第10話 5日目、人里へ
わたしはちょっと危ないゴブリン討伐はやめて人里を目指そうと決めちゃった。人は低きに流れるっていうものね。
その日は地面が濡れてとても林の中を移動する気になれなかったので、マイホームの近くで簡単な作業をしたくらいだ。後の時間は洗面器の上に座って居眠りしたりして潰して、時間に成ったらシカ肉を食べた。これで焼いたシカ肉はなくなってしまった。
その日やった簡単な作業というのは、物干しに濡れたマントと昨日のズボン、それにパンツを干そうと思い物干しを作った。
まっすぐな枝を何本か見つけて小枝を払い、人型になるように地面に枝を2本突き刺して上の方をツタで結んだものを二組並べて作った。その二組の上に横木を渡して出来上がり。物干しに干す前に汚れを取ろうとクリンをかけたところ、それだけで乾いてしまった。ドンマイ。
マイホームも乾くのではないかと思ってクリンをかけたらちゃんと乾いてくれたけど、地面は濡れたままだった。
その日の夜はマイホーム内の地面がまだ濡れていたので、マントを広げてその上に寝た。
ホームレスから家持ちにランクアップしたけど見た目は変わらないかも。
それでもマイホーム。目を瞑ったと思ったら、もう朝だった。
夜が明けて、枯れ葉や枯れ枝が乾いていないようなら、いよいよ携帯食に手を付けないといけないけどだいぶ乾いていた。これなら火が着く。
明け方から、かまどに火を熾して、鹿肉を焼いていった。よく火を通して出来上がりはアイテムボックスに収納しておいた。すぐ食べられるものがないと不安だからね。その後イノシシスープを作った。食卓には汁物があった方がやっぱりいいもの。
これから人里を目指していくので、マイホームの改良は見合わせることにした。せっかく作ったマイホームだけど、人里を目指すとなるとここにおいていくことになる。
人里があるとして、おそらく途中で野宿することになる。改良前のマイホームでも収納できるなら持ち運びたいよね。
ということなので、マイホームに手をかけて収納と念じたら、ちゃんと収納できた。大きさはあるけどそんなに重くはなかったようで助かった。
アイテムボックスに収納できたけど、排出がうまくいかないとアイテムボックスから出したとたんにマイホームはバラバラになっちゃうだろうし、あらぬところに出現しても困るのでうまく排出できるか試して見た。
『排出』
思っていた場所にちゃんとした形で排出できた。これなら野宿しても快適だ。持ち運びのマイホームということは、縄文人生活からヤドカリ生活だ。これって相当な退化カモ?
翌朝。
夜明け前から起き出したわたしは、朝の支度を終えて朝食にウサギの肉を食べた。少し休んでからマイホームを収納して昨日ゴブリンたちが引き上げていった方角の逆方向、北と思われる方向に歩き始めた。木立の間から見える空には雲は見えない。今日はおそらく快晴だ。
そのまま真っすぐ北に向かって歩いていけばいずれ林から抜け出せるだろうし、人里はすぐには見つからないまでも道くらいあるはず。道があるならそのうち人に出会える。幸運度60を期待してもバチは当たらないでしょ。
拠点を後にして3時間ほど歩いて昼の休憩に入った。その3時間で、ゴブリン6匹、大ウサギ1匹を仕留めた。今まで通りゴブリンの死骸はそのままで、大ウサギについてはその場で解体はせずアイテムボックスに収納しておいた。
そして、その間レベルが1つ上がり、レベル4。SSポイントが3になり、力と知力と体力がそれぞれ1ポイント上がった。
<ステータス>
レベル4
SS=3
力:13
知力:11
精神力:10
スピード:11
巧みさ:12
体力:22
幸運度:60
HP=220
MP=110
スタミナ=220
<パッシブスキル>
ナビゲーター
取得経験値2倍
レベルアップ必要経験値2分の1
マッピング1(24パーセント)
識別1(26パーセント)
言語理解1(1パーセント)
気配察知1(21パーセント)
スニーク1(28パーセント)
弓術1(42パーセント)
剣術1(30パーセント)
<アクティブスキル>
生活魔法1(6パーセント)
昼休みの前に大ウサギを解体しておいた。
携帯食として用意しておいた鹿肉を食べ終えて、さらに半日北に進んだところでその日の北進を終え、少し開けた場所でマイホームを設営して野営の準備をした。
翌日。
夕方近くまで歩き、思惑通り、そろそろ野営の準備をしようと思っていたところで突然視界が開け、林を抜けることができた。
林の先にあったのは、ところどころに岩の突き出た荒地だった。北の方角に丘があるのが見えた。そこから南方向、つまりわたしがいた林に向かって道が伸びていた。
その道は大きな岩を避けながら通したのか不自然に蛇行していた。道幅はそんなに広くはないけど、馬車1台は楽に通れるくらいはある。逆に言えば馬車ですれ違うにはちょっと狭い。
わたしはその道まで駆けていき道をよく見たところ、馬車か何かの通ったところが轍になって、小石の転がる歩きにくい道だった。それでも道は道。林や荒れ地の中を歩くよりよほど歩きやすいのは確かだ。その先には人里があるはずだ。
もう少し遠くの方が見渡せないかと思って目に付いた大岩によじ登ろうと取りついた。この世界に来るまでの自分だったら絶対よじ登れないような岩だったけど、手がかり、足がかりを探りながら何とか上までよじ登った。
岩の上から周囲を見回したけど、その程度の高さで何か変わったものが見つかるわけでもなかった。ドンマイ。
その日はその大岩の脇にマイホームを置いてそこで休んだ。道には人も馬車も通りかからなかった。道の先には人里があるはずだけど、思った以上に遠いのかもしれない。
翌日。朝早くから北に向かう道を歩き始めた。
その道は丘に向かって緩やかな上り坂になってきた。
途中変わったこともなく、しばらく道を進んでいき、丘の頂に出た。遠くの方に、壁に囲われた街が見えた。その街の近くに1本の川が流れていて、運河か何かで川の水が街の中に引き入れられていた。
街の周辺にはところどころに集落もあるし畑も広がっていた。文明から遠ざかってまだ一週間も経っていないはずだけど、ホッとした。
目当ての街から街道が何本も出ている。そのうち南に向かう1本がいまわたしがいる道につながっている。ここから街まで10キロくらいとすると、昼過ぎには街までたどり着けそうだ。
『街の手前までの直線距離は12キロです』
考えてみると、昨日は1日で50キロ近く歩いたみたいだけれど、全然疲れも感じないし、足も痛くなっていない。ずいぶん身体スペックが向上している。スタミナが一般人の2倍を超えるのだから当たり前か。
わたしは少し足取りを速め街に向かって道を下っていった。
道は進んでいくにつれ、それなりに整備されはじめ、歩きやすくなってきた。
荷車や人の往来も多くなっている。見たところ、道を往来している人はちゃんと人間だった。当たり前か。彼らの話す言葉のうち固有名詞らしきものはまるっきりだった。それでも言語理解スキルのおかげかある程度聞き取れた。これなら話しかけてもだいじょうぶかなと思ったけれど、やっぱり人見知りなのでやめておいた。
十数軒の家屋が寄り集まった集落の周りでは畑で農作業をしている人やそれを手伝う子どもたち、集落の中では、家のまわりで大声をあげて走り回る小さな子供たち。井戸端で盛り上がっている女性たち。かなり活気がある。そういった集落を何個か通り過ぎ、昼前に街の門の前にたどり着いた。
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