《05-19》

「安心しろ。あれは偽者だ」

「偽者とかは関係ないよ」

「四の五の言うな。今は敵を排除することだけを考えろ」

「解ったよ」

 

 やれやれと小さく首を振ると、身体を低くして駆け出した。

 

「あ」

 

 春乃が小さく漏らした。

 桜木の向かったのが正面ではなく、直ぐ近くに立っていた一斑のメンバーだったからである。

 

 かすめるようにすれ違った。としか春乃には見えなかった。

 次の瞬間、小さな呻きと共に一人が倒れる。 

 

 春乃の脳が状況を理解するよりも早く、桜木は二人目に駆け寄っていた。

 ほっそりとした指先が首元にふれる。

 その程度の事にも拘らず、相手は意識を失い膝から崩れ落ちた。

 

「桜木、お前」

 

 函辺がその一言を絞り出した時には三人目と四人目が、つまり全員が力なく地に倒れ伏していた。

 ぴくりとも動く気配はない。

 

「お前、どういうつもりだ」

「私ね、委員長のことが嫌いじゃないよ。すっごく大事な友達だと思ってるよ」

「どういうつもりか聞いている」

「ちょっと乱暴なトコもあるけど。一緒に居て楽しいし、すっごく大好きなんだよ」

「どういうつもりかと聞いているんだ!」

「こっちに来る前に頼まれたの。委員長が裏切ったら抑えろって」

「集合に遅れたのは、そういうわけだったのか。何故、黙っていた」

「だって内緒って言われてたし」

「だがな、本物のまろみ様は……」

「さっきも言ったけど、そういうのはいいの。私はね、条件の良い方に付くだけだから」

「条件だと?」

「あっちのまろみ様はね、座学の赤点を免除してくれるって」

「そんなことで裏切るのか!」

「私、みんなと違って座学の成績良くないもん。留年とかしそうだもん」

 

 ぷっと頬を膨らませて主張する。

 

「桜木さん」

「春っちもごめんね。今度、お昼奢ってあげるから」

 

 小さく手を合わせて、ごめんなさいのポーズを作った。

 

 いつもと変わらない話し方と仕草が、逆に彼女の主張が覆らない事を感じさせる。

 

「そういうわけで、抵抗とかしないで。抵抗するなら戦わないといけないじゃん」

 

 桜木の一言に函辺の表情が強張る。

 

「私、弱いもの苛めって嫌いなの。だからね、ここは大人しく……」

 

 

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