《07-11》

「まろみ様!」

「なんだそれは! 偉大な余の僕としての誇りを示せ!」

「まろみ様! 我らの救世主!」

「偉大なるまろみ様に栄光あれ!」

 

 一声毎に、より強く、より誇らしく、より声高に変わっていく。

 

「まだだ! 余を讃えろ! 足りぬ! 全然足りぬぞ!」

「我らの絶対支配者! 偉大なるまろみ様!」

「栄光あれ! 我らがまろみ様に栄光あれ!」

 

 やがてそれはグラウンドを揺るがすほどの物となった。

 

 その状況に最も戦慄したのは、まろみ本人であった。

 熱狂の渦にあてられ、彼女の精神は瞬く間に限界近くまで圧し込まれた。

 支配者の仮面を失った菜綱 まろみという人間では、その圧力に耐える事などできようはずがない。

 膝が小刻みに震え出し、見開いた目からは涙がこぼれそうになる。

 

「安心して。まろみたんの後ろには僕がいるよ」

 

 春乃の一言が耳に届く。

 彼はまろみから半歩下がったところに立っていた。

 

 溢れそうになっていた想いが、砕けそうになっていた心が、すうっと元に戻った。

 

 小さく息を吸うと、後ろを向けたまま固まっているもう一人のまろみに視線を向けた。

 

「余の名を語る偽者め! 覚悟はできているのだろうな!」

「ふふ、ふふふ。そうか、そういうことか」

 

 軍服のまろみが、ゆっくりと振り返った。

 

「何かのはずみで仮面が戻ったのか。いや、違うな。戻した者がいるのだな」

 

 怨嗟で血走った目がまろみから、春乃に移る。

 

「草陰 春乃! やはりお前の仕業か! 忌々しい猟犬め! あの時に始末しておくべきだった!」

 

 憎々しげに床を踏み鳴らした。

 

「もうこれまでだよ。観念するんだ」

「観念だと! それはこっちの台詞だ!」

 

 キッと傍らの凛華を睨みつける。

 

「何をしている! 奴らを捕らえろ!」

「残念ですが、私がお仕えするのは、本物のまろみ様だけです」

「なんだと!」

 

 吠えるまろみに、凛華がくいっと左手で眼鏡を上げる。

 

「もう、貴方に逃げ場はありません。チェックメイ……」

「観念しな! チェックメイトだ! お前に逃げ場はない!」

 

 クールな決め台詞を押し退けて、函辺が指揮台に駆け上った。

 

 無作法な所業に凛華の眼鏡がずり落ちる。

 

「まったく」

 

 小さく息をつくと眼鏡を直し、軍服のまろみに対峙した。

 

 

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