《02-02》
「む、そうなのか。いや、凛華がそう言うのだから……」
「はい。間違いありません」
何を根拠にそう言い切れるのかは不明だが、その自信に満ちた表情は、百の言葉より雄弁に己が主張の正当性を語っていた。
「まあ、余は春乃が外見に惑わされるような、底の浅い人間だとは思っていない」
「そうです。そんなつまらない男であれば、校庭に埋めてしまえばよろしいかと」
「微力ながら近衛侍女隊もお手伝いをさせて頂きます」
「ふむ。頼りにしておるぞ」
物騒な冗談で笑みを交換する。
「しかし、なんだな」
まろみが時計を見た。時間は六時十分。
「準備万端整ったが、まだ随分と時間があるな」
「草陰様がこちらに来られるのは、八時過ぎと想定されます」
「じゃあ、あと二時間くらいありますね」
「ふむ、長いな」
※ ※ ※
頭が重い。身体がだるい。春乃の目覚めは最悪だった。
函辺達は日付が変わる頃まで警護を続けてくれた。
彼女達が自室に戻ってから、直ぐベッドに入った。
ゆっくり眠ったはずなのに調子が悪い。
とりあえずトーストで朝食を済ませたが、気だるさは解消されなった。
「初日だし、少しくらい無理しないと」
休んで寝ておきたいところではあるが、転校初日からはそれはないだろう。
それに今日は金曜日。十一学区は週休二日制。一日頑張れば休めるのだ。
鈍い頭痛に辟易しつつも制服に着替える。
時計の針は七時三十分を過ぎたところ。
始業には早いが、まろみに頼まれているカメの世話がある。
早過ぎるというほどではない。
通学鞄を手にして部屋を出ると、階段を駆け下り外へ。
十月。
人工の四季とは言え、秋らしい澄んだ空気は心地良い。
花壇に揺れる淡い花々を横目に、アプローチを通って門を潜る。
そこで。
「やあ、転校生」
後ろから届いた柔らかな声に振り返る。
小柄な少年だった。しかも、極端に背を丸めた姿勢の為、より貧弱に感じる。
同じ十一学区の制服を着ているが、身体に比べ二回りは大きくぶかぶか。
袖も余って手が完全に隠れていた。
目深に被ったキャップと、黒縁の不恰好な眼鏡。
白いシンプルなマスクが顔の下半分を覆っており、顔は殆ど見えない。
「ふうん。思ったより冴えない顔だね。ちょっとがっかり」
突然の酷評に春乃が苦笑した。
「おや、怒らないのかい? 初対面の相手にこんなこと言われて」
「嬉しくはないけど。適切な反論も見つからないし、あんまり外見に自信もないし」
「転校生、君は面白いね。ちょっと気に入ったよ」
分厚いレンズの向こうで、目が細められた。
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