《03-07》

「なんでもない」

「ひょっとして、食べたい物でもあるのかな? さっきドーナツ食べたところだけど」

「余はそんなに食いしん坊ではない!」

 

 苛立ちと恥ずかしさが相まって、つい声を荒げてしまった。

 

 まろみの思わぬ反応に、春乃の表情が強張る。

 

 明らかな失言。

 まろみは慌てて記憶を検索する。

 相手を怒らせた場合の対処も書かれていたはずだ。

 いや、そんな事は解っている。

 素直に謝るだけでいい。ただ、ごめんの一言で済む。 

 

「ごめん」

 

 春乃の方が早かった。

 頭を下げると、相変わらずの優しい笑みを浮かべる。

 

「そんなに怒ると思わなかったんだ。嫌な言い方しちゃったよね。許してくれるかな」

「違う、違うぞ。春乃」

 

 ようやくにして声が出た。

 

「お前は余を気遣ってくれたのだ。その思いやりを踏みつけるようなマネをしてしまった。謝罪すべきは余の方なのだ。済まなかった」

 

 今度はまろみが頭を下げた。

 

「まろみたん」

「だがな、春乃よ」

 

 顔を戻すと、ふんっと顎を上げる。

 

「男子は己に非がなければ謝るものではない。そんなだと、軽く見られてしまう。凛華も言っていた。お前はどうにも頼りないと」

「ごめん。気をつけるよ」

「解ればいい。では、この話は終わりだ」

 

 一応の解決にまろみは安堵する。

 

「さて、これからどこに向かうかだが」

 

 偉そうに「余の偉大さを見せてつけてやる」などと言っていたまろみだが、実はモールには殆ど来た事がない。

 ルール外の場所に一人でのこのこ出掛けるのはリスクが高いし、学区の支配者となった自分と対等に遊べる人間はいない。

 しかし、何かが引っかかる。

 かなり前ではあるが友人達と遊びに来たような気がする。

 

 いつ? 誰と? ぼんやりとした記憶は一向に形にならない。

 

 段々と頭痛がしてきた。頭の中を削られるような痛み。

 

「まろみたん、大丈夫?」

 

 心配そうな春乃の顔がすぐ前にあった。

 

「なんでもない。少し考えていただけだ」

「そっか、特に予定はないんだね」

 

 服装や会話ばかりを心配して、肝心の案内については何の準備もしてなかった。

 しかし、案内してやると大見得を切った手前、ノープランでしたとは言えないのが乙女の純情。

 

「もちろん予定はある。あるがだ、お前の意見も取り入れてやるべきだと思ってな」

「そうなんだ。ありがと。僕が行きたいのはね」

 

 目を逸らしたまろみから、特に予定がないのを悟った春乃は適当な目的地を探す。

 

「あ、あそこに寄りたいんだけどいいかな?」

「ん、どこだ?」

 

 視線を追う。

 進行方向の遥か先、ジャンクフードの看板に混じって、派手に輝くネオンボードがあった。

 

「ゲームセンターか。ふん、まあいいだろう」

「僕は少しだけゲームが得意なんだ」

「それは意外だな。では、その腕を見せてもらおうか」

 

 

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