第68話 投擲武器2


 鍛冶屋を後にしたわたしはついでだったのでオーガの魔石をもう一つ売ろうと思い冒険者ギルドに寄った。


 わたしがホールに入ったら、わたしに気づいた連中はそれまでの会話を止めわたしを見た。


 今のわたしは鎧姿なので、わたしがわたしだってことを冒険者連中はすぐに認識してくれたようだ。


 買い取り窓口にはちゃんと担当のおじさんがいた。おじさんにオーガの魔石を1つ見せたところ今回のオーガの魔石は前回よりも大きかったようで金貨75枚で売れた。


 魔石は飛竜の魔石は1つとオーガの魔石が9個まだ残っている。かなりのお金持ちになった。この先、あの追い剥ぎたちを退治したらさらにお金持ちになれる。


「お前さん一体いくつオーガの魔石を持ってるんだ?」


「それは秘密です。

 お金が必要になったらまた売りに来るからよろしくお願いします」


「いくつ魔石を持ってるのか知らないが、お前さん本当にただものじゃなかったんだな。

 今じゃこのギルドの中でお前さんのことを知らないやつはいねえぞ」


「たまたま運よくオーガをたおせたってだけだから」


「謙遜するなよ。嫌味に聞こえるぞ」


「じゃあ、わたしの実力で軽く仕留めたってことで」


「アッハッハ。確かにその通りだ。これからもがんばってバンバンでっかいモンスターをやっつけてくれよ」


「ありがとう」


 おじさんにおだてられたうえ励まされて少し気分が良くなった。


 エレナちゃんイベントは午後からなのでまだ時間がだいぶある。


 わたしは壁に貼られた依頼票を見ておくことにした。わたしが依頼票を見ようと壁に近づいたら、その辺りにいた冒険者数名が黙って移動してくれた。気にしない気にしない。


 一通り依頼票を見たんだけど、食指が動くような仕事はないようだ。一つ気になったのは、南の森への調査隊の募集だった。定員は5名。最初の調査隊がまだ帰ってきていないことは冒険者ならほとんどの者が知っているだろうから集まりは悪いだろうなー。


 この依頼票には今現在何人人が集まっているのか書いていないけれど、どうせ誰も応募してないだろう。仕方ないと思う。誰だって自分の命は大切だもの。そう考えると、王都での調査隊募集に応募したわたしっておかしな人間になるんだろうけれど、調査隊に参加するはずのナキアちゃんたちを何とかして助けないといけない以上参加しないわけにはいかない。


 冒険者ギルドを後にしたわたしはまだ早いけど中央広場に行って買い食いでもして昼の代わりにすることにした。



 広場は沢山の人でにぎわっていた。わたしは肉の串焼きを2本買って左右の手に一本ずつ持って食べ歩きしていた。串焼きには甘タレがたっぷり塗られて実においしい。甘タレを売ってくれないかと屋台のおじさんに聞いてみたけど絶対ダメだって怒られた。ずいぶん食生活が豊かになると思ったんだけどなー。


 レーダーマップにときおり目をやってはいるけれど、もちろんレーダーマップには黄色い点しか映っていない。



 人ごみの中を串焼きを食べながら歩いていたら前を歩いていた男が急に立ち止まって振り向いた。左手に持っていた串焼きを口に運んでいたところだったこともあり右手に持っていた串焼きが男の着ていた服に当たって、べっちょりとタレが男の服についてしまった。


「何しやがる!」


 男はわたしに怒鳴りつけてきた。


 別に何をしたわけでもなく、わたしから見れば男が勝手にわたしの大事な串焼きにぶつかってきたわけなのでわたしは低い声で男に向かって「わたしの串焼きのタレを返せ!」と、いささか理不尽ともとれる返事をしてやった。


 あれ? 男の顔をよく見たら、先日この広場でわたしに絡んできた若い男だった。



 男もわたしのことを思い出したようで「あっ!」と、言ったまま人込みの中に逃げていった。ひょっとしてあの男って、エレナちゃんイベントのあのチンピラだったのかも?


 男はどこかに行ってしまったし、まだ起こってもいないイベントの犯人を特定することもできない。


 仕方ないのでわたしは串焼きを食べながらパトロールを再開した。歩いているうちにエレナちゃんイベントが発生した場所を思い出したのでそこで待機することにした。わたしが立っているあたりは例によって真空地帯になっていたんだけど仕方ないよね。


 結局3時近くまでその辺りにいたんだけどエレナちゃんイベントは起きなかった。いちおう王都行きのチケットは手に入れているのでこれはこれで良かったのだろう。




 翌日。


 指定時間に鍛冶屋に顔を出した。


「おはようございまーす」


「おう。

 できてるぜ。

 実際に投げてみたいだろうから裏に回ってくれ」


 おじさんの後について作業場を横切って作業場の裏手に回った。


 途中、鉄を溶かす比較的小型の炉が置いてあり、炉の脇におそらく鉄鉱石と木炭が積まれていた。ここで製鉄もしているようだ。若い作業員が小型のスコップを使って炉の中に鉄鉱石と木炭を交互に入れていた。投入が終わった作業員はすぐに炉に取り付けられたふいごの横から出ている足場?に乗っては下りてを繰り返して炉の中に空気を送り込んでいた。


「これだ」


 作業場の裏手は10メートル四方くらいの広場になって、広場の先には丸太が3本立っていた。訓練用または試し切り用のダミー(人に似せた訓練用の丸太)なのだろう。


 そして作業場から出たすぐ先の軒下に置いてあったテーブルの上にサンプルが並べて置いてあった。


 サンプルは大銅貨を厚くしたような円盤型のもの、しいの実型のもの、そしてそれらの大きさが一回り大きくなったもの4種類でそれぞれ10個置いてあった。


 投げ易さなどを考えながら一つ一つ手に持って確かめたところ、どれも一度に投げることができるのは指の間に挟んだとして4つが限度。握り方が楽なのは円盤型だった。


「投げてみてもいいですか?」


「もちろんだ。そこのダミーを狙ってくれて構わない」


 わたしはまず小型の椎の実型を人差し指と中指の間に挟んで3つあるダミーのうち真ん中のダミーに向かって投げつけた。


 バシッ!


 わたしが投げつけた瞬間椎の実弾しいのみだんはダミーに命中し、砕けてしまった。椎の実弾しいのみだんの命中した個所は抉れてしまった。鉄砲以上の威力がありそう。


「あのダミーはハンマーでぶったたいても跡がつくだけの丈夫な木を使ってるんだが、お前さん、ホントにとんでもないな。ダミーはダミーだから気にせずいくら壊してもいいからな」


「どうも」


 次に大きい方の椎の実弾しいのみだんを試してみた。


 バン!


 椎の実弾しいのみだんは狙い通り前回の椎の実弾しいのみだんが抉ったところに命中し砕け散った。ダミー側は木片を散らせて大きく抉られた。


 なんて言っていいのでしょう。恐ろしいほどの威力がある。これなら殺意を意識しなくても殺意判定されると思う。


 次は円盤型の小さい方。人差し指と中指の間に挟んでスナップを利かせてダミーに向けて投げつけた。円盤は円盤なりにちゃんと回転しながら目にも止まらない速さでダミーに命中した。


 シュッ!


 ダミーに命中したものの、円盤は狙った位置より下の方に流れていった。回転がかかっている関係で流れたと思う。今のでどの程度狙いを修正すればいいかは掴めた。円盤は砕けることなくダミーに突き刺さっている。



 そして最後は大きい方の円盤。


 指に挟んで同じようにスナップを利かせてダミーに向けて投げつけた。狙いはダミーの頭に相当する部分。回転によって軌道が下方に流れる分も考慮している。


 バーン!


 今度は円盤も砕けダミーも大きく抉られた。ダミーはボロボロになってしまったので取り換えは必至だと思う。


 おじさんの顔をチラ見したら、半分口を開けていた。ただの鋳物の円盤がハンマー以上の威力があったらおかしいもんね。


 投げた感じでは円盤型が投げやすかった。威力を考えて大きい方の円盤型をチョイスした。


「これを作ってもらえますか?」


「分かった。そいつは一番作るのが楽なヤツだ。

 それで何個欲しい?」


「1000個できますか?」


「1000個となると、そうだなー。明日の昼頃取りに来てくれ」


「代金はいくらになりますか?」


「金貨1枚だ」


 立派なダミーを壊したこともあり、何だか悪いような気がした。


「そんなのでいいんですか?」


「構わない。

 すごいものを見せてもらった」


「よろしくお願いします」と言って、おじさんに金貨1枚渡した。


 残ったサンプルは持って帰ってもいいと言われたのでありがたく頂いておいた。


 作業場に戻って再度よろしくお願いします。と、頭を下げたわたしは鍛冶屋を後にした。


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