《06-22》
「待ってください。こんな大事な選択を他人に……」
そこで凛華が言葉を止めた。
誤解に気付いたからだ。
春乃の中には、おそらく答えが見つかっている。
ただ口にしなかっただけ。
理由は簡単。彼にとっては、優先すべき物がある。
どんな答えに行き着いても、まろみの決定に従う。
それが草陰 春乃という人間なのだ。
まろみが戦いを望むなら、どんなに無謀でも最後まで戦う。
逃げるのを選ぶなら、どんなに無様でも最後まで逃げる。
不満の欠片も見せず、穏やかな笑みを浮かべたままで。
「それに比べて、私は」
まろみを主君と仰ぎ、絶対の忠誠を尽くす。
そう誓っておきながら、自身の意見を声高に叫び、それに反すれば不満を抱く。
結局、自分は偉大なる指導者に仕える自身に酔っていただけに過ぎないのではないか。
そんな疑念が凛華の胸を締め付ける。
「草陰ってのは大した奴だな」
函辺が小さくこぼした一言に、凛華が顔を向けた。
「忠誠とか忠義とか信頼とか、そんなのとは次元が違うよ」
「そうですね。言うなれば……」
心に浮かんだ単語に、口元を微かに緩める。
「言うなれば、愛ですね」
「はあ? お前、なに言ってんの?」
似つかわしくない台詞をばっさり斬られた。
羞恥で頬を染めながら、報復に函辺の足を力一杯踏みつける。
「痛っ。いきなり何すんだよ」
「デリカシーという物を、貴方に教えて差し上げただけです」
顔を突き合わせて睨みあう二人に、
「あの」
まろみが一歩近づいた。
「正直、私は怖いです。学区の全員が敵だ、なんて言われると凄く怖いです。できれば逃げたい。春くんが近くにいてくれるなら、それ以上、何も望まないから」
言葉を切って、力なく下を向いた。
あまりに軟弱な、とは言えない。
十五歳の少女が選ぶとするなら至極当然の答えだ。
「でも」
小さく拳を作って胸に置くと、意を決し顔を上げる。
「でも、私は逃げちゃいけない気がするんです。ここで逃げちゃったら、私は本当の笑顔を失くしてしまう。そうなったら、私は約束が守れなくなっちゃう。どんなに辛くても微笑んでいられる、強くて優しい人間になるって約束したのに」
弱々しく揺れていた瞳に強い意思が浮かんだ。
「だから、私は残って戦いたい。戦って勝ちたい。お願いです。私に力を貸して下さい」
一息にそう言うと、二人に深々と頭を下げた。
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