《07-23》

                    ※ ※ ※

 

 

 萩人のコンビネーションパンチを掻い潜ると、桜木はその胸元を軽く押した。

 それだけで萩人の身体は大きく後ろに跳ね飛ばされる。

 

 すぐさま身体を反転。

 迫っていた函辺の棍を避けると、密着するように軽く体当たり。

 今度は函辺が地面を転がる。

 

「くそっ」

 

 函辺が棍を地面について、どうにか身体を起こす。

 何度も倒れて服は土で汚れ、顔にまで痣ができている。

 

「この化け物が」

 

 立ち上がった萩人だが、その足は自身の体重を支えるのすら辛い。

 破れた制服からは着込んだボディアーマーが覗き、額からは血が流れていた。

 

「もう止めようよ。これ以上は危ないよ」

 

 一方の桜木はと言えば、呼吸すら乱れていない。

 函辺の棍が左頬を掠めて、少し赤くなっているのが唯一のダメージだ。

 

「これほどの差があるなんてな。自分が不甲斐なくなるよ」

「同感だな、オニハコ。俺も自信がなくなりかけてたところだ」

 

 二人掛りでも、全く歯が立たない。

 しかし戦意は未だ健在だ。

 

「二人とも、すっごく強いよ。ただ相手が悪いだけ」

「桜木、それがフォローか? 神経を逆撫でしているだけだぞ」

「いい気になるなよ、女相手だから手加減してやってるだけだ」

 

 函辺の棍が、萩人の拳が襲い掛かるが、やはり桜木の卓越した体捌きには虚しく空を切るばかり。

 数度の応酬で、二人はまたしても地面を転がる羽目になった。

 

 度重なるダメージは、既に限界を超えていた。

 それでもなお立ち向かおうと、闘志を漲らせる。

 

「どうして? 勝てないのに。こんなに差があるのに。無駄なのに。辛いだけなのに。なんで?」

「さっきも言ったろ。自分の中に正義があるからだ」

「そんなのは簡単だ。俺の中に正義があるからだ」

 

 桜木の問いに、二人が同時に答えを返した。

 と、互いの言葉に違和感を覚え、

 

「何が正義だ。『ハルベルデ』なんかに正義があってたまるか!」

「何が正義だ。生徒会の連中なんかに正義があってたまるか!」

 

 怒声を上げて睨み合う。

 

「なんかよく解んないからいいや。もう、どうでもよくなってきたし。もう、手加減しないから。ホンキでいくから。死んでも恨んだりしないでね」

 

 今まで自然体だった桜木が始めて腰を落として構えた。

 

 

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