《02-15》

 大袈裟に息をつくと、やや思慮深い表情を作る。

 

「しかし、私も女子。春乃様にあらぬ誤解を与えねば良いのですが」

「あ、あらぬ誤解だと?」

「私も特定の方とお付き合いしているわけではありません。もし、春乃様に好意を抱かれた場合、上手くお断りできる自信が……」

「な!」

 

 絶句するまろみ。

 

 彼女の脳内に、黄色い花が敷き詰められた広大な花畑で、スキップしている凛華と春乃が上映される。

 

 ぷるぷると小刻みに震えるまろみを置いて、凛華が春乃の方に向き直った。

 しゃがみこんで亀にキャベツを食べさせている春乃に頬を緩めそうになるが、小さく咳払いをして堪える。

 

「春乃様、先ほどの話ですが、まろみ様はご都合が……」

「待て! 待つのだ!」

 

 まろみが割り込んだ。

 

「春乃、明日の件だがな。その、余が直々に案内してやろうと思うがどうだ? むろん、嫌なら無理にとは言わん。無理にとは、言わんが」

 

 赤くなった顔を、ぷいっと逸らした。

 

「余は忙しい。その余が特別に、いいか、特別にだぞ。時間を割いてやろうと言っているのだ。その点を踏まえてだな……」

「うん、まろみたんにお願いしていいかな?」

「余と二人だぞ。そ、それでもいいのか?」

 

 その一言に、今度は春乃の方が照れくさそうに視線を外しながら。

 

「もちろん。話したいこともあるしさ。嬉しいかなって」

「そこまで言うなら仕方ない。特別に時間を割いてやるのだからな。感謝するんだぞ」

「うん、ありがとう」

 

 余りに恥ずかしい会話。

 他人が聞けば、石の一つでも投げたくなるやり取りだが、間近で聞いていた凛華は満足気に頷くだけだった。

 

「まろみ様、そろそろお時間です」

「そうか。もうそんな時間か」

 

 時計に目を移した。十七時少し前。

 

「十七時からは生徒会としての活動があるのだ。済まぬな」

「そっか、色々と忙しいんだね」

「ふむ、そうだ。支配者に自由は少ないのだ」

「春乃様、キャベツをお預かりしましょう」

 

 凛華がすっと進み出て、球状野菜を受け取る。

 

「春乃、明日だがな。十時にこの部屋に来るんだぞ。いいな、遅れてはいかんぞ」

「うん。楽しみにしてるよ。じゃあ、また明日」

 

 部屋を出る春乃を見送ってから、まろみが口を開く。

 

「聞いたか。楽しみにしているだと。恥ずかしい奴だな。モールに出掛けるだけだと言うのに」

「まろみ様とご一緒できるのが嬉しいのでしょう」

「む、そうか、そうなのか。やれやれ困った奴だな」

 

 と、輝かせていた瞳が曇る。

 

「しかし、凛華よ。余はデートという物の経験が、その、全然ないのだ」

 

 

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