第80話 キャンプ3
雨をしのぐ準備もできた。あとは雨が降ってくるのを待つばかり。
わたしは空模様を見ようと新居を出ていき、大木の木陰から出て空を見上げた。
雲は出ているけれどまだ晴れている。こうなってくると早く降ってもらいたくなるのが人情だ。
だからと言って雨乞いもないし、何をどうしようが個人で気象を変えられるわけもないので、あきらめたわたしは新居に入って横になった。
暇だなー。
穴の中で夕食代わりに干しブドウとデーツを食べながらナキアちゃんたち今頃何してるんだろ? とか考えていた。
日が暮れて辺りが暗くなったところでそろそろ寝ようと思ったわたしは一度穴から出てマントを羽織ってからまた穴の中に戻った。
寝る前に、脅威がレーダーマップに現れたら知らせるようにナビちゃんに頼んで目を閉じた。
ぐっすり眠って夜半過ぎ。
雨の音で目が覚めた。今のところ雨のしずくが天井から漏れてはいない。暗いのでファイヤーを指先に灯して見たところ、壁からも水は漏っていない。科学の勝利だ! 科学は言い過ぎだな。これぞ工学の勝利だ!
ナビちゃんに時刻を聞いたら1時過ぎだった。わたしはナビちゃんに4時になったら起こしてくれるように頼んでまた目を閉じた。ナビちゃんの新しい使い方だ。
目を閉じたと思ったらすぐにナビちゃんに起こされた。
わたしはクリンですっきりした後穴から出てキャンプに向かった。結局雨は漏れてこなかったようだ。今回の新居は優れモノだったみたい。
だいぶ小降りになってきた雨の中をクリンをかけながら1時間ちょっとかかってキャンプに戻ってきた。
キャンプには、雨の中見回り中の兵士と、天幕前にリュックで膨らんだマントを羽織った4名。レーダーマップで見ると天幕の中に黄色の点が1つ。
4人が近づいてくるわたしに気付いて振り向いたので「新しいメンバーのシズカです」と名まえを言った。
「隊長のあの試験に合格したんだ。ふーん」とカルヒが言って、わたしを舐めるように見た。
死んでしまう前少し見直したのだけれど、やっぱし、生理的に無理だ。
「わたしの名はジゼロン。よろしく」
「よろしくお願いします」
結局あいさつしただけでその後いちども関わり合いなくいなくなった人物なので、わたしにとっては謎の人物のままだ。
そしてナキアちゃんとキアリーちゃん。
「わらわはナキア」
「わたしはキアリー」
「ナキアさんとキアリーさん、二人ともよろしく」
「わらわのことはナキアと呼んでよいのじゃ」
「これから一緒にがんばろう。わたしのことはキアリーって呼んでね」
「わたしのことはシズカで」
わたしたちの声が聞こえたのかそれからすぐにハーネス隊長が天幕の中から出てきた。
「全員いるな。
新しいメンバーのシズカを紹介しておこう。
シズカ、前に出てきてくれ」
呼ばれてわたしは前に出た。雨はまだ小降りと言っても降っていたけれどフードを取っておいた。
「ブレスカからやってきたシズカだ。みんな仲良くしてやってくれ
野営訓練もあと4日だ。シズカで最後のメンバーになる。
それじゃあ、各自パンを取って野営訓練に戻ってくれ」
天幕の中に入ったわたしはパンの箱の蓋を開けて中からパンを3つ取り出しそのままアイテムボックスに入れた。蓋はそのままにしておいた。
後ろにいたカルヒはわたしのアイテムボックスに気づいたはずだけど何も言わなかった。
天幕を出たところで、ハーネス隊長がわたしに声をかけてきた。
「昨夜はどうだった?」
「雨で目が覚めてしまいましたが、野営はある程度慣れているので問題はありませんでした」
「そうか。訓練期間が短いから少し心配だったが安心した。
調査では堅パンしか持っていけないから食料を途中で調達しなければならないが、その辺りはだいじょうぶか?」
「はい。昨日は弓矢で獲物を仕留めましたから」
「弓矢も扱えるとは、期待できるな」
「任せてください」
本日のマストの業務はこれで終わった。
わたしは天幕を出てナキアちゃんとキアリーちゃんがパンを取って天幕から出てくるのを待った。
カルヒが先に出てきて雨の中林に向かって歩いていった。その後ジゼロンおじさんが出てきカルヒとは違う方向に歩いていった。
最後にナキアちゃんたち二人が揃って天幕から出てきたので、今回はわたしから二人を誘った。
「いっしょに行こう。二人はこれからどこに行くの?」
「特に行く当てはないのじゃ」
「そうなの」
「そういえばシズカはリュックを持っておらぬようじゃな」
「アイテムボックスってスキルを持ってるからその中に入れてるの」
「珍しいスキルを持っておるのじゃな。羨ましいのじゃ。
それはそうと、シズカちゃんはパン以外の食材はもっておるか? わらわたちは余っておるゆえ分けても良いぞ」
「早めに食べないといたんじゃうし」
「ありがとう。わたしもたくさん持ってるからだいじょうぶ」
「シズカは昨日やってきたのじゃろ? それでもう獲物を捕まえたのか。シズカは狩が得意なのじゃな。本番では頼りにさせてもらうのじゃ」
「任せて」
「雨は小降りなってきておるのでどこかで腹ごしらえをしたいのじゃが、濡れた落ち葉や枯れ枝では火を熾せぬし、パンでも食べようと思うてもアレはそのままでは硬とうて歯が立たぬし困ったものじゃな」
「乾いた場所ってどこにもないしね」
「肉だけなんだけど、焼いた肉があるから、適当な場所を見つけて食べようよ」
「おっ。それはありがたいのじゃ」
「うれしい」
「ナキアちゃんって、カディフの聖女様のナキアさまだよね?」
「そうとも言われておる」
「祈りでいろんなことができるって」
「わらわのことがブレスカまで伝わっておったとは驚きなのじゃ」
「祈りでいろんなことができるなら、もしかしたら堅パンを柔らかくできるかも知れないよ」
「うん? 今までそういったことなど考えたこともなかったのじゃが、確かにそれほど難しいとは思えんのじゃ。もし堅パンを柔らかくできるのなら食生活が大幅に改善されるのじゃ」
話しながら何となくわたしの新居の方に歩いていたんだけど乾いた場所などなかなか見つからなかった。
「きのうわたし、穴を掘って草とか木の葉っぱで屋根を付けたの。そこだと雨はほとんど漏れてこないからそこに行ってみない? 狭いけど3人なら中で座って食事できるよ」
「それは楽しみなのじゃ」
そういうことでわたしの新居を目指すことになった。
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