第82話 竪穴式新居


 かまどの周りに集められた薪をまとめクリンを数回かけてやったら薪が乾いた。これなら枯れ葉なしでも火が付くかもしれない。


 今の時刻はちょうど昼なんだけど、さすがに昼食を食べる気にはならない。


「お茶でも飲もうか?」


「シズカは茶道具も持っておるのか?」


「ヤカンとお茶っ葉だけね」


「それでもすごいのじゃ」


「お茶ももうずっと飲んでないもんねー」


「じゃあ火をおこすね」


 わたしは細い薪からかまどの下に入れて順に太い薪を上に組んでいった。下の細い薪にファイヤーで火を点けようとしたところで、さっきのナキアちゃんが言ってた大魔術師並の言葉を思い出した。


 今まで何も思わず火を点けていた関係でファイヤーの火加減はいつも変わらずロウソクの炎くらいのものだったんだけど、大魔術師なら火炎放射並みのファイヤーができるかも?


『強力ファイヤー!』心の中だけで叫んでみた。


 指先から出た炎は火炎放射器ってほどじゃなかったけれど、今までのろうそくの橙色と違って青い色の炎が20センチほど伸び、ほんの5秒ほどで枯れ枝に火が着いた。やってみるもんだ。


 ナキアちゃんとキアリーちゃんはわたしの作業を横で見ていたんだけど、ファイヤーの火力に驚いていた。


「やっぱりシズカちゃんは大魔術師だったのじゃ」


「そうだね」


 その後わたしは金網をかまどの上に敷いて、ヤカンの中にウォーターで水を入れて金網の上に置いた。


 そこで思いついたんだけど、ナキアちゃんの祈りで水が凍るくらいに冷たくなるなら、逆に沸騰するくらい熱くできるんじゃないかな。


「ねえ、ナキアちゃん。このヤカンの中の水だけど、沸騰するくらいに熱くできないかな?」


「言われてみれば、簡単にできそうなのじゃ。

 ……。どうじゃろ?」


 ヤカンの中の水は沸騰していなかったけどヤカンの口から湯気が出ている。蓋の上をちょっと触ったらかなり熱かった。


「いい線いってるよ。火が大きくなったらすぐに沸騰するハズだから、そうしたらこの小さい方のヤカンにお茶を入れるね」


 そう言ってわたしはお茶用の小さい方のヤカンと、瓶に入ったお茶を取り出した。


 言ってる端からヤカンが沸騰したので、お茶っ葉を小さい方のヤカンに入れて上からお湯を入れた。緑茶を熱湯で淹れたらダメダメだけど紅茶みたいな茶葉だったから問題ないよね? ナキアちゃんたちも何も言わなかったし。


 木製のコップを3つ取り出し1分ほど置いて、茶こしはないのでお茶っ葉が出てこないようゆっくりとコップにお茶を注いで二人に手渡した。


「どう?」


「フー、フー。……。

 久しぶりのお茶はおいしいのじゃー」


「おいしいね」


 わたしもフーフーしながら飲んでみたけど、紅茶だった。薄茶色の木のコップなのでお茶の色はちゃんとは分からないけど、多分赤茶色だと思う。


「お菓子はないんだけど、干しブドウとか乾燥果物の他にクルミや他の木の実もあるよ」


「なんと」


「シズカちゃんと一緒になれてよかったー」


 わたしは皿の上に干しブドウ、デーツ、クルミ、ピスタチオ、干しイチジクを盛って二人の前に出した。干しイチジクはわたしは初めてだったので最初に食べてみたんだけど、ちょっと味が薄かった。何かの料理に入れるものかもしれないけど、お茶を飲みながら何個か食べたら慣れてきて、これはこれでおいしかった。


 弥生人生活だけど、竪穴式住居とお茶でかなりレベルアップしたよね。



 お茶を飲んだりしてまったりした後、少し薪を集めておいた。狩の必要もないので野営訓練と言っても楽なものだ。



 お茶を飲んでしばらくまったりしていたところで、付近を巡って根菜とかキノコを探そうと提案した。


「キノコと緑の葉っぱはあるけど根菜はないのじゃ」


「根菜なくてもキノコを入れればおいしくなるし、楽しくなるよ」


「夕食まで体を動かさないとお腹も空かないから探しに行こうよ」


「そうじゃな。ある程度は体を動かしていた方がおいしく食べられるのは確かじゃな」


「じゃあ、頑張っていこう」



 林の奥に向かって移動しながら、根菜を主に探していったところ、玉ねぎと里イモがいくらか見つかった。これだけあれば十分だということで新居に戻ったわたしたちは夕食の下ごしらえを始めた。下ごしらえはわたしだけだけどね。ナキアちゃんとキアリーちゃんは火の落ちていたかまどから灰をかき出して薪を組んでくれた。



 玉ねぎと里イモ洗って皮をむいていたらキアリーちゃんがあのキノコを黙って差し出してきた。明日の未明あたりでオーガが襲ってくる可能性があるけど、今のわたしから言ってオーガは脅威ではないので、キノコを薄切りにしておいた。デーツも薄く輪切りにしておいた。


 ナキアちゃんとキアリーちゃんは仕事がなくなったので、しゃがんでわたしの手元を見ている。


デーツそれも入れるんだ」


「甘味でスープにコクが出るんだよ」


「へー、そうなんだ」


「シズカちゃんは料理人なのじゃ」


 玉ねぎと里イモはどちらもざっくり切って小さめの鍋にいったん入れて野菜関係の下ごしらえは終わった。


 次にイノシシ肉を角切りにして大きな鍋に入れてかまどに火を入れた。イノシシ肉の表面が薄っすらと焦げる程度まで炒めた後水を入れ、折った骨と塩とデーツを入れた。


 イノシシの骨を入れる時、太い骨を素手でバキバキ折ってたんだけどナキアちゃんとキアリーちゃんがたまげていた。


 鍋が煮立ってアクをあらかた取って骨も取り出し野菜を入れた。美味しくなーれではないけれど、何もなくてもおいしいはずだ。


 鍋が煮立って野菜を入れてから30分ほどで野菜にも火が通った。


 深皿を3つ取り出しスープをよそった。


「できたよー」


「おいしそうなのじゃー」


「ゴクン」


 3人揃ってパンを取りに行き、かまどの前で3人仲良く座って夕食を始めた。西の空が赤くなっている。もうすぐ日没だ。



 夕食は結局スープとパンで済ませた。二人ともスープを飲んで絶品だと大喜びだった。3人分くらいは残ったので明日の朝食ということでアイテムボックスに鍋ごとしまっておいた。


 そのあとお茶で一服して新居に戻って毛布を敷いて3人揃って横になった。



 毛布の上に横になってしばらくしたらナキアちゃんとキアリーちゃんの寝息が聞こえてきた。


 後は、オーガがいつ襲ってくるかだけど、前回襲われた位置とここだとかなり位置的にもズレているので、今夜が一応の予定日だけど襲われないかもしれない。


 わたしはしばらくオーガのことを考えてたら眠くなったので4時に目覚ましナビちゃんをセットして寝ることにした。


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