第144話 祈りを込めてインスタントデスアロー


 巨人と巨大亀クルバンの戦いが目の前で繰り広げられている。戦いの場にあまり近すぎると危険なのでわたしたちは後退することにした。


 キアリーちゃんが御者台に乗って馬車を操り500メートルくらい下げる中、ナキアちゃんとジゼロンおじさんとわたしは後ろで繰り広げられているバトルを振り返りながら後退していった。


 どうも巨大亀クルバンの手数が減って防戦気味のように見える。


 巨大亀クルバンが口からあの火の玉を至近で巨人に吐き出せばダメージを与えられそうなんだけど近すぎるのか火の玉攻撃をしていない。


「ジゼロンさん。なんだか巨大亀クルバン、旗色が悪そうなんだけど、もう一匹連れてこられませんか?」


「残念ながら巨大亀クルバンは一度に一匹しか召喚出来ないんです」


 残念。あんなのがポコポコ召喚出来たらそれはそれで大変だものね。



「あっ!」


 馬車の位置まで下がって戦いを眺めていたら思わず声が出てしまった。巨大亀クルバンが巨人に押されて仰向けにひっくり返ってしまい、ドーン! という重い音と一緒に地面を震わす振動が伝わってきた。




 巨大亀クルバンは必死にもがいて起き上がろうとしてるんだけど、巨人が巨大亀クルバンの腹側の甲羅に狂ったように拳を叩きつけるものだから起き上がれそうにない。


 ピンチだよ。大ピンチだよ。甲羅が割られたらおしまいだよ。


 ハラハラして見ていたら、ビキッ! という大きな音がして、とうとう巨大亀クルバンの甲羅が割られてしまい、巨人の拳が巨大亀クルバンの甲羅を突き破って中まで入ってしまった。しばらく巨大亀クルバンはあがいていたけどとうとう動かなくなってしまった。


 巨人はクルバンから引き抜いた拳を空に向かって突き上げた。勝利のアピールだよ。


「うーん、やられたか。また召喚して連れて来ましょうか?」


 ジゼロンさんはそう言うんだけど、どうしよう?


巨大亀クルバンより強力なモンスターっていないんですか?」


「あとは本物の龍エンシャント・ドラゴンがいますが、これはそういった意味での召喚じゃないんです。万が一死んでしまうと女王陛下が悲しまれる・・・・・・・・・・と思います」


 さすがに本物の龍エンシャント・ドラゴンなんか出てきたら何が起こるから分からないし、もし死んでしまったらかわいそうだものね。だけど、明日香が悲しむということは明日香はエンシャント・ドラゴンをペットにしてるのかな? 何をペットに飼おうが個人の自由だからいいんだけどね。



 そうこう話している間にも巨人がわたしたちに向かって近づいてきている。


 ここは本格的に撤退にげだすしかないのか? わたしたちが巨人を食い止めなければ巨人はドライグ王国までやってくる。ここから東に進んで一番近い都市はナキアちゃんの屋敷のあるカディフだ。屋敷の中には子どもたちも大勢いる。


 何か打つ手はないのか?


 そうだ! ダンジョンの中でインスタントデスアローを手に入れてた。ダメもとで試して、ホントにダメなら撤退しよう。


「あの巨人に効きそうな特別な矢があるので、それで巨人に挑んでみます。これでダメだったならいったん引きましょう」


 わたしは烏殺うさつと一緒にインスタントデスアローを1本取り出した。


「いきます!」



 わたしは巨人の手前100メートルに転移し、そこから斜め上の巨人の目玉を狙って烏殺を引き絞ってインスタントデスアローを放った。


 インスタントデスアローはわたしを睨みつけていた巨人の目玉に見事に命中して突き刺さった。だけど即死は発動しなかったようだ。その代り相当痛かったようで巨人は大声を上げて地団太を踏んだ。そしたら地面が揺れた。街道の上に巨人の片足が乗っていたので、街道の舗装も盛大に壊れてしまった。


 巨人が前に進んできたので10メートルほど後ろに転移してそこから巨人の目を狙って烏殺を引き絞りインスタントデスアローを放った。今回もうまく目玉に命中したけど即死は発動しなかった。そして先ほどと同じように巨人はその場で地団太を踏んで前に進む。


 再度10メートル後退。そしてインスタントデスアローを目玉に命中させ、巨人がその場で地団太を踏んで前に進む。これを何度も繰り返した。ボスキャラには即死は発動しないのか?


 次が7本目。7年目の浮気ではなく7本目の本気だ。今度こそ! 祈りにも似た気持ちでインスタントデスアローを放った。今回も巨人の目玉に命中した。


 そしたら、一瞬巨人が動きを止めた。その後、巨人は膝から崩れていき、その場で座ってしまった。その後は動きはない。やったか! と、思ってレーダーマップを見たら、まだ赤い丸のままだった。生きてる。


 今度は少し大きく後ろに転移して巨人を眺めていたら巨人の体を覆っていたモンスターの死骸がぼとぼとと地面に落ち始めた。巨人の膝の周りはモンスターの死骸で埋まっていった。


 どんどん死骸が巨人から剥がれていき、とうとう巨人は元の姿に戻った。そして巨人はゆっくりと前のめりに倒れた。巨人の下敷きになったモンスターの死骸が潰れて飛び散り、ゴブリンの頭が数個わたしの足元近くまで転がってきた。


 やっとレーダーマップの丸は赤い色から薄黒い色に変わった。


 そこで、頭の中にシステム音が響いた。


 勝った!


 これで一段落ついた。インスタントデスそくしという割に死ぬまで時間がかかったけど結果オーライ。


 烏殺をアイテムボックスにしまったところで、ナキアちゃんたちがやってきた。まだ頭の中のシステム音が続いている。


「シズカちゃん、すごいのじゃ」


「やったね!」


「シズカ殿。お見それしました。それではわたしはこの辺りで失礼します」


「ジゼロンさんありがとう」


「いえいえ、何のお役にも立てず申し訳ありませんでした」


「そんなことありません。

 そう言えばプリフディナスって魔石を集めてるんですよね?」


「はい。いろいろ使い出があって重宝するんです」


「それならここにいるモンスターの死骸から全部持っていってください。巨人を解体するなら目玉に矢が刺さっているはずなので出来たら回収お願いします。特別な矢なので」


「ありがとうございます。

 陛下に報告してから、兵隊を使って回収します。矢の方も任せてください。

 それでは失礼します」


 ジゼロンおじさんが目の前から消えた。


 システム音が鳴りやんだ時にはレベルが15も上がっていた。



「わたしたちはどうしようか? このまま進んでも温泉のある村もモンスターに蹂躙されてしまって何も残っていないような気がするんだけど」


「そうじゃな。出直す方が良さそうじゃな」


「そうだね」


 モンスターに蹂躙された後の村で温泉に浸かる気にもなれなかったので、ナキアちゃんの屋敷に帰ることになった。馬車で帰ってもいいけど、面倒なのでキアリーちゃんにシルバーとウーマを馬車から外してもらい、わたしが2頭を連れてナキアちゃんの屋敷に跳んだ。前庭の木の枝に2頭の手綱を括り付けてからナキアちゃんたちのところに戻って、そこで馬車をアイテムボックスにしまってから二人を連れてナキアちゃんの屋敷に戻った。



「予定が狂ってしもうて、帰ってきたのじゃ」


 この前と同じく屋敷の使用人たちと子どもたちが迎えに出てきた。


 キアリーちゃんがシルバーとウーマを厩舎に連れていき、戻ってきたところでわたしたちは屋敷の中に入った。


 今日はすごい仕事をした気になった。


 あとで確かめたステータス。レベルの上限とかステータスの上限ってあるのかな? スピードが100超えたところを見ると、上限があったとしても200くらいで相当上のような気がする。これから先、今日みたいなモンスターに出くわすことなんてないだろうから、もうそんなにレベルアップするとは思えないけどね。


レベル95

SS=29

力:85

知力:62

精神力:54

スピード:109

巧みさ:104

体力:56


HP=560

MP=3100

スタミナ=560


<パッシブスキル>

ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


マッピング2(99パーセント)

鑑定1(6パーセント)

言語理解2(97パーセント)

気配察知1(96パーセント)

スニーク1(48パーセント)

弓術MAX

剣術8(27パーセント)

威風(10パーセント)

即死


<アクティブスキル>

生活魔法1(46パーセント)

剣技『真空切り』

アドレナリン・ラッシュ

威圧

弓技『不射の射』

転移術



[あとがき]

何の意味もありませんが下の曲を思い出したものでサブタイまで「祈り」を込めました。

KOKIA - 祈りにも似た美しい世界

https://www.youtube.com/watch?v=_-RIvhrQD7g

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