第145話 調査1


 ナキアちゃんの屋敷の大食堂で子どもたちと一緒の夕食をとったあと、小食堂で飲み会が始まった。


「今日のモンスターの大群って何だったと思う?」


「とにかくあの量のモンスターが今までどこかに隠れ住んでいたとはとても思えないわけじゃから、どこかからか湧き出てきたのじゃろうな」


「湧き出てきたとすると、可能性があるのは、あの山並みじゃないかな。

 あの国にもダンジョンが現れて、そこからワーって出てきたような気がするな」


 明日香のところが絡んでない以上、キアリーちゃんの言うことが正しい気がする。


「じゃあ、またあれが起こるかもしれないってことかな?」


「起こらないとは限らんじゃろう」


「何で急にこんなことが起こったんだろう?」


「わたしこの前、女神さまっぽい人と話したって言ったじゃない」


「そうじゃたな」「うん」


「あのとき、女神さまが言ってたんだけど『この世界を守るため新たな手・・・・を打つつもりです』って。もしかしたら、あのモンスターの大群とか巨人は女神さまの新たな手・・・・だったのかも知れない」


 多くの人がモンスターによって命を落としただろうし、モンスターもわたしたちによって全滅した。自分で話していてきっとそうに違いないと思い始めた。


「ゴルレウィンの山の中を調査してみない?」


「そうじゃな。またあんなのが現れたらたまらぬものな」


「うん、行けばきっと何か見つかるよ」



 そんな話をして夜半過ぎまでわたしたちはお酒を飲んだ。



 そして翌朝。


 朝食を子どもたちと一緒にとった後わたしたちは、最初から防具を着けて昨日の戦いの場所に跳んで行った。


 目の前が切り替わったと同時にウッとする臭いに襲われてしまった。


 臭いを我慢して現場を見るとモンスターの死骸が巨人の死骸を中心に小山になっており、そこでは大勢の魔族の兵士たちが立ち働いて魔石を回収していた。


 魔族軍の作業監督らしい人に会釈したら、思いっきり敬礼された。その後その人がわたしのところに走ってきて、布にくるんでいた長細い包みを差し出した。


「巨人の目に刺さっていた矢を7本回収しました。どうぞ」


 受け取った包みを開いたら汚れなど付いていないインスタントデスアローが7本入っていた。


 監督さんにお礼を言ってアイテムボックスに収納した。



 兵士たちはゴブリンの死骸ならそのまま街道の横に掘られた大きな穴の中に放り込み、オーガなら胸を短剣で切り裂いて魔石を回収した後、死骸を穴の中に放り込んでいた。魔族でもオーガやゴブリンの死骸の利用法は持っていないようだ。



 わたしたちが現れたところから西に向かって街道は完全にモンスターの死骸で塞がっていたので、街道の脇を西に向かって歩いていったら巨人の死骸の先に巨大亀クルバンが昨日のままの姿で仰向けになっていた。


 巨大亀クルバンはカメだし少なくとも脂が採れるのでちゃんと解体するんじゃないかな? 脂身の下のお肉はおいしそうな気もしないではないけど、爬虫類といえば爬虫類だから蛇っぽい味がするのかもしれない。解体するならストックするだろうからそのうち明日香のところで食べられるかもしれない。



 巨大亀クルバンの先まで進んで街道が開けたところで幌馬車をアイテムボックスから出した。そのあと、ナキアちゃんの屋敷に戻ってシルバーとウーマを連れてきたらキアリーちゃんがすぐに2頭を馬車に繋いだ。


 準備の整った幌馬車はわたしたちを乗せて街道のずっと向こうに見える山並みに向かって進んでいった。よく考えたらシルバーとウーマもこんな臭いもきつくてとんでもない現場でも怯えることなく淡々と歩いていくので、かなりの名馬なのかも。



 幌馬車が西に1時間ほど進んでいったところで、最初の宿場町だったハズの廃墟があった。いたるところに今は黒くなった血の跡が残っていたけれど、人の死体は見当たらなかった。そういうことなのだろう。


「この先の町もそうなんじゃろうな」


「だね」


「うん」


「ゴルレウィン自身それほど大きな国ではなかったから、国としてすでに滅んでおるかもしれんの」


「モンスターたちが単純に東に向かったんなら生き残りもたくさんいるはずだけど、どうだろう?」


「とにかくわたしたちは山並みを目指そうよ」


 その日は日の入りまで馬車を進めた。その間街道上で馬車とすれ違うことも旅人とすれ違うこともなかった。その代り何個所も街道沿いの町の廃墟を通ったけれども、血の跡があっただけで生存者はおろか死体もなかった。



 その日は久しぶりに野営した。


 夕食はアイテムボックスの中に入っていた焼肉とスープで済ませた。外で食べるのもいいけれど、食べているあいだ3人とも無口だった。


 そして、食事が終わったら3人とも早々に馬車に入って眠ってしまった。



 翌朝。


 日の出前には簡単な食事を済ませ、馬車から離して休ませていたシルバーとウーマを馬車に繋ぎ直して西に向かって出発した。昼ごろには山並みのふもとまで辿りつけそうだ。



 昼食前に温泉のある村の入り口だという場所にたどり着いた。そこから街道を外れた道に入り20分ほどで温泉村があるという話だったけど、今は過去形なんだろう。


 昼食は馬車の上でもいいけれど、シルバーとウーマを休ませないわけにはいかないので、街道脇に設けられていた馬車の休憩広場に馬車を入れて昼休憩を取った。今日は朝からわたしが御者を務めている。


 生ハムと葉野菜にチーズを挟んだサンドイッチを食べてしばらく休んでから出発した。上り坂がややきつくなった街道をしばらく進んでいくと山並みを巡るように街道は南北に分かれた。


「どっちに行こうか?」


「いつものように左じゃな」


 山並みを右手に見ながら南側の街道をしばらく進んでいたら、山の岩肌に亀裂が入っているところがあった。その亀裂はあのダンジョンの入り口とは違い、かなり奥までレーダーマップで見ることができた。この感じだとその先もずっと奥までつながっていそうだ。


「あそこの亀裂は中までつながっていそうだから、のぞいていこうよ」


「そうじゃな」


「またダンジョンがあるかな?」



 馬車を街道から外して亀裂の近くまで進めてそこで止めた。



 わたしだけ馬車から下りて、亀裂の中をのぞいたところ、ずっと先は真っ暗で見えなかったけれど亀裂は奥の方にどこまでも続いているようだった。


「どこまで亀裂が続いているか分からないけど、歩いて行ける感じだった」


「中を調べるとすると、シルバーとウーマは屋敷に戻さないといけないよね」


「そうだね」


「じゃあ、馬車から外しておくからシズカちゃん2頭を連れていって」


「うん」


 シルバーとウーマがキアリーちゃんの手で馬車から外されたので、2頭をナキアちゃんの屋敷まで連れていき使用人に預けてから二人のところに戻った。


 そこで馬車をアイテムボックスに入れてから3人で亀裂の中の探検を始めた。


 亀裂の入り口でナキアちゃんがライトの魔法で明かりをつけたところ亀裂はまっすぐ奥の方まで続いていた。


「どこまで続いておるんじゃろ?」


「この山の真ん中まで続いているかも?」


「そうなると歩いて半日くらいはかかりそうだよね」


「半日歩くくらいどうってことはないのじゃが、何もないとつまらんのじゃ」


「どうせなら何か出てきてほしいよね」


「そうじゃな」


 結局この二人はいつも退屈してるんだよね。刺激を求めているというか。キアリーちゃんが赤いキノコを見つけると目の色を変える理由が分かったような気がした。




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