《03-05》
だが、ここがポイントの一つ。
納得できる理由を提示しないと、時間にルーズというマイナスイメージを与えてしまう。
単純に寝過ごした等というのは最悪。
ここは天候や移動手段のトラブル等、不可抗力な物を挙げておくのが正解だ。
もちろん、まろみとしては準備済み。
コホンと咳払いをして用意しておいた模範解答を述べる。
「向かい風が酷くてな。なかなか進めず遅れてしまった」
一瞬の間を置いて、春乃は穏やかに微笑む。
「そうか、大変だったね」
まろみの談を鵜呑みにしたわけではない。
実はドアの隙間から、慌てて机の影に隠れる凛華と鈴奈が見えたからだ。
そこから生徒会での用事があったのだろうと判断し、余計な追求を避けたのだ。
「じゃあ、今日はよろしくお願いするね」
「ふむ、いいだろう。余の偉大さを見せてつけてやろう」
部屋から完全に身体を出したまろみを見て、春乃が目を丸くする。
今日のまろみは、珍妙な軍服でもなければ、スタンダードな制服でもなかった。
淡いチェニックとシフォンフレアースカート。
どちらもフリルとプチリボン付きの可愛いデザイン。
襟元にはブラウンのニットスヌード。
服と対称的な色合いがアクセントになっている。
黙り込んでしまった春乃を、まろみが首を傾げつつ見上げる。
「どうしたのだ?」
「あ、ごめん」
心配気な声に小さく謝る。
「その服、すごく可愛いね。似合ってるよ」
「む」
服を褒められたら、控え目に短く「ありがとう」と言う。
この際には、はにかむのがベスト。
凛華の資料に書かれていた内容が、まろみの頭の中をよぎる。
だが実践は難しかった。
耳まで真っ赤にして、小さく頷くのが精一杯だった。
※ ※ ※
ダグダ中央ショッピングモールは、その名の通り衛星『ダグダ』の中央にある。
各学区とはクモの巣状に張り巡らされたレールロードで結ばれており、休日ともなればダグダで生活する学生達でごった返す。
今日もパステルカラーで綺麗に染められたフロアを、堅苦しい学校生活から解き放たれた生徒達が歩いていた。
学区の制服そのままの者もいれば、お洒落な私服に身を包んでいる者、大きなリュックを担いだ個性的なスタイルだって見える。
左右に店舗が並ぶメインルートから少し外れたステーションとの連結通路。
「勘弁してくれ。趣味じゃないんだよ、そういうのは」
函辺が溜息をこぼした。
彼女には珍しく、不満のこもった顔をしている。
デニムの上下にシンプルなデザインのシャツ。
動きやすさを重視した簡素で愛想のない格好だが、その恵まれたスタイルのせいか実に魅力的に映える。
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