第153話 大団円
ガーディアの未来について一応の解決を見た。明日香たちは自室へ戻り、わたしはナキアちゃんとキアリーちゃんを連れて宮殿の自分たちの部屋の前に跳んだ。
「着替えて夕食に呼ばれるのを待っていようよ」
「早めに着替えてシズカちゃんの部屋に集まって夕食までジェ〇ガじゃな」
「こんどこそ!」
よほどジェ〇ガが楽しかったらしい。
「ダンジョンに行ってきたけどお風呂に入らなくていいかな?」
「朝入っておるからクリンで十分なのじゃ」
「クリンでいいよ」
部屋に帰ってクリンをかけて着替えていたら、ナキアちゃんとキアリーちゃんがもう着替え終わってやってきた。テーブルの上に置いてあったジェ〇ガをナキアちゃんが積み始めたので、わたしも急いで着替えを終わらせた。
部屋中大騒ぎでジェ〇ガを5回ぐらいしていたら侍女がやってきて会食の準備ができたと知らされた。
侍女に案内されて食堂に行くと、明日香を真ん中に向かって右手にジゼロンおじさん、左手にガイウス宰相が座っていた。
わたしたちはナキアちゃんを中心に、左にキアリーちゃん、右にわたしが座った。
季節は夏なんだけど、宮殿内は空調が効いているみたいでちょうどいい温度と湿度だと思う。
そして、テーブルの上にはなんと季節外れのすき焼き?
テーブルの2カ所に穴が空いてそこにすき焼き鍋が置かれてた。ガスコンロ? 鍋の周りには山盛りになった霜降り肉、白菜、しいたけ、えのきだけ、ネギに季節外れの春菊。白滝に焼き豆腐、お麩。そして玉子。陶器の入れ物が置いてあったのでその中には割り下が入っているはず。
わたしたちが席に着いたらすぐに侍女がやってきて生ビールのジョッキを配り、枝豆の皿を置いた。
飲み物が行き渡ったところで明日香がジョッキを持ち上げた。
「この世界の問題が一つ片付いたことを祝ってかんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
ゴク、ゴク、ゴク。プファッ!
次にジゼロンおじさんがジョッキを掲げた。
「僭越ですがわたくしから、
魔族と人族のこれからの友誼を祈念して、かんぱーい!」
「「かんぱーい」」
ゴク、ゴク、ゴク。フー。
最初の乾杯でわたしたち3人は大ジョッキの半分まで飲んでいたので、2回目の乾杯で大ジョッキが空になってしまった。侍女がすぐに大ジョッキを3つ持ってきてくれた。
乾杯が終わったら2人の侍女が器用に箸を使って肉をすき焼き鍋の中に並べていった。肉を鍋に入れたとたんにジューっといい音がしたので火は入っていたみたい。
その後割り下をひたひたに入れて肉を追加で入れ、火が通ったところで脇に寄せて他の具材を入れていき、すき焼き鍋が一杯になった。
「イー匂いなのじゃ」
「おいしそうな匂いだね!」
向かい側の3人が生玉子をお椀に入れてかき混ぜ始めたので、わたしもお椀に生玉子を入れてかき混ぜながら、ナキアちゃんとキアリーちゃんにもマネするように言った。二人は当然箸は使えないので木でできたフォークを使って玉子をといた。
「生玉子をどうするんじゃろ?」
「みんなで鍋の中に入れるのかな?」
「この中に熱々のお肉とか野菜を入れるんだよ。そしたら熱くなくなるし味が丸くなるんだよ」
わたしの説明で二人が理解したとは思えないけど、食べてみればすぐにわかるでしょ。
野菜にも火が通ってきたところで、侍女が各自のお椀に鍋から一通りの具をよそってくれた。
明日香たちも食べ始めているので、ナキアちゃんとキアリーちゃんが見守る中、生玉子の付いた肉を口にした。
おー、タレの甘じょっぱい味がしみ込んだ霜降り牛が舌の上で溶けていくー! A5(注1)が何を意味するのか実際のところ全然知らないし、A5の肉って意識して食べたことないんだけど、これはきっとA5に違いない。
わたしが何も言わず食べていたものだからナキアちゃんたちの真剣な目が突き刺さってきた。
「だまされたと思って食べてみて。
生玉子を食べてもなんともないけど、もし何かあってもヒールポーションもあればナキアちゃんの祈りもあるからだいじょうぶだよ」
キアリーちゃんがまずフォークで肉を突き刺して口に運んだ。そして何も言わず、また肉にフォークを突き刺して口に運んだ。
ナキアちゃんもすぐにキアリーちゃんのマネをして肉を口に運んだ。
「なんじゃー!? おいしすぎる! これは人が食べて良い物ではないのじゃ!」
肉の次に白菜を口に運んで「野菜もおいしすぎるのじゃ!」
キアリーちゃんはシイタケを口に運んで「このキノコ赤くないけどおいしいね!」と、一言。
キアリーちゃんのお椀の中身もナキアちゃんのお椀の中身も玉子を残して空になってしまったので、すぐに侍女が二人のお椀によそってあげた。そしてすぐに空になってしまった。
「生玉子が少なくなったらまた割って入れればいいんだよ」
空いた鍋の中はすぐに補充される。最初に盛ってあった肉はあっという間になくなったので、すぐに追加の肉が山盛りになって運ばれてくる。高級牛肉食べ放題だよ。
またまた敗北感を味わいながらおいしくいただいてしまった。
空調の効いた部屋で、温かいすき焼きを食べながら飲む冷たいビールがまたおいしい。
何回目かのすき焼きのお替わりしたらだいぶお腹が落ち着いてきた。
「わたし思うんだけど、あの3つの白い玉を含めてダンジョンで静香たちが見つけたアイテムって、静香があのダンジョンの中で見たっていう
「うん。あり得るね」
「特にあの白い玉は、この世界の管理者では作れないものだったわけじゃない」
「そうだね。自分で作れるならとっととあのミイラと入れ替えただろうし、巫女自体不要だものね」
「でしょ。そんなことできる存在で、妙に静香やわたしたちに好意的な存在って言えば」
「
「さいたま?」
「わたしサイタマ国出身てことにしてるんだよ」
「よくわかんないけど、それでつじつまが合うでしょ?」
「そうだね。サイタマの神さまに愛されてたってことだね」
「そういう考えもあるかもね」
ナキアちゃんとキアリーちゃんはわたしと明日香の話など耳に入っていないような勢いですき焼きを食べていた。
向かいに座ったジゼロンおじさんとガイウス宰相は今の話にうなずいていた。
確かめようもない話だし、これから先も今まで通りわたしや明日香の面倒を見てくれるか分からないけれど、感謝の気持ちを込めてわたしは大ジョッキを一気飲みした。
「プファ!」
わたしの謎の行動に向かい側の3人は驚いていたけど、ナキアちゃんとキアリーちゃんはわたしに付き合って新しいジョッキを用意してもらって一気飲みした。
「「プファ!」」
なんだか、三人の団結を誓う桃園の誓いみたいだな。いや、三人で団結、略して三人団?
生玉子を補充しつつ、お椀を5回お代わりしたところで、そろそろ締めのうどんにしようということになった。二人の侍女が鍋の中のものをある程度各自のお椀に取り分けた後、うどんが鍋に投入された。
鍋焼き風にグツグツ煮立ってから、各自のお椀にうどんが取り分けられた。
お椀の中で残っていた生玉子は熱々のうどんで固まった。
表面が薄茶色になったうどんを1本箸で摘まんで口の中に。うどんだよ。肉うどんだよ。またまた敗北感の中でおいしくいただいてしまった。まさかこの世界に来てこんなものが食べられるとは。生前の友誼が実を結んだというべきだな。
うどんのあとシャーベットが出てきてそれでお開きになった。お腹をさすりながらわたしたちは侍女に案内されて部屋に戻っていった。
「お腹はいっぱいなのじゃが、ちょっと飲み足らなかったのじゃ」
「そうだね。きょうはビールばっかりだったしね」
「じゃあ、わたしの部屋で飲み直ししよ」
「そのつもりだったのじゃ」
「うん」
わたしたちは、わたしの部屋で濃いお酒のヒールポーション割を飲みながら、明日からの予定を考えることにした。
「西に向かっておったらエライことになっちゃったから、今度は北か南へいってみようか?」
「それだったら、北かな?」
「どっちでもいいのじゃ」
「でも、使節団の護衛の件があるから、10日くらいでいったん王都に戻らないといけないよ」
ゲランさんがブレスカから王都にやってくるからターナー伯爵の王都邸に顔を出して仕事が入ったと伝えてもらわないといけないから南にいった方がいいか? ブレスカ経由で南に行くならブレスカで用事を済ませられるし。
「そうじゃったな。まっ、今まで通りなるようになるじゃろ」
「そだね」
ナキアちゃんの言う通り、これからもなるようになるよね。
2時間ほどお酒を飲みながら駄弁っているうちに少し眠くなってきたので、その辺りで2次会はお開きになった。
二人が自分の部屋に帰っていきわたしもベッドに横になった。
「さー、これから100年。この世界を満喫するぞー!」
(シズカ編、完、次話より明日香編となります)
注1
A5などの等級について。ABCとあるそうですがABCは歩留まりを表すそうで、数字が品質だとか。ここに、詳しく書いてありました。https://www.yanochikusan.co.jp/62/
[あとがき]
ここまでお読みいただきありがとうございます。タイトルを回収したところでシズカの物語は終わりました。次話以降堀口明日香がこの世界に召喚されてから静香と再開するまでを描く明日香編が16話ほど続きます。最後までよろしくお願いします。
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