《02-05》
「ど、どうして? ハコベさんが?」
「こんな時間に女子が通用門から出入りするのは問題があると思ったのでな。非常用の北門を開けてもらって、お前の部屋に向かったんだ。行き違いになってしまったが」
「他のメンバーはね、正門側で待つ予定なんだ。もうすぐみんな来るから」
「そうなんだ。びっくりした」
上手く話を逸らした事に安堵する。だが。
「話は終わってないぞ、草陰。今のは酷く傷ついた」
「その、ごめんなさい」
「謝るな。余計に惨めな気分になる」
「いや、そうじゃなくて」
「男子たるもの、情けない顔で言い訳をするな」
ぐっと襟首を掴んで引き寄せると、腕を回して抱き込んだ。
女子らしい柔らかい感触と、柑橘系のオードトワレの微香にドキッとしたが、そんな甘い気持ちは次の一瞬で消し飛ぶ事になる。
硬く握られた拳が、側頭部にぐりぐりと押し付けられたからだ。
時間にして約三分。春乃は地獄を存分に味わった。
※ ※ ※
コンコンとドアがノックされた。
執務室。
革張りの豪華な椅子に座って、足をぷらぷらさせていたまろみの肩が跳ねる。
「まろみ様」
側に立つ凛華が小さく声を掛ける。
「うむ、解っておる。解っておるぞ」
ハンドミラーで、タイを確認。
カチューシャの位置を微調整して、前髪をそっと撫でる。
再びのノックに二人が素早くアイコンタクト。
まろみが頷いて準備完了を伝えると、凛華がドアに顔を向けた。
「どうぞ」
「失礼します」
穏やかな声に、ノブの回る金属音が続く。
「き、きた」
支配者らしからぬ一言を漏らし、椅子をくるりと回転。
ドアに背を向ける形になった。
「あ、おはようございます、御形さん」
軽く頭を下げながら、部屋の中に春乃が入る。
「おはようございます。草陰様、昨夜は良く休めましたか?」
「はい、お陰様で」
「それはなによりです。まろみ様、草陰様がお見えになりました」
椅子の背もたれに隠れ、不安気にリボンタイを弄っているまろみに告げた。
「ふむ、そうか」
「おはよう。まろみたん。あのさ、昨日も言ったけど、背中を向けたまま……」
「うむ、解っておる。解っておるぞ」
目を閉じて大きく深呼吸を一つ。
よしっと小さく呟くと、春乃の方に椅子を向けた。
「おはよう。まろみたん」
春乃が微笑む。
その懐かしくも優しい表情に、まろみは顔が熱くなるのを感じ、慌てて視線を逃がした。
「お、おはよう。き、昨日は良く休めたか?」
「うん、ぐっすり休めたよ」
「そうか。それはなによりだ。その、生活に不便があれば、なんなりと言うがいい」
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