第83話 2回目オーガイベント


 ナビちゃんが朝の4時を告げた。何ごともなくまだ明けてはいないけど一夜が明けたようだ。


 わたしが起き上がったので、ナキアちゃんとキアリーちゃんも目が覚めたようだ。


「おはよう」


「おはようなのじゃ」「おはよう」


 クリンですっきりし、毛布を片付けた。二人にリュックをアイテムボックスで運ぼうかと言ったけど、二人は自分でリュックを背負った。



「行こうか」


 キアリーちゃん、ナキアちゃん、わたしの順でキャンプを目指し移動を始めた


 星空が徐々に白んでいく中、キャンプに戻っていく。30分ほど歩いたところで、レーダーマップ斜め後方右手に赤い点が現れてこっちに向かって近づいてきていた。


「斜め後ろから何か近づいてきている。おそらくモンスター」


 オーガとは思うけど今のところはっきりとは分からない。


 わたしはムラサメ丸をいったん取りだしたけど、思い直して円盤を3つ右手の指の間に挟んだ。


 ナキアちゃんとキアリーちゃんはリュックを降ろしてわたしの向いている方を向いた。キアリーちゃんはリュックに括り付けていた大盾を取り外し腰に下げていた剣を抜いた。ナキアちゃんはキアリーちゃんの後ろに移動した。


 わたしの見つめる前方から木をなぎ倒しような音が聞こえ始め、それがだんだんと近づいてきた。間違いなくオーガだ。


「大型モンスター。オーガだと思う」


「なんと」


「そんな大物初めてだけどだいじょうぶかな?」


「何度もたおしたことあるからだいじょうぶ」


「なんと!」


 レーダーマップに映る赤い点との距離は50メートル。


「80歩」


 距離が40メートルで棍棒を振って邪魔な木をへし折りこちらに近づいてくるオーガのシルエットを視認できた。


 距離が30メートルになりこちらを睨むオーガの赤い目と目が合った。オーガがその時ニヤリと笑ったような気がしたけど、気のせいだよね。


 キアリーちゃんたちが緊張しているのはなんとなくわかるけど、今のわたしにとってオーガはたかがオーガなんだよね。


 20メートルまで近づいてきたところでオーガの顔目がけて円盤を3枚同時に投げつけ、すぐに3枚を右手にセットして再度オーガの顔目がけて投げつけた。


 合計6個の円盤がオーガの顔に吸い込まれたと思ったら、オーガが向う側に仰向けにたおれてしまい、レーダーマップから赤い点が消えてしまった。多分即死が発動したんだろうけど、1パーセントの確率のハズがやけに高確率で発生する。思惑通り以上でびっくりだ。


「オーガはたおしたからもうだいじょうぶ」


「いまシズカちゃんがオーガに何かを投げたことだけは分かったのじゃが、それだけでオーガをたおしたんじゃろか?」


「これを全部で6枚投げつけたの」


 円盤を1枚手のひらに出して、ナキアちゃんに渡した。


「これは何かのアーティファクトじゃろか?」


「ううん? 鋳物で作っただけの円盤で、1000個作ってもらって金貨1枚だった」


「なんと。そんなもので、あんな威力があったのか?」


「まあいろいろあって。

 オーガの魔石を取ってくるね」


 ナキアちゃんとキアリーちゃんが円盤をしげしげとみているあいだわたしはオーガの魔石を回収するためムラサメ丸を持ってオーガの元に駆けていった。


 オーガの顔を見るとぐちゃぐちゃになって、いろんなものが流れ出ていた。円盤はオーガの顔の中で壊れていそうだし、とても回収できそうにない。


 どっちでもいいといえばいいんだけど、これだと即死が発動したと考えていいのか、円盤の威力だけでたおしたのか判然としない。


 わたしはオーガの胸の上に上がってムラサメ丸を突き刺して出刃包丁を使うようにゴキゴキ動かし肉と肋骨を切ってから胸の中に手を突っ込んで魔石を取り出した。


 取り出した魔石と血だらけの手袋とかは一緒にクリンをかけてきれいにして、魔石の取り出し作業を見ていたナキアちゃんたちに渡してやった。


「シズカちゃんは手際が良いのじゃ」


「慣れてるからね」


 実際今回あけた穴はこれまでで一番小さかったし、手を突っ込んだ先ですぐに魔石が見つかったからホントに慣れてしまったようだ。


「これまで何度もたおしておれば手際が良くなるのじゃろうが、オーガを一人でたおす者などそうそうおらんから、ふつうは慣れることなどないじゃろう。そもそもオーガなんぞどこに潜んでおるかも分からないモンスターじゃし。

 それにしてもオーガの魔石は大きいのじゃ」


「きれい」


「この魔石は今度街に出ることがあったら売ってしまってそのお金で飲みに行こうよ」


「シズカちゃんは太っ腹なのじゃ」


「シズカちゃんについていきます!

 そういえば、オーガのアレって高く売れるって聞いたことがあるよ。切り取らなくていいかな?」


「キアリーちゃん、アレはオーガではのうてオークじゃろ?」


 今回もキアリーちゃんが同じ話を持ち出した。オーガであれオークであれ、そんなものをアイテムボックスの中だろうと持ち歩きたくはない。


 オーガの魔石を渡してもらってアイテムボックスにしまった。ナキアちゃんたちがリュックを背負い移動準備を終えて3人揃ってキャンプを目指して歩き始めた。



 そこから30分ほど歩きキャンプに着いた。あたりだいぶ明るくなってもうすぐ夜が明ける。


 キャンプの天幕前にはカルヒだけが立っていて、前回同様ジゼロンおじさんはいなかった。


 ジゼロンおじさんはこのまま失踪するのだろうか?


 天幕前まで3人で歩いていたらハーネス隊長がちょうど天幕から現れたので、わたしが代表してオーガのことを隊長に話した。


「キャンプに戻る途中、オーガに出くわしたというか、オーガが襲ってきたのでたおしました」


「オーガ? わたしも今まで一度も見たことはないが本当にオーガだったのか?」


「はい。これまで何度かオーガをたおしたことがあるので間違いありません」


「何度かオーガをたおしたというのも驚きだが、それなら本物のオーガだな。

 こんなところまでオーガが現れたとなると、いよいよモンスターが活発化してきたか。

 あとでそのオーガを検分したいから、点呼が終わったら案内してくれ」


「はい」


 報告が終わったわたしたちはパンの入った箱から今日の割り当て分のパンを取り出してリュックに入れて天幕を出た。カルヒも続いて天幕を出た。


 夜が明けたけどまだジゼロンおじさんは集合していなかった。


「ジゼロンがまだみたいだな。

 困ったな。これまで遅れたことなど一度もなかったのだが。

 オーガが出現した今少し心配だ。

 シズカたちはもう少し待っていてくれ」


「はい」


「カルヒ、わたしはシズカがたおしたというオーガをこれから検分してくるから、戻ってくるまでここで待っていてくれ。訓練を続行するかその時判断する。

 わたしが留守の間にジゼロンが戻ってきたらここに残っておくよう言ってくれ」


「はいよ」




 わたしは見た目手ぶらで、ナキアちゃんとキアリーちゃんはリュックを天幕の中に置いて、キアリーちゃんの大盾はナキアちゃんがキアリーちゃんの革鎧の背中に括り付けた。


 その間わたしはハーネス隊長のハンマーを隊長の革鎧の背に括り付けた。


 準備完了してカルヒ一人をキャンプに残したわたしたちは、オーガをたおした場所に引き返していった。


 何が起こるということもなく30分でわたしたちは現場に戻った。そこにはちゃんと胸に大穴を空けたオーガが横たわっていた。


「大きいな。よくこんなのをたおせたな。胸の大穴が致命傷なのか?」


「いえあれは魔石をえぐり取った痕です」


「顔が潰れているのが致命傷なのか? それしてもひどいな」


「この円盤を6枚投げつけたら死んじゃいました」


 そう言ってナキアちゃんたちに見せたように鋳物の円盤をハーネス隊長に見せた。


「こんなものでオーガをたおせるとはとても思えないが、現にオーガの顔は形のないほど潰れているのも事実だからな。シズカ、さすがだ」


 そのあとハーネス隊長は独り言のようにつぶやいた。


『しかし王都近くにこれほどのモンスターが現れたことは大問題だ。ジゼロンのことも気になるし、訓練をこのままここで続けてだいじょうぶだろうか?

 キャンプに戻るまでに結論を出そう』


 暗がりではあまり目立たなかったけれどオーガがやってきた方角は林の中に通り道となってはっきり分かる。この先に巣があるのかもしれない。


「ハーネス隊長、オーガがやってきた後は立ち木の倒れ方などから簡単にわかりますから、どこからやってきたのか探りませんか?」


「そうだな。

 ジゼロンが帰ってきているかは分からないが、カルヒがキャンプにいるから、全体行動の訓練も兼ねてオーガがどこからやってきたのか探ってみるか」


 前回は魔石を誰かに盗まれたことでハーネス隊長が魔族の関与を疑ったため訓練は即刻中止となったけど、今回は少し展開が違ったようだ。この探索行がどれくらいかかるか分からないけど、必要な物資は既に購入済みでアイテムボックスの中に入っている。従って王都で買い物の必要はない。強いて言えば食堂で冷たいエールが飲めなくなることくらいだ。



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