《03-06》

「貴方の趣味は関係ありません」

「そもそも、その格好はなんなんだよ」

 

 呆れた声で聞かれ、凛華が微かに頬を膨らませた。

 

「これは隠密性を念頭に置いて、チョイスした衣服です。どこか不審な点でも?」

 

 凛華の出で立ちは、制服の上に黒のトレンチコート。

 更に黒い帽子を目深に被っている。

 

「まあ、服はいいや。なんで二人を尾行しなきゃいけないんだ。折角のデートだろ。そっとしておいてやれよ」

「先ほど『ハルベルデ』の動きをキャッチしました。衆目の中、仕掛けてくるとは思えませんが、先日の件もあります」

「なるほど。警戒は必要かもな。上手く行けば、何人か捕縛できるチャンスもあるか」

 

 闘争心にスイッチが入った。

 獰猛な猛禽を思わせる瞳になる。

 

「解った。桜木達に召集を掛けておく」

「よろしくお願いします。あ、隠れて」

 

 小さく声を上げると、函辺と共に手近な柱の影に身を隠す。

 

「どうした?」

 

 凛華の視線を函辺が追う。

 まろみと春乃が話しながら歩いていくのが見えた。

 かなり身長差のある二人、同学年というより兄妹という雰囲気だ。

 

「ふうん、いい感じじゃないか。あの間抜けそうな二人を見ていると、荒事に巻き込むわけにはいかないって気になるな」

「小鬼田さん、今の発言は不敬罪に当たりますよ」

 

 凛華の指摘に函辺が慌てて口を押さえる。

 

「確かに幸せそうな顔をしてらっしゃいますがね」

 

 そう継ぎ足して、細い目をより細めた。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

「そこで余は言ってやったのだ。カモノハシは哺乳類なんだ、とな」

「あはは。確かにそうだね」

 

 学区からレールロードで約十五分。

 まろみと春乃は中央モール近くのステーションに着いた。

 それから駅地下のドーナツチェーンで軽食を済ませて、ゆったりモールに向かっている。

 

 先回りした凛華と函辺が、近くに隠れているとは夢にも思わない。

 

「それを聞いたそやつの顔ときたら、蛙は両生類だと言わんばかりの物でな。余も怒りを通り越して笑ってしまったというわけだ」

「元は誤解から生まれた勘違いなのにね」

 

 最初は緊張して会話が途絶えがちな二人だったが、ようやく冗談を口にできるくらいには解れてきた。

 

 さて、とまろみは考える。

 凛華のマニュアルによると、話が弾んできたら次は女の子アピール。

 小物や雑貨等を選びながら、さりげなく愛らしさを演出するのが効果的と書かれていた。

 

 辺りに視線を走らせるが、地下は食べ物関係の店が中心、それらしい店は見当たらない。

 焦りが募る。

 

「どうしたの? まろみたん」

 

 キョロキョロし始めたまろみに気付いて、春乃が声を掛ける。

 

 

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