だ」

 

 そう言われて、春乃は改めて軍服のまろみを見た。

 

 距離があるので解り難いが、まろみより背丈がある。

 身体のラインも年齢相応の物だ。

 

「支配者に憧れる気持ちは解らんでもないが、子供のイタズラにしては度が過ぎるな。いいだろう。余興がてら正体を引ん剥いてやる。函辺、春乃を頼むぞ」

  

 そう残して、ずいずいと近づく。

 その背中は支配者としての自負と自信に溢れていた。

 

「お前らは控えておれ」

 

 軍服のまろみも歩み始める。

 ゆっくりとした歩調だが、視線はまっすぐ揺らぐ事がない。

 

 距離が二メートルほどになったところで、お互いが足を止めた。

 

「身のほど知らずの偽者め。絶対支配者たる余の力を見せてやろう」

 

 細い腕を組んで言い放つ制服のまろみ。

 

「やはり出てきたか。そういう性格にしてあるからな」

「何を言っている?」

「菜綱 まろみ。今、お前の仮面を外してやる」

「ふん。訳の解らんことを……」

 

 訝しがるまろみの眼前に、いきなり指を突きつけた。

 

「輝く者は一本のヤドリギによりその光を失う」

 

 意味不明の一言。

 だが、それを耳にしたまろみの顔が凍りついた。

 目を大きく見開き、ふらふらと後ずさる。

 

 

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