《03-04》
「作法なのか?」
「作法なんですか?」
「はい。遅れることで男性の気を揉ませ、会った時の喜びを増加させる効果があります」
「なるほど、理に適っておるな」
「まろみ様、恋愛は想いだけでは成り立ちません。きちんと手順を踏まえ、作法通り振舞わねばならないのです」
「華道や茶道に通じる物があるということか」
「その通りです」
「難しい物なのだな。余に上手くできるであろうか」
「その為の資料です。恋愛経験のない私が作成した物、完璧かと問われると胸の張れない部分はあります。ですが、文献を調べ上げ、出来る限りの物に仕上げたつもりです」
言い切ると時計を確認。十時五分。
遅刻しているのに予定通りの時間だ。
「では、まろみ様、そろそろお時間です」
「うむ。そうか」
背筋を伸ばした。
その顔には迷いも不安も既になく、静かなる闘志に満ちていた。
「まろみ様、ご武運をお祈りしています」
「まろみ様に不可能はありません。勝利を確信しております」
凛華と鈴奈が姿勢を正し、踵を揃えて敬礼する。
まろみは大仰に頷くと、くるりと背を向けてドアに向かう。
と、途中で足を止めた。
「鈴奈よ、素晴らしい衣装を準備してくれた。嬉しく思うぞ」
「そんな! もったいないお言葉です! ホントにもったいない」
「凛華、貴様の知恵が余の不安を取り除いてくれた。感謝しておる」
「それが私の務めなれば、いかなる時でも、できる限りのことを」
「素晴らしい部下に恵まれておる。余は果報者だな」
「まろみ様」
重なる二人の声は感激に湿っていた。
「では行ってくる」
ドアの前まで進むと、呼吸を整えてノブを掴む。
そのまま一気に開いた。
「うわっ!」
直後。間抜けな悲鳴が上がった。春乃だ。
もたれていたドアが急に開いて驚いたのだ。
まろみの方も驚いた。
まさか春乃がドアにもたれているなんて思ってなかった。
廊下の真ん中で半分振り返った状態の春乃と、ドアを開けて顔だけを出しているまろみ。
微妙な空気が二人の間に流れる。
時間にして約十秒。
先に我に帰ったのは、春乃の方だった。
いつも通りの優しい笑みを浮かべる。
「おはよう。まろみたん」
「む、おはよう、春乃。少し待たせてしまったようだな。すまぬ」
「気にしないで。さっき来たところだから」
「ふふ、やはりそう来たか」
まろみがぼそりと呟く。
凛華謹製の資料に書かれていた、想定通りのやり取りだった。
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