第69話 投擲武器3


 鍛冶屋を出たわたしはおまけでもらった椎の実型大小各9個、円盤型大小各9個の投擲武器を使って少しでも慣れておこうと訓練することにした。街中でやたらと物を投げては危険人物になってしまうので、初めてだけど街の東側に行ってみることにした。東門があるはずと思って鍛冶屋前の道を東に向かって歩いていたら街の外壁が見えてきた。


 歩きながらわたしはアイテムボックスから指と指の間に円盤を出す練習を繰り返した。


 最初は右手の人差し指と中指の間。それに慣れてきたら、中指と薬指の間に同時に出す練習をした。それに慣れてきたら、薬指と小指の間、親指と人差し指の間を順に追加した。


 右手が終わったら今度は左手。


 そして両手。


 意外と簡単に一度に8枚の円盤をアイテムボックスから指の間に取り出せるようになった。


 一度に8枚の練習をしながら歩いていたら、外壁に沿った道に出た。その道を門がありそうな北側に向かって練習しながら歩いていったら広場があり、その右手に門があった。それほど難しいわけじゃなかったけれどわたしの読み通りだ。



 東門を出たら外壁の周辺は南門や北門の近くと同じように50メートルほど空き地になっていてその先は畑が広がっていた。そして畑の中を東に続く街道がまっすぐ伸びていた。


 街道の上にはそれなりの数の荷馬車や通行人が行き来している。


 どうも投擲武器の訓練ができそうな場所が見当たらない。


「困ったな」


 仕方がないので、街の外壁に沿って南側に移動していった。ある程度移動したところで、振り返ったら、街道をいく馬車も通行人もだいぶ小さく見えた。これならわたしが何をしているのか遠目では分からないはず。


 わたしは地面に転がっていた小石を拾って外壁の石組の上に30センチくらいの丸を描いた。的だ。


 的から20メートルほど離れたわたしはまずは椎の実弾しいのみだん小を一つ取り出して的に向かって全力を意識して投げつけてみた。


 バシッ!


 椎の実弾は的に見事に命中し外壁を抉って粉々に砕け散った。ほぼ予想通り。予想通りでなかったのは椎の実弾しいのみだんが命中した外壁の石の破損がひどかったことだ。あまりじょうぶな石ではないようだ。


 この的を狙うのはよした方が良さそうだ。壁を破ることはさすがに無いだろうがはっきりとした破損個所があるとそこが弱点となって壁が破られる可能性もあるし、そこに足をかけて外壁を乗り越える者が現れないとも限らない。


 もう少しじょうぶな的を探そうと南に向かってしばらく歩いていったところ、どう見てもタダの灌木が外壁周りの空き地に一本だけひょっこり生えていた。幹の太さで言うと太いところで20センチくらい。これって邪魔だよね?


 わたしはもちろん右利きなので左で物を投げたことなど一度もないはずだけど、左手に椎の実弾しいのみだん小を一つ持って、その木の幹の真ん中を目がけて投げつけた。


 器用さのおかげだと思うけれど違和感なく椎の実弾しいのみだんを投げることができた。


 そして椎の実弾しいのみだんは狙い通り灌木の幹に命中し砕け散った。そして灌木は椎の実弾しいのみだんの命中個所で折れてしまった。


 何だか弱い者いじめした感じだ。


 灌木を破壊してしまったわたしは、灌木の上の部分が邪魔だったので回り込み、まだ残って立っている灌木の下の部分に向かって右手に出した円盤小を投げつけた。


 円盤小は灌木の下半分に命中し、幹の中に完全に埋まってしまった。


 アイテムボックスからの出し方の訓練用に8個の円盤大は残しておかないといけないので、次は最後の円盤大と思って灌木の下半分に投げつけた。


 円盤は灌木の下半分の狙った場所に命中して砕け散り、的の灌木も上3分の1が吹き飛んだ。


「いい線だな。あとは左右4個ずつ計8個を同時に投げたいけど残った椎の実弾しいのみだん大8個と円盤小8個使って試すだけで終わりだな」


 円盤大1個で上の3分の1が吹き飛ぶようだと、8個同時投擲は無理だ。それに、左手で投げられるようになってはいるけれど、左右同時となると腕と手首のスナップだけの投擲になるので威力など望めない。結局右手4個が限度ということに気づいた。投げたらすぐに姿勢を戻しながらアイテムボックスから円盤の補充を右手で受ける練習をした方がいい。


 なんにせよ適当な的がないので南に向かって歩いていたら街壁の南東の角に到着した。そこで西に向かって歩いていけばそのうち南門の前にでる。


 そう思って歩いていたら結局手ごろな的が見つからないまま結局南門の前に到着してしまった。わたしは門番の兵士に冒険者証を見せて街の中に入った。


 門の先はあの広場なので大道芸を披露してもよかったけれど、おとなしく小鹿亭に戻った。


 こうなってくるとオーガの襲撃が待ち遠しくなるな。予定と言ってはおかしいけれど明後日の正午ごろオーガイベントが南門で発生するはずだ。エレナちゃんイベントはわたしがパトロールを積極的に行った関係で発生しなかったけれど、オーガイベントについてわたしは何も干渉していないはずなのでおそらく定刻にイベントが発生するはずだ。



 そして翌日の昼まえ。


 わたしは円盤大を受け取りに鍛冶屋に赴いた。


 円盤は木箱に入っていた。一つ4、50グラムあるので1000個だと50キロになる。鍛冶屋のおじさんはわたしがアイテムボックス持ちだということぐらい分かっているだろうから木箱に1つに詰め込んだのだろう。


「ありがとうございました」


 そう言ってわたしは木箱ごと円盤大をアイテムボックスにしまっておいた。ゴブリン相手なら『即死』が発動しなくても円盤大が命中するだけで仕留められるはずだ。




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