第67話 投擲武器1


 南門の前の広場で大道芸ならぬ『胡蝶の舞』を人前で披露して思わぬ収入があった。


 わたしが踊り・・を止めたいま人垣はなくなっている。


 人さまの剣術レベルがどれくらいなのかは全然分からないから剣術7がどれくらいすごいのか分からないけれど、今のわたしの身体能力を超える人間はそんなにいないはずなので、剣術に関しては人類最強と言ってもいいんじゃないかな。さすがにそれは言い過ぎか?


『即死』の発動の可能性を上げるため手数を増やす意味でスピードを上げたわけだから、ここらでちょっと真空切りの連射がどれくらい速くなったのか確かめたくなった。


 文字通り岩をも砕く真空切りなのでうかつに使うことはできない。何かいい的はないだろうか?


 真空切りの破壊力を確認するためではなく連射速度が分かればいいだけなので、空に向けて放つことにした。空と言ってもそんなに上に向けては放てないので45度くらいの角度で放つことにした。


 腰に下げていたムラサメ丸を鞘から抜き放ったわたしは、真空切りの連射を試して見た。射線に人がいては万が一のことがあるのでそこだけはしっかり確かめている。


『ナビちゃん、これから真空切りを10秒間連射するから時間を計って』


『はい。スタートの合図を出しますか?』


『お願い』


『それでは、いきます。3、2、1、ゴー!』


 わたしはゴーの声と同時に無我夢中で真空切りを空に向けて放ち続けた。


『……、8、9、10』


 ナビちゃんの10の声で動きを止めた。この間わたしは42回真空切りを放っていた。真空切りは見えないし、自分で放った自覚は全くないので実際真空切りを放ったのかは分からないんだけれど、とにかく42回わたしはムラサメ丸を振っていた。自分が怖い。これが正面の敵に向けてのものだったら、剣を振りやすい体勢になるのでもう少し回数が上がったと思う。


 真空切りでなくとも直接敵に切りつけても10秒あればだいたい2分の1の確率でどんな敵もたおせることが分かった。相手が10秒間黙って攻撃させてくれるかは分からないけどね。



 満足したわたしは、意味はないけれど癖でムラサメ丸を血振りして納刀し、一度体にクリンをかけて小鹿亭に帰っていった。


 小鹿亭に戻る道すがら、わたしは『即死』の発動期待値を上げる工夫を考えていた。


 例えば一度に10回攻撃できる武器があれば一気に発動確率は10倍? 一度に10回攻撃できる武器って思いつかないけどどっかに売ってないかな?


 いいことを思いついてしまった。パチンコ玉を10個くらい握って殺意を持って敵に投げつければ『即死』が発動する可能性は高まるはず。もちろんこの世界にパチンコ玉はない。苦無くないとか手裏剣のような小さくて鋭い武器を数揃えてやろう。鍛冶屋はどこかにあるはずだから鍛冶屋に頼んで作ってもらっちゃお。


 小鹿亭に帰ったところでカウンターで店番というか宿番をしていたニーナに鍛冶屋を知らないか聞いてみた。


「鍛冶屋さんは何軒かあるけど、ここからだと冒険者ギルドの横の道をまっすぐ行った先にあるよ」とのことだった。


 今日はもう遅いので明日の朝鍛冶屋に行くことにした。


 夕食を終えて、部屋に戻り、ベッドに横になってかれこれ考えたけど、投げつける物があまりチャチなものだと心情的に殺意を持てないかもしれない。その辺りの工夫は必要だ。一粒で岩をも砕けるくらいの威力があればおのずと殺意を込めることになるので、『力』に1SSポイントを割り振って『力』を10上げてもいいかも知れない。


『即死』を含めてSSポイントをもう4ポイント使っているから、今の『力』でその程度の威力があるのか見極めてから、最終的にどうするか判断しよう。



 翌朝。


 朝食後すぐに冒険者ギルドの横道の先にあるという鍛冶屋に向かった。午後からはエレナちゃんイベントが発生する可能性があるのでそれに備えて鎧姿である。


 冒険者ギルドの横の道を1キロほど進んでいったらそれらしい作業場があった。


 扉が開いていたので作業場の中に入って人を探したんだけどすぐには見つからなかった。


 キョロキョロしていたら作業場の奥の方から体格のいい初老のおじさんが出てきた。


「済みません」


「なんだ? おまえさん」


「頼みたいことがあってやってきました」


「俺は素人を相手にするような暇はねえんだ。とっとと帰りな」


 確かに、ご説ごもっとも。とはいえせっかくここまで来た以上ハイそうですか。と、言って帰れないので食い下がることにした。わたしに背を向けて向こうの方に歩いていった親方らしき人物の背中に向かって、自己アピールしてやった。


「素人かもしれませんが、これでもオーガを倒したこともあれば飛龍を倒したこともあります」


 おじさんはわたしの言葉を聞いてその場で立ち止まり、Uターンしてわたしのところに戻ってきた。


「あのな、冗談はよせ。叩き出すぞ」


「証拠ならあります」


「なら、その証拠とやらを俺に見せてみろ」


 わたしはアイテムボックスの中から飛龍の魔石とオーガの魔石を取り出した。


「こっちの大きい方が飛龍の魔石で、こっちがオーガの魔石です」


 おじさんは2つの魔石を交互に眺めたあとわたしの顔を見た。


「お前さん、ひょってして、この前ギルドにオーガの魔石を持ち込んだっていう、女冒険者なのか?」


「そうですね。オーガの魔石を1つ売り払いました」


「たしかにお前さん歳に似合わずそれなりの実力がありそうな雰囲気あるものな。

 なるほどわかった。お前さんの頼み事を言ってみろ」


 わたしはそこで、小型で一度に複数投擲できる武器が欲しいとおじさんに言ってみた。


「またなんでそんな物を欲しがる。そんなものじゃ大物は喰えないぞ」


 そこでわたしは正直に『即死』スキルのことをおじさんに詳しく話した。


「そういったスキルがあることは今始めて聞いたが、お前さんは普段剣とか槍とかで戦ってるんじゃないのか?」


「普段は剣と弓矢です。先制攻撃できればそれに越したことはないので。

 弓矢で先制攻撃はできますがそれだと1撃か2撃が限度なのでおそらく『即死』は発動しません。わたしが考えているのは飛龍などより手強い敵でそれが20匹以上いて、それぞれにオーガが数匹ついているような相手です。接近戦に入るまでに1匹でも多くたおしておきたいんです」


「お前さんが何と戦っているのか想像もできないが、だいたいのことはわかった。少し考えさせてくれ。

 で、お前さんの予算は?」


「1つ大銅貨1枚から2枚というところでお願いできればありがたいです」


「数は?」


「できるだけ多く」


「的に命中したとき、そいつが壊れてもいいんだな?」


「投げたあとの回収は難しいので壊れても構いません。それとある程度形と重ささえ揃っていれば精巧でなくて構いません」


「それなら鋳型を作って銑鉄を流し込んだあとバリにヤスリを掛けるだけでできるからかなり安く作れる。

 明日の今頃ここに来てくれ。なん種類か見本を作っておく。

 その中で使えそうなのを選んでくれ。1日あれば500個は作れる」


「わかりました。手付はいくらくらい置いていきましょうか?」


「大した金額になりそうもないから手付はいいや」


 わたしはよろしくお願いします。と、おじさんに頭を下げて作業場をあとにした。


 おじさんはかなり安くできるとは言っていたけど単価を大銅貨2枚=20Cとしても1000個で2万C=金貨4枚か。案外安いな。

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