《07-24》

「オニハコ、あいつの戦い方で気付いたことがある」

「奇遇だな。自分もあいつのカラクリが解ってきた」

「なら話が早い。チャンスは一回きりだ。合わせろよ」

「美味しい役を持っていかれるのはムカつくが、しょうがないな」

 

 覚悟を決めて頷く。

 

「作戦タイムは終了? じゃあ、いくよ! ホンキだからね!」

 

 桜木が駆け出そうとした瞬間に合わせて、萩人がコインを投げつけた。

 

 機先を制された桜木だが、焦る事なく全て叩き落とす。

 

 その間に踏み込んだ萩人が大きく跳躍。

 後ろから函辺も距離を詰めてきていた。

 

「ふうん。上下からの挟み撃ちか。ちょっとは工夫してるけど」

 

 桜木の目が上、先に攻撃が到達するであろう萩人の動きを追う。

 

 そこに警棒が飛んできた。

 函辺が棍を二つに分解して投げつけたのだ。

 

「をっと」


 桜木は微塵の動揺もなく、軽く出した右足であさっての方向に弾き飛ばす。

 

 僅かではあるが桜木の体勢が崩れた。

 その刹那の隙に萩人が拳を繰り出す。

 残った力を集めた渾身の一撃。

 触れれば終わりの必殺のスタンハンド。

 

 それでも届かなかった。

 スウェーする桜木の前髪を掠めるのが限界だった。

 

 すぐさま桜木が反撃に入る。

 普段の掌打ではなく、硬く握った拳を繰り出す。

 

 その一撃が触れる寸前、萩人の身体が大きく痙攣した。

 自身の左手が脇腹に当てられ、スタンハンド特有のスパークが起こっていた。

 

 桜木が驚きに目を見開く。

 

 直後、拳が萩人の腹に命中。

 しかし今までのような信じられない威力はなかった。

 逆に落下してきた萩人の身体に巻き込まれ、半ば押し潰されそうになる。

 

「うわわわわわわ!」

 

 桜木が狼狽の声を上げた。

 

 辛うじて踏ん張る桜木の後ろに、函辺が素早く回り込んだ。

 桜木が反応するよりも早く、首に腕を巻きつけ締め上げる。

 

「あぎぎぎぎぎぎ」

 

 振りほどこうと懸命に力を込めるが、単純な腕力勝負ではどうにもならない。

 

 やがて「きゅぅぅぅぅ」と情けない呻きを漏らして、ぐったりと力が抜けた。

 

「まったく手間掛けさせやがって」

 

 締めを解くと、桜木の身体をそっと足元に寝かせた。

 口の端から垂れていた涎も、ついでに拭ってやる。

 

「やっぱ最後の最後は正義が勝つんだよ」

 

 大きく息を吐くと、倒れている萩人に目を向けた。

 

「気に食わないが、お前の正義とやらも認めてやるよ。ほんのちょっとだけどな」

 

 そう残すと、脇腹を押さえながら校舎に歩を進める。

 

 

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