《02-16》

「ご安心を。この凛華にお任せください。個人的な趣味ではありますが、私は多くの恋愛を扱ったコミックやノベルを目にしてきました。万全の準備を整えて御覧に入れます」

「それは心強いな。期待しておるぞ」

「はい。お任せください」

 

 二人で悪党顔負けの含み笑いを交わした。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

「随分と待ったぜ。草陰」

 

 校舎を出て直ぐ、目の前に一人の少年が躍り出た。

 昨日の襲撃者、『ハルベルデ』の構成員とされる少年だった。

 

「おいおい。そんなに警戒すんなよ」

 

 にぃっと歯を見せる。肉食獣を思わせる獰猛な笑みだ。

 

「お前はもうこの学区の生徒だ。ルール中は手出ししないさ」

「一応、ルールは守るんだね」

「当たり前だ。『ハルベルデ』は、崇高な意思を持って巨悪と戦う正義のヒーローなんだぜ」

「ヒーローがいきなり人を襲ったりしないよ」

「そりゃあれだ。時代によってヒーローも色々ってことだ」

 

 と豪胆に声を上げて笑う。

 

「で、なんの用?」

「実はお前に会いたいって人がいてな」

「会いたいって、誰が?」

「聞いて驚け。俺達『ハルベルデ』のリーダーだ」

「悪いけど」

 

 春乃が小さく首を振り、拒否の意を伝える。

 

「僕は乱暴者を好きになれないんだ」

「へぇ、意外にハッキリ物を言うじゃないか」

 

 少年の顔から笑みが引いた。

 途端に増した威圧感に、春乃は半歩下がってしまう。

 

 まさに一触即発の空気。

 それを破ったのは、穏やかで艶のある声だった。


「嫌やわ。そないつれへんこと言うやなんて」

 

 あまりに場違いな緊張感のない喋り方に、春乃が顔を向ける。

 

 校舎の方からゆっくりと歩いてきたのは女生徒だった。

 

 シンプルな表現をするなら古風な雰囲気を漂わせた美人。

 ストレートの黒髪は闇から溶け出したような深く光沢のある色を持ち、肌は対照的に淡く透き通っている。

 理想的な瓜実の輪郭に行儀良く収まっているのは、潤みのある瞳とふっくらした唇。

 

「始めまして、春乃はん。ウチが『ハルベルデ』のリーダー、桔梗 撫子(ききょう なでしこ)や。以後、よろしゅうに」

 

 優雅な仕草で会釈する。鈴蘭を模った髪飾りが小さく揺れる。

 

「君が『ハルベルデ』のリーダー?」

「意外、やろか。こう見えても、ウチは桔梗の人間なんやけど」

「君が桔梗家の?」

 

 春乃の反応に、撫子が目を細める。

 

 桔梗家は人類文化圏で富豪と呼ばれる家の一つで、軍事産業を中心とした複合大企業体『桔梗グループ』を牛耳っている一族。

 宇宙開発から他星系移住へと続く時代の波に乗り、莫大な財を築き上げた者達の末裔である。

 

 

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