第9話 4日目、備えあっても。


『ゴブリン討つべし!』なる決意を胸に、マップの空白ゾーンを埋めていった。昼食は倒木の上に腰を下ろして、昨日焼いたウサギの肉をほおばった。


 午後からの探索でうまい具合と言っていいのか分からないが、ゴブリンを3匹仕留め、鹿も1頭仕留めた。


 鹿はその場でナビちゃんの指示通り血抜きした後解体しアイテムボックスにしまった。鹿肉もかなりの量だったが、まだアイテムボックスには余裕があった。SSポイントを1ポイント使えば知力を10上げられるから、容量が200キロ増えて400キロになる。アイテムボックスの余裕がなくなったら、思い切ってSSポイントを使ってしまおう。



 それくらいで拠点に戻ったわたしは鹿肉と付け合わせのキノコを焼いて夕食にした。もも肉を厚めにスライスして金網で焼いたのだが、見事な赤身で食べ応えがあった。脂身がほとんどなかったので、ヘルシー食材なのだろう。


 ナビちゃんに鹿肉について聞いたところ、魔素の影響を受けた動物ではないので、よく火を通して食べるように言われた。イノシシの時は言われなかったのだが、あれは鍋に入れて煮たからだろうか? それともイノシシは魔素の影響を受けている動物だったのだろうか?


「イノシシってどうなの?」


『イノシシは魔素の影響を受けた動物ではありませんので、寄生虫などが潜んでいる可能性があります』


 やっぱり。


『野菜や果物などの場合、表面に寄生虫の卵などが付着していることがあります。

 よく洗えば問題ありません』


 ヤマモモはそのまま食べちゃったけど、後の祭りよね。これからはああいったものでも良く洗うし、これからは基本的によく火を通してから食べればいいって事よね。


「そういえば、植物型のモンスターっているの?」


『はい。植物型のモンスターは存在しています。独特の食感や味があり高級食材になっている植物モンスターもいるようです』


 植物型モンスターか。弓矢じゃ攻撃が効きそうにないから、剣で攻撃するしかないんだろうな。


 人は生きるために食べるわけだけど、あまり楽しみのないここでの生活だと食べるために働くって感じよね。




 食事を終えて後かたづけをした。しばらく焚火代わりのかまどに枯れ枝を突っ込んで火を焚いていたのだが、そろそろ寝ようと火を落とした。そうしたら急にあたりが暗くなった。夜空を見上げたら、雲に覆われて真っ暗になっていた。


 これは雨が降りそうだ。振り返ってマイホームを見たがいかにも貧弱だ。しかし、無い袖は振れない。マイホームの中に後ろ向きの四つん這いで入っていき、マントを上に掛けて今夜は大雨にならないことを祈りながら眠りについた。



 夜半過ぎ。


 顔に何か当たると思って目が覚めた。


 マイホームの外から雨の音がする。顔に当たったのは天井から漏れた水滴だった。明かり代わりに生活魔法のライトを指先に灯して自分自身の様子を見たら、幸いなことに着ていた服はマントのおかげで濡れてなかった。


 マイホームの中で座って外を眺めたところ、あたりは真っ暗なのではっきり見えるわけではないが、雨音からして雨の勢いはかなりある。そうこうしていたら、お尻の辺りが冷たくなった。


 再度ライトを灯して地面を見たら、マイホームの後ろの大木の幹を伝わった雨水がマイホームの中に侵入しているではないか。これは床上浸水だ。非常にマズい。


 べったり地面に座っていたせいで、パンツの中まで水が侵入してしまった。第三者的にはおもらししたように見えるのだろうが、今はそんなことを言っている場合ではない。


 非常に不快だったのでいったんマイホームから這い出たわたしはズボンとパンツを一緒におろして新しいパンツとズボンをはいた。その間に頭の上にポツリポツリと大粒の水滴が大木の葉っぱの合間から落ちてきている。


 マントを羽織ってフードを被ったわたしは、水浸しになったマイホームで寝ることもできず、洗面器をひっくり返して椅子にして雨の止むのを待った。


 10億人に一人くらい運のいい筈のわたしなんだけどなんか違うような。


 ポタポタ水滴がマントの上に落ちてくる。数を数えても仕方がないけど、ついつい数えてしまうんだよね。こう何もすることがないと。


 1000まで数えて、また1に戻るを何回かしていたら、少しずつ辺りが明るくなってきた。それとともに雨脚も弱まって来たような。


 そろそろ朝だな。


 いま何時?


『新暦1255年4月21日午前5時20分です』


 フファー。大きなあくびが出てしまった。


 それから1時間ほどで辺りはだいぶ明るくなり、雨もすっかり止んだ。わたしのいるところは大木の木陰なので大粒の雫が変わらず降ってるけどね。今回備えはあったのだが、備え自体が貧弱過ぎて憂いばかりになってしまった。


 打開策とすれば、もっと屋根兼壁にいた草を厚くしたうえで、マイホームの周囲に溝を掘って水が中に入ってこないようにする。これで解決するはずだ。


 地面がびしょびしょに濡れているうえところどころに水たまりもある。今日はマイホーム関係の作業はできそうにないし、横になることもできそうにない。周囲の探索をする気も起きない。


 マイホームがあると言っても今のわたしは実質ホームレス。ホームレスの生活がこれほどきついものだとは思わなかった。


 仕方がないのでお尻の下に置いていた洗面器を持って、水の滴る大木の木陰から出て顔を洗った。


 何か腹に入れたいのだが、昨日の残りの鹿肉しかない。朝から重いのだが背に腹は代えられないので、また洗面器をひっくり返して椅子にして、そこに座って分厚い鹿肉にナイフを突き刺して朝食にした。ご飯が無性に食べたくなった。できれば味噌汁も欲しい。ついでに納豆も。納豆はひきわり納豆だよ。などと無意味な要望を心の中で叫んでしまった。


 昨日はゴブリンを退治しようと一度は意気込んだのだが、冷静になって考えれば、ゴブリンの去っていった方角の反対側、北に進んでいけば人里があると考えていいんじゃないかな。


 レーダーマップを見ながらなら太陽が見えなくても方向を見誤らないだろうし。まだわたし自身強いとは言えない現状、ゴブリン退治よりも人里を目指した方が無難だし。地面が乾いたらここを離れて人里を目指そう。


 この世界が東洋的な世界ならお米もありそうだし。鎧とかの意匠から考えて西洋的な世界の可能性が高そうだけどひょっとすればひょっとするものね。


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