第81話 キャンプ4


 新居に到着したころには雨はすっかり止んで陽の光も差してきた。


 新居の周りには昨日伐採した木の残りとか払った枝が散らばったままだったので、後で片付けた方が良さそう。


「ちょっと散らかってるけど、あの木の下に見える草掛けの屋根っぽいのがわたしが作ったおうちなの」


「どれどれ」


「ふむふむ」


 ナキアちゃんとキアリーちゃんが入り口から穴の中を覗き込んだ。


「しっかりした穴なのじゃ。

 これを昨日一人で作ったとは大したものなのじゃ」


「ほう」


「二人の荷物はわたしが預かるから貸してくれる?」


 二人がマントと荷物を渡してくれたのでアイテムボックスに入れておいた。


「なんと! わらわたち2人分の荷物まで楽々とアイテムボックスの中に収まったのじゃ」


「シズカちゃんの荷物も入ってるんでしょ? スゴイ」


「エヘヘ。それほどでもー。

 いま毛布を敷くからちょっと待っててね」


 わたしは穴の底に下りて毛布を敷いた。


「ちょっと狭いけど我慢してね」


 わたし、ナキアちゃん、キアリーちゃんの順に並んで座ったところで、ナキアちゃんの前に昨日焼いた肉を盛った皿を出した。


「おー、うまそうな肉なのじゃ!」


「これってイノシシだよね? おいしそー」


 二人に取り皿と木製だけどナイフとフォークを渡した。


「どんどん食べて」


 わたしも取り皿にイノシシ肉を取って食べた。まだ温かいので木製のナイフでも簡単に切れる。


 イノシシ肉を食べながら、ナキアちゃんにパンのことを言ってみた。


「そういえば、ナキアちゃん、堅パンが柔らかくなるか試してみない?」


「そうじゃったな。リュックからパンを出すので、わらわのリュックを取り出してくれるかの?」


「リュックを出さなくてもパンは取り出せるよ。

 はい」


 ナキアちゃんのリュックから堅パンを一つ取り出して手渡した。


 ナキアちゃんはパンを手にして口をもごもごさせてすぐに、


「柔らかくなったのじゃー!」


「シズカちゃん、わたしのパンも出してくれる?」


 キアリーちゃんの堅パンをリュックから出して手渡した。


「はい」


「ありがとう。

 ナキアちゃん、わたしのも早くやってよ」


「行くぞ。……。どうじゃ?」


「柔らかいー」


「それではシズカちゃんのパンじゃ」


 わたしがアイテムボックスから直接堅パンを手にしたところで、ナキアちゃんが口をもごもごさせた。


「どうじゃ?」


「うん。柔らかくなったよ」


 知ってたけどね。そのあと3個のコップに水を入れて二人に配った。


「ナキアちゃん、コップの中の水って冷たくならないかなー?」


「今までそんなことを考えたこともなかったのじゃが、簡単そうじゃ。

 どれ。……。

 ウオー。冷たくなりすぎて氷が張ったのじゃ」


 その水を一口飲んだナキアちゃんが「冷たい水はおいしいのじゃー」


 すぐにナキアちゃんはキアリーちゃんとわたしのコップの水も冷たくしてくれた。


 そこでわたしはナキアちゃんに、


「冷たいエールっておいしいと思わない?」とさらに知恵を授けた。


「おっ! 確かに。

 急にエールが飲みたくなってきたのじゃ。これはマズいのじゃ」


 言わなければよかった。


「船に乗る前に時間があったら、飲みに行きましょうよ」


「さんせー」


「今からでも良いのではないか? 明日の朝までにキャンプに戻れば良いだけじゃし。ここから3時間も走れば王都じゃろ? 荷物はシズカちゃんが預かってくれておるし」


「行きはいいかもしれないけれど、帰りはきついんじゃない?」


「それもそうじゃった。今回は我慢するのじゃ」



 それからしばらく3人で食べながら話をしていた。


「この家をもう少し広くできれば3人で寝られるのじゃが」と、ナキアちゃん。


「これ作るのそんなに大変じゃなかったから、大きくしようか。

 食べ終わったら、頑張っちゃお。食べ物は沢山あるから、食べ物採集の時間を気にせず作業できるよ」


「そうとなれば、この肉を最後にするのじゃ」


「わたしもこれが最後」


 知ってたけど二人ともよく食べる。


 それでも大皿のなかの肉は半分くらい残ったのでそのままアイテムボックスにしまって、クリンできれいにしてくれた食器類も片付けて作業を始めた。ちなみにパンは3人とも半分くらい食べただけであとはしまっておいた。


 いったん穴から出たわたしは、穴の周りの土をスコップで横に避けていき、2メートル幅の片側の杭も抜いていった。


 わたしが穴の周りで作業しているあいだ、ナキアちゃんとキアリーちゃんは、散らばった木や枝を片付けてくれていた。


 わたしは杭を抜いて土が現れた面をスコップで拡幅していった。


 ドンドン拡幅していき穴の広さが2メートル×3メートルになった。これだけあれば3人で十分寝られる。


 わたしはアイテムボックスの中から物を取り出すから平気だけど、ナキアちゃんたちは一々わたしに頼むのは大変だろうと思い、2メートル×1メートルを追加して、2メートル×4メートルの穴を作った。穴を作る過程で大木の太い根も何本か切っているので、将来的にこの大木は枯れてしまうかもしれない。忘れないうちに、ナキアちゃんに枯れないように祈ってもらおう。


 穴の拡張にあたって相当な量の土を穴の周りに積み上げたので拡張部分の周りには土が小山になっている。


 わたしが穴掘りをしている間にナキアちゃんたちの片付けも終わったようで、二人は穴の中に入ってわたしの作業を眺めて呆れていた。そこでわたしはナキアちゃんに根っこを切った関係で木が弱ってしまうとかわいそうだから、木が元気になるように祈ってくれと頼んだところ、


「木も元気になると思うのじゃが、そんなことは思ったことが無かったのじゃ。……。

 いちおう元気になるよう祈ったのじゃが、どうじゃろ?」


 見た感じは何も変わったところは分からなかったけど、こういった物は気持ちだからね。


「いいんじゃないかな」


 ということにしておいた。



 小さいときの新居は雨で土壁が傷んでほしくなかったので杭で補強したけど、記憶ではもう雨は降らないので、土壁を補強する必要はない。


 でき上った穴の中からのぞいている根っこの出っ張りを切っていき、盛り上げた土を崩れないようにスコップで叩いていって一応作業は終了した。


「シズカはすごいのじゃ」


「あっという間だったね」


「穴掘りは慣れてるから」


 墓掘りで慣れてるとは言えないよね。


「二人の荷物は、この屋根の下に置いとくね」


 いちいちわたしに物の出し入れを頼むようでは気兼ねすると思って、旧わが家の草ぶき屋根の下に毛布を敷いて二人のリュックを並べておいた。


「ありがとうなのじゃ」


「ありがとう」


「わらわたちは枯れ木を集めておいたのじゃが、まだ少し濡れておるので火の付きは悪そうなのじゃ」


「クリンをかければ水気は飛ぶから火をたく時にわたしがクリンをかけるよ」


「クリンと言っても、そんなに回数かけられぬじゃろ?」


 そうか、わたしの魔力の回復は生活魔法で消費する魔力より速いんだった。そのことも説明しておくか。


「わたしの場合、生活魔法くらいだと魔力が全然減らないからだいじょうぶなの」


「なんと! それではいにしえの大魔術師並ではないか!」


「うわさだと魔族も魔力は無尽蔵だったんだって」


 そうなんだ。実はわたしって本当は魔族だったりして。そんなわけないか。



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