第146話 調査2


 岩肌にぽっかりと開いた亀裂の中に入っていき1時間ほど歩いた。この間、亀裂の大きさはほとんど変わっていないし、前方も見えてる範囲で亀裂の大きさや形に変化はない。形は変だけど洞窟のようなものだ。


「何か面白いものはないかのー」


「水晶でも生えてれば面白いのにどこもかしこもただの岩だもんね」


「全くじゃ」



 そこからさらに1時間。わたしたちは亀裂の作る洞窟の中を進んでいった。


 そろそろ小休止しようか。と言おうと思ったら亀裂の先が見えなくなったというか、真っ暗になって途切れているように見えた。亀裂の先に相当大きな空間があるような。


 わたしたちは心持ち速足でそこまで歩いていくと、思った通りその先は大空洞だった。天井は高いところにあるようなんだけど、ナキアちゃんのライトの光が眩しすぎて良く見えない。


「ナキアちゃん、ライトの明かりを天井辺りまで上げられるかな」


「できると思うのじゃ」


 ライトの明かりがどんどん上に上がって、はるか上の方にあった天井に当たって止まった。


 そのおかげで、大空洞の向こう側の壁もなんとか見通すことができた。向こうまでは1キロ以上あるみたいだった。



 ライトの明かりが高すぎて足元が暗くなったので、20メートルくらいの高さまでライトの明かりを下げてもらった。


「すごいところに出たのじゃ」


「でも何もないね」


「確かに。わざわざここまで来てやったのじゃから、お駄賃に何か欲しいのじゃが何かないものか?」


「真ん中あたりまで行って、空洞の周りがどうなっているかよく見てみようよ。何かあるかもしれないよ」


 二人が大空洞の真ん中に向かって歩いて行く後をわたしも付いていった。


 空洞の真ん中まで近づいていきながら周囲を眺めたら、空洞の壁にはわたしたちがここまで辿って来たような亀裂がいくつもあるようだった。そして、空洞の真ん中と思われる場所には真っ黒で丸い石の台があった。石台の上には五芒星が描かれていて、その5つの頂点に魔石が置かれていた。石台が真っ黒なところ以外はこれまで何度か見たことのある召喚魔法陣と同じだ。


「これでモンスターを召喚したのじゃな」


「あれ、そこにもおんなじ石の台があるよ。

 あっ! あそこにも」


 結局全部で5つの召喚魔法陣が、一辺20メートルほどの正五角形の頂点の位置で見つかった。


「五角形の位置に並んでいるところが怪しいのじゃ」


「そういえば、この召喚魔法陣で召喚できそうなモンスターはせいぜいオーガまでの大きさじゃない? あの巨人はこの5つの召喚魔法陣を使って、召喚魔法陣の作る5角形の真ん中に召喚したんじゃないかな? それが分かったところで何がどうなるわけじゃないけどね。

 それでこれどうする? 壊しちゃう?」


「壊した方がいいと思うけど、壊してだいじょうぶかな?」


 もしこの魔法陣を置いたのが女神だったら、すごく怒りそうな気がする。


「この魔法陣は魔族が置いたものではないのであろう? とするといったい誰がこの魔法陣を置いたのじゃろう? それが分からぬまま壊してしまって大ごとにならんじゃろうか?」


 わたしの懸念をナキアちゃんが言ってくれた。


「わたしの勘なんだけど、これを置いたのは女神さまじゃないかな? 魔族でない以上わたしの知っている中ではそれ以外考えられないんだよね」


「わらわはシズカちゃんの言う女神をじかに見ておらんのでよくわからんところもあるのじゃが、それ以外の可能性となると確かに思いつかんのじゃ」


「ほんとに壊しちゃうとマズいなら、上に乗っかてる魔石をここまできたお駄賃にもらっておこうよ」


「それもそうじゃな。お駄賃にもらったと言えば女神さまも仕方ないと諦めるじゃろ」


 お駄賃でもらっていいのかどうかわからないけど、3人で魔法陣の上の魔石を頂いた。わたしが5個、ナキアちゃんとキアリーちゃんがそれぞれ10個だった。


「これからどうする?」


「お土産はもろうたものの、何か面白くないのじゃ」


「お土産貰っても何も起こらなかったし、やっぱり壊しちゃおうか?」


「試しに1つだけ壊してみてはどうじゃろか? それで女神さまが怒りだしたとしても、怒り方は五分の1で済むはずじゃし、もし怒りださなければ全部壊してしもうても何も起こらないはずじゃ」


「じゃあ、一つだけ。モンスタースレイヤーで硬いもの切りたかったんだよね」


 キアリーちゃんはモンスタースレイヤーを自分のアイテムボックスから出して、一番近くにあった石台に叩きつけた。


 ガン! と大きな音がして、石台に大きな亀裂が入った。


 しばらく何か起こるかもしれないと身構えたけれど何も起こらなかった。


 その後何度かキアリーちゃんがモンスタースレイヤーで切りつけたら空洞の底面から出ていた石台は壊れたんだけど、石台の根っこが空洞の底面にどこまでも続いているように見えた。


「ただの台かと思ったんだけど、根っこがあるよ。根っこまで壊さないとダメなんじゃないかな?」


「どうやれば根っこまで壊せるんじゃろか?」


「どこまで根っこが埋まっているのか分からないけれど、ナキアちゃんの祈りで急に冷たくしたり熱くしたりを繰り返していたらそのうち壊れると思う」


「ほう。それは面白い祈りの使い方じゃな。さすがはシズカちゃんじゃ。

 どれ、やって見るのじゃ。……」



 根っこの上に出ていた部分に霜がついて白くなった。そして霜が消えて表面が陽炎のように揺らぎ始めた。それがしばらく続いて、再度表面に霜が付いたと思ったら、空洞の底に埋まった根っこからと思われるピキピキ音がし始めた。見えてる部分の表面には小さな亀裂が無数に入っている。これならかなり下まで壊れたんじゃないかな。


 ナキアちゃんがもう一往復熱い冷たいを繰り返したところでピキピキ音と一緒に亀裂が広がって、見えている部分がボロボロに崩れた。さらに一往復。それでピキピキ音がおさまった。


「これくらいでいいみたいだよ。これなら根っこの奥まで壊れてると思う」


「やっぱり何も起こらなかったのじゃ。女神さまも怒らなかったようじゃし、ついでじゃから残りも壊してやるのじゃ!」


 とうとう残った4個の台座も砂になって崩れてしまった。


 台座を全部壊してしまったけれども何も起こらなかった。これでここからモンスターが湧き出てくることもないだろう。などと考えていたら、どこからかやってきた小石が足元に音を立てて転がった。


 あれ?


 と、思っていたら小石が続いて何回か足元に転がった。しばらくしたら足元が揺れ始め天井から雹が降るように小石が降り始めた。中には大きな岩も混じっているような。


「逃げよう」



 わたしは急いでナキアちゃんとキアリーちゃんの手を取っていったん山肌にできた亀裂の入り口前に転移した。


 その場で山の様子を見ていたら、亀裂の中から腹の底に響くようなゴロゴロという音が聞こえてきた。


「あの空洞潰れちゃったかな?」


「そうかもしれんのじゃが、わらわがあの台座を壊したことが直接の原因とは言い切れないのじゃ」


 誰の責任ってことはないけれど、やっぱり女神さまは怒っちゃったかな?


「まあ何であれ、最後は面白かったのじゃ。ヒャヒャヒャ」


「そうだね。アッハッハ」


 相変わらずの二人だった。


 とにかくこの中からモンスターが湧き出てくることはもうないだろうから、これで一件落着じゃないかな。



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