《03-01》

【3】


 翌朝、春乃は九時前に起床した。

 

 昨夜はぐっすり眠れた、体調は万全。

 頭痛は欠片もない。

 

 シャワーを浴び、身支度を済ませると、まろみの執務室に向かう。

 服装は学校内に入るという点を考慮し、制服を選んだ。

 

 執務室に着いたのは九時五十五分。

 理想的な五分前行動だ。

 

 軽く拳を作ってドアを二度叩く。返事がない。

 

「まだ来てないのかな」

 

 しばらく間を開けて再度ノック。やはり返事はない。

 仕方なくドアにもたれて待つ事にする。

 

 一方、電気が消され遮光カーテンで暗くなった執務室内では、三人の少女が顔を突き合わせていた。

 

「なんという正確な五分前行動。これは感嘆に値します」

「草陰様って真面目なんですね」

「ふむ、春乃は子供の頃から時間に正確だったからな」

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 三時間前。午前七時。

 

「まろみ様、大丈夫ですか?」

 

 休日だというのにメイド衣装に身を包んだ鈴奈が尋ねた。

 

「顔色が優れないようですが」

 

 こちらも休みだというのに制服姿の凛華が続けて問う。

 

「問題ない。ただの睡眠不足だ」

 

 答えるまろみは凛華と同じように制服を着ているが、その顔は随分と酷い物だった。

 

 真っ赤に充血した目。その下にうっすらと出来たクマ。

 いつも綺麗な肌も、丁寧に梳いたはずの髪も、すっかりくすんでいる。

 

「一睡もできなかったのだ」

 

 力なく呟いたまろみに、鈴奈が眉を曇らせる。

 

「草陰様との約束、日取りを変更されてはいかがでしょう」

「鈴奈よ。余は学区の支配者、菜綱 まろみだ。睡眠不足ごときに負けるわけにはいかん」

「でも、このままでは、まろみ様のお身体が……」

「涼城さん、まろみ様のお気持ちを察してください」

 

 凛華の言葉に鈴奈が小さく息を飲んだ。

 

「いえ、出過ぎたことを口にしました。まろみ様を支えるのが近衛侍女隊の務め。この涼城 鈴奈、微力ながら精一杯お仕えさせて頂きます」

 

 力強く宣言すると、愛用のメイクボックスを取り出した。

 

「まずは、お顔を」

「ふむ、頼んだぞ。春乃に無様な顔を見せるわけにはいかんからな」

「はい。お任せください」

「凛華よ。頼んでおいた物はできているか」

「はい。こちらになります」

 

 レポート用紙の束を差し出した。

 

 

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