第141話 モンスターの波
翌朝。
子どもたちと一緒に朝食をとったわたしたちは幌馬車にシルバーとウーマを繋げて屋敷を出、西に続く街道までカディフの中を移動した。カディフ内は馬車の往来も多かったのでキアリーちゃんが御者役になった。
街中では他の馬車と変わらない速さで馬車は進んでたけど、ナキアちゃんの祈りで軽くなっている関係で2頭の足取りはすごく軽い。馬車がカディフの門を出て街道に入ったあと御者を代わったわたしは速度を上げた。
わたしたちの幌馬車は軽快に街道を西に向かって進んでいった。今までだと街道を進んでいれば煩瑣に対向馬車とすれ違ってたんだけど、今日は対向馬車が農作物を積んだ比較的小型の荷馬車だけだったので馬車を右に寄すことなくまっすぐ進めることができて御者役としては楽ちんだった。
「ゴルレウィン方向からの馬車が来ないのじゃが? 普段ならそれなりの馬車がカディフまでやってきておったのじゃが、はて?」
「確かに今まですれ違ったのは近くの村からカディフに行くような荷馬車ばかりだったね」
「ゴルレウィンで大きな祭りでもあるのかな?」
「それなら楽しみが増えるのじゃ」
異世界のお祭りか。お
昼休憩の前に馬車は国境を越えた。立て看板が立っているだけの国境だった。こんなものだと言われればこんなものなのだろう。
馬車を進めるのには楽なんだけど、国境の手前くらいから一台も対向馬車に出会わなくなった。ほんとに国を挙げてのお祭りをしてるのかしら?
街道のずっと先に山並みが見えてきた。都内から富士山を見るような感じなので距離的にはまだかなりある。街道もわずかだけど上りになってきている。
空は青空でところどころ綿雲が浮かんでいる。のどかだなー。とかのんきな気持ちで手綱を握っていたら、街道の向こうの方に砂塵のようなものが沸き上がっていた。何だろうと思い隣に座っているキアリーちゃんに手綱を渡してわたしは不射の射の構えで、前方をズームして見た。
無数のオーガと地面を覆いつくすほどのゴブリンが砂塵をまき上げ波のように連なってこっちに向かってきていた。なにこれ?
「ゴブリンを連れたオーガが向かってきてる。数は多すぎて数えきれない」
すぐにキアリーちゃんは馬車を止めた。街道周辺は荒れ地で障害物になるようなものはほとんどない。戦場という意味では理想的だ。
もちろん今のわたしたちは普段着だけど、キアリーちゃんもナキアちゃんもアイテムボックスの中に防具や武器も入れている。今からだと鎧を着るのは無理そうなのでヘルメットを被ってサンダルからブーツに履き替え、手袋をはめた。
ナキアちゃんのヘルメットは祈りのヘルメット。
キアリーちゃんはアイテムボックスから取り出したベルトを締めて、そのベルトにモンスタースレイヤーを下げライトニングロッドを突っ込んだ。手袋はパワーグラブ。ブラックシールドを左手に持ち準備完了。
シルバーとウーマが心配なのでわたしたちは2頭の前に立った。そこでナキアちゃんがメジャーシールドを唱えた。そしたら、わたしたち3人だけでなくシルバーとウーマも透明な膜のようなものに包まれた。
防御魔法っぽいところがなかなかいい。鎧は着ていないけどこれで防御については一安心。
わたしは不射の射、キアリーちゃんはライトニングロッド、ナキアちゃんは右手を前に出してファイヤーボールの射撃体勢に入った。
オーガとゴブリン程度ならアドレナリンダッシュを使うほどでもない。温存一択だ。
モンスターたちが近づいてくる前にキアリーちゃんのライトニングロッドの電撃の射程を試し撃ちで測ったところ、射程は100メートルくらいだった。
わたしの不射の射の射程は300メートルちょっとでナキアちゃんのファイヤーボールの射程が150メートルくらい。なのでわたしが200メートル前後のモンスターを狙って攻撃しわたしの攻撃を生き残って150メートルラインを抜けたモンスターをナキアちゃん、ナキアちゃんが討ち漏らしたモンスターをキアリーちゃんがライトニングロッドで攻撃することにした。
モンスターが接近して、レーダーマップに映り始めた。思った通りレーダーマップに映ったのは赤い点の集まりではなく赤い面だった。
一番長い射程を持つわたしが不射の射でオーガを狙い撃ちしていった。
オーガに率いられていたゴブリンたちは、自分たちの先頭を走っていたオーガがたおれてもそのまま前進を続け150メートルラインに到達した。そこでナキアちゃんのファイヤーボールが周囲を巻き込んで爆発する。
ファイヤーボールとファイヤーボールの間を縫ってゴブリンが近づいて来る。そこにキアリーちゃんがライトニングロッドで電撃を放った。
キアリーちゃんのライトニングロッドから放たれた電撃は目標に命中したらそこから近くのモンスターに稲妻が分岐してまとめてなぎ払った。これってチェーンライトニングじゃん。
押し寄せるモンスターはオーガとゴブリンなので簡単にたおせるんだけどとにかく切りがない。
モンスターたちを攻撃しながら3人でおしゃべりが始まった。
「馬車と出会わなかったのは、祭りのせいではなかったようじゃな」
「モンスターがあの数で街道をこっちに向かってくるということは、モンスターがどこから現れたのわからないけど、通り道になった村や町は大変なことになってるよね」
「全滅しておるじゃろうな」
「魔族はもうモンスターを送り込まないと言ってたのに」
「うん。どうしたんだろう。一段落したらプリフディナスに跳んで行ってそこらを確かめてくるよ」
モンスターたちを50メートル以内に近づけないまま一方的殲滅が30分ほど続き、それでやっとモンスターが片付いた。そのうちまた湧いて出るかも知れないけど、5分や10分わたしがいなくてもだいじょうぶと思って、これからプリフディナスに行くと二人に告げた。
「プリフディナスに行って確かめたらすぐに戻るよ」
「そうじゃな」「わかった」
明日香のプライベートルームに直接転移できたけど、それはさすがにマズいと思い、プリフディナスの宮殿にある自分の部屋に転移した。そしたらいきなりレベルアップのシステム音が頭の中に響いた。
すっかり失念してたけど、ここでレベルアップしたということはまだ戦闘中だったんだ。で、わたしだけ戦線離脱した扱いでレベルアップしたんだと思う。早く帰らなくちゃ。
システム音が3度続き、レベルが3つ上がった。ステータスはこうなった。
レベル80
SS=14
力:75
知力:57
精神力:49
スピード:99
巧みさ:94
体力:51
HP=510
MP=2850
スタミナ=510
<パッシブスキル>
ナビゲーター
取得経験値2倍
レベルアップ必要経験値2分の1
マッピング2(98パーセント)
鑑定1(5パーセント)
言語理解2(97パーセント)
気配察知1(96パーセント)
スニーク1(48パーセント)
弓術MAX
剣術8(27パーセント)
威風(10パーセント)
即死
<アクティブスキル>
生活魔法1(46パーセント)
剣技『真空切り』
アドレナリン・ラッシュ
威圧
弓技『不射の射』
転移術
ステータスを見た後、呼び鈴を押したらすぐに侍女がやってきた。
明日香に聞きたいことがあるのですぐ会いたいと言ったら、明日香の私室に連れていかれた。
「静香。いきなりどうしたの?」
「モンスターの大群が出たんだよ。もう人族に向かってモンスターを放たないって言ってたんじゃなかったの?」
「わたしのところでは何もしてないわよ。今頃ジゼロンを代表とした使節団があなたの国で話をしてると思うけど」
「じゃあ?」
「わからない。とにかくうち由来のモンスターじゃないことだけは確か」
「わたしと、ナキアちゃん、キアリーちゃんならどうってことないモンスターなんだけど、わたしたち以外じゃ軍隊だって押しとどめられそうもないような数だったんだ。今回たまたまわたしたちがいてモンスターをあらかたたおしたから良かったけど、わたしたちがいなかったら大ごとになってた。っていうか、モンスターたちがやってきた途中の町や村はおそらく全滅してるはず」
「わかった。その場所教えてくれる?」
「どうやって教えればいいの?」
「ジゼロンはいないから、わたしがこの目で見てくる。そこまで連れてってくれればいいわ」
「わかった。その格好でいいの?」
「だいじょうぶ。
かつら置きみたいな台の上に乗っかていた角を明日香が被ったので、明日香の手を持ってナキアちゃんたちのいる街道に戻った。
わたしが明日香を連れてきたのでナキアちゃんもキアリーちゃんも驚いていた。
「みなさん、お久しぶり」
「女王陛下、お久しぶりですのじゃ」
「お久しぶりです」
「モンスターの死骸がまさに累々。このモンスターについてはわたしの国は一切関係していないと申しておきます。しかしこれをたったの3人で?」
「数はいたけど所詮はオーガとゴブリンだったから。
それより、まだモンスターがやってくると思うんだ」
わたしは不射の射の構えで西の方向を見たら思った通りこっちに向かって何かがやってきている。モンスター以外にはないだろう。
「静香、あなた面白いことやってるけど何してるの?」
わたしの不射の射の構えを見て明日香が変な人を見るような目でわたしにたずねた。
「まあ、いろいろあるんだけど、こうすると望遠鏡で見るように遠くがはっきり見えるんだよ」
「傍目で見ると結構イタイよ」
それは、おっしゃる通りです。でもね、
「言わないでよ」
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