第143話 巨人戦


 一つ目の巨人が大勢の子分を引き連れてこちらに向かってきている。不射の射の射程300メートルまで近づいてくれないとこちらからは手が出せない。残ったわたしたち3人は巨人を中心としたモンスターの大群が近づいてくるのを待つしかなかったので、革鎧を着て完全武装しておくことにした。


 中途半端な格好だったので結局3人とも敵前で下着姿になり鎧下から身に着けての全面着替えとなった。


 鎧を身に着け終わって、着替えている時に思いついたことをナキアちゃんに話した。


「ナキアちゃん。巨人のことなんだけど、あれだけ大きいと相当重いと思うんだ」


「じゃろうな」


「ナキアちゃんの祈りで、巨人を重くしてやれば動けなくなるんじゃないかな?」


「試してみるのは良いが、どこまで近づけてから仕掛ければよいじゃろ?」


「祈りはどれくらい遠くまで届くの?」


「おそらく、この目で見えさえすれば祈りは効くと思うのじゃ」


「じゃあ、今でも巨人に仕掛けられるってこと?」


「その通りじゃ」


「じゃあ、重くするのは近寄ってからでもいいから、ここから巨人の頭を沸かしてみてよ。それが決まれば、後は雑魚ザコのはずだから」


「それじゃあ、やってみるのじゃ」


「ちょっと待って。不射の射でモンスターの顔を見ておくから」


 不射の射の構えを取ってモンスターの顔を見たらまた目が合ってしまった。ウインクされたら怖かったけどそれはなかった。


「いいよ」


「それでは。沸いてしまうのじゃ! ……」


 不射の射を構えて照準することで一つ目の巨人の顔をズームで見てるんだけど、変化がない。巨人の歩みはゆっくりしたものだけど、今まで通りでまるで乱れていない。


「どうじゃ?」


「効いていないみたい」


「ありゃ? 遠すぎたんじゃろか?

 近づいたらもう一度試してみるのじゃ」



 それから10分ほど経過して巨人が1キロくらいまで近づいてきた。不射の射でズームしなくても裸眼で巨人の顔が見える。


「もう一度試してみるのじゃ」


 やはり巨人の顔や足取りに変化はなかった。ボスキャラには必殺技は効かないのだろうか? と、思って見ていたら巨人が前かがみになった。祈りが効いたのか?


 やっぱり効いてなかったようで、一度前かがみになった巨人がまた上半身を元に戻した。巨人は右手に何か掴んでいた。


 何だ?


 巨人は右手を振りかぶって振り切った。黒っぽい何かを投げつけてきた。


 その黒っぽいものは、山なりになってわたしたちに向かって飛んできた。黒っぽいものが空中で動いてる? 300メートルくらいまで近づいてきたところでそれが何だか分かった。空中で手足をバタバタ動かしているオーガだった。オーガはわたしたちの50メートルくらい前に頭から落っこちて潰れてしまい赤い肉の塊になった。


 オーガはモンスターといえばモンスターなんだけどこれはちょっとひどいような。当たり前だけどキアリーちゃんもナキアちゃんも驚いたようだ。


「うわっ! あいつオーガをぶん投げてきたよ」


「仲間ではなかったか?」


「仲間は仲間でも使い捨てなんだろうね」



 巨人は再度前かがみになって、今度も何かを掴んで同じように投げつけてきた。


「また来る!」


 今度は空中でバラバラになってだいぶ向こうの方に落っこちた。どうもゴブリンを5、6匹まとめて投げつけたようだ。メチャクチャなヤツだ。


「いまのはゴブリンだったよね?」


「そう見えたのじゃ」


 また巨人が前かがみになって、何かを投げつけてきた。


 ゴブリンの失敗に懲りたのか今度はオーガで、そのオーガはわたしたちの前方30メートルくらいに落っこちて潰れた。このまま投げさせているとオーガが命中してしまう。


「ナキアちゃん。巨人を重くしてみて」


「やってみるのじゃが、あまり期待はせぬように。……」


 巨人がまた前かがみになろうとしたみたいだけど、その場でひざを折った。


「重くするのは効いてる。歩けなくなったみたい。

 近づいていって不射の射で攻撃してみるから、二人はここにいて。不射の射が効くか効かないか分からないから効かないようなら戻ってくる」


 わたしは膝をついた巨人に向かって走っていき、射程に入ったところで不射の射を巨人の一つ目の顔に向けて放った。


 不射の射は命中したものの、巨人にダメージを与えることはできなかった。


 その代り巨人が引き連れていたオーガとゴブリンがわたしに向かって駆けだした。距離は300メートル。


 わたしは巨人に向かってもう2回不射の射で攻撃したけどやっぱり駄目だった。


 いかにオーガとゴブリンが雑魚と言ってもわたし一人で囲まれてしまえば危ないので、わたしは急いでナキアちゃんたちの元に転移で戻り、追ってくるオーガたちに向かって不射の射を連射した。


 ナキアちゃんもキアリーちゃんも近づいてくるモンスターに対して攻撃を始めたので、モンスターの数はどんどん減っていった。


「このまま巨人の子分たちを削り切ったら、また巨人に近づいていって今度は剣で切りつけてみる」


 押し寄せてくるオーガとゴブリンをわたしたちはどんどんたおしていった。


 依然巨人は膝をついたままで動いていない。もうすぐオーガとゴブリンは品切れになる。

 


「シズカちゃん。何だか巨人おかしくない?」キアリーちゃんが電撃を放ちながらわたしにそう言った。


 巨人の足元に広がるモンスターの死骸が巨人に吸い寄せられている!


 モンスターの死骸が巨人にくっ付いて少しずつ巨人が大きくなってる。不気味な光景がしばらく続いた。


 わたしたちに向かってきていたモンスターはあらかた片付いたものの、モンスターの死骸もどんどん巨人に吸収されていき、巨人はモンスターの死骸をまとって元の大きさの5割増しくらいになってしまった。頭もモンスターの死骸に覆われているけど、目だけは覆われていなくて、窪んだ眼窩からこちらを睨んでいた。


 死骸をまとって巨人は相当重くなっているはずなのに、その重みにも勝ったようで巨人はゆっくりと立ち上がりこちらに向けて歩き始めた。歩きながらも手前に転がっている死骸を吸収している。


「最初から気味の悪い巨人じゃったが体中にモンスターの死骸をくっつけてますます気味の悪い巨人になったのじゃ」


「気色悪いけど、強そうだよ。どうする?」


「射程に入ったら攻撃するしかないよ。

 攻撃が効かないようなら撤退だね」


「了解なのじゃ」「わかった」



 巨人が不射の射の射程に入ったのでとりあえず、巨人の胸の辺りを狙って撃ったところ、わずかにモンスターの死骸が吹き飛んだだけだった。


 さらに巨人が近づいてきたところでナキアちゃんのファイヤーボールが巨人の膝に命中した。ファイヤーボールは大きな音を立てて爆発したけれど、わずかにモンスターの死骸が吹き飛んだだけだった。


「これ以上近づけると危ないからいったん引こう」


 まずは馬車に繋いでいるシルバーとウーマをナキアちゃんの屋敷に連れ帰ろう。


 後ろを振り返ろうとしたら、あの巨大亀クルバンが巨人とわたしたちの間に現れ、巨人に向かって突っ込んでいった。巨大亀クルバンの足元にはジゼロンおじさんが立っていてわたしたちの方に向かって走ってきた。


「直接巨大亀クルバンを連れてきました。

 気味の悪い巨人ですね」


「そこらに広がっていたモンスターの死骸を集めてああなっちゃったんです」


「第2形態ってやつですな」


 ジゼロンさんがゲームのボスキャラの変身のことを知ってるとは思わなかった。


 背後では後ろ足で立ち上がった巨大亀クルバンと巨人がガチの接近戦なぐりあいを始めている。殴り合う音が凄まじい。どちらが動いても地面が揺れる。ただ、巨大亀クルバンは腕の代わりの前足が体に比べて短い上にこぶしに固められないのでパンチに今一つ迫力がない。


 ナキアちゃんとキアリーちゃんはバトルから目が離せないようだ。もちろんわたしもジゼロンおじさんもバトルを見ながら話してるんだけどね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る