第154話 堀口明日香1、ジゼロン召喚

[まえがき]

明日香がガーディアに召喚されてから静香と再開するまでを描く明日香編、全16話となります。主人公は堀口明日香。相方はジゼロンということになります。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ガーディアの管理者と名乗る女神さま?のおかげで、交通事故で死んでしまうところだったわたしは異世界ガーディアで第2の人生を送ることになった。女神さまのわたしに対する要望は魔族を発展させて、人族に脅威を与え人族がかつてのように魔力を使いこなせるよう刺激して欲しいとのことだった。


 女神さまの依頼を了承したわたしは、web小説やアニメでよくあるようなステ振りも見た目の調整なんか何もなく、ただ年齢だけどうするか聞かれた。今の年齢より若返っていた方が良かったと後で思ったんだけどその時は何も考えることなく今の年齢のままにしておいた。


『それでは、アスカ・ホリグチ、ガーディアにようこそ』


 ……。



 気付けばわたしは廃城の大広間に立っていた。そこが廃城だったってことはこの時は知らなくて、ずいぶん陰気な場所だなーって思ってただけ。


 その広間の石でできた床の真ん中、わたしの目の前にすごく大きな魔法陣が描かれていた。女神さまによると相応のSP(召喚ポイント、サモンポイント、注1)を使ってその魔法陣から必要な人や物を召喚できるという話だった。わたしの想像できないようなものだと召喚できないとも女神さまに言われた。逆に言えばわたしの想像できるものならたいていのものは召喚できるのだそうだ。


 魔族を発展させるために何が必要か? その前にわたしの生活基盤を整えることが第一。いちおう女神さまからリュックサックのような背負い紐の付いた内部時間停止機能付きのマジックバッグを貰っていて、その中に当面の生活で必要な衣料品、当面の食料や飲み物、食器なども入っている。なにもなくても1カ月程度はそれだけで生活できるけどそれから先の当ては目の前の魔法陣とSPポイントしかない。


 今いる場所が廃城だということは、さっきも言ったように後から知っただけ。野ざらしではないので雨風はしのげそうだから、野宿に比べれば天と地の差がある。



 魔族については、わたしが今いる場所の周囲に小さな集落をいくつか作っているということしか女神さまから聞いていなかったので、わたしは魔族のことは後回しにした。それで、一人では心もとないし、わたしにはSPポイントしか能力がないので信頼できる部下を最初に召喚することにした。


 今現在わたしの自由になるSPは10万ポイント。1日経てば1000ポイント補充されるそうだ。ということは10万ポイント全部使ってもいいってこと。


 安物買いの銭失いでは情けないので、出し惜しみせず今持ってる全SP10万ポイントを使って召喚できる最高の部下を召喚すことにした。部下を召喚するにあたり、召喚という言葉から無意識に召喚獣を考えた。



 わたしの知る限り最高の召喚獣はドラゴン。知性も高く人の言葉も話せるはず。10万ポイント使って便利スキルを持ったドラゴンを召喚しちゃおう。


 召喚方法は、魔法陣の前に立って召喚するものを頭に描けば召喚できるそうだ。わたしは10万ポイントで召喚できる最強のドラゴンを召喚したいと願った。ついでにもったいつけて呪文のようなものも唱えてやった。こういった物はイメージが大事だものね。


「出でよ、わがしもべ、最強、最高のドラゴン、スキルマシマシ!」


 そしたら、魔法陣の複雑な模様が青白く輝き始めた。そして青白い光が金色の光に変わっていきそこには巨大な金色のドラゴンが召喚されていた。


 出たー! とは思ったんだけど、なぜか全然ビックリはしなかった。


『われを召喚したのはそなただな。われに命を与えてくれて感謝する。

 われはそなたに永遠の忠誠を誓おう』


 ドラゴンの言葉がわたしの頭に直接響いたんだけど、わたしはこれにも驚かなかった。


「わたしの名まえは明日香。あなたの名は?」


「われにはまだ名はない。名を付けていただければありがたい」


 いきなりそう言われてもねー。仕方ないので以前読んだweb小説の主人公の名まえをもじって、目の前に立つ金色のドラゴンの名まえにすることにした。


「あなたの名まえはジゼロン」


『ジゼロン。よい名だ。ありがとう。わがあるじよ』


「ジゼロン、あなた大きすぎて話すのに一々首を上げなきゃいけないから面倒なの。人の姿に成れないかな? 便利な能力マシマシで召喚したからそれくらいできるよね」


『人化可能だが、どのような姿かたちを取ればよいのか?』


「そうねー。あなたの名まえの元になった人物をわたしが思い描くからその人物っぽく変身してくれればいいわ」


『了解した』


 わたしがジゼロンの元になったweb小説の主人公の姿を思い描いたら、金色の光の渦にジゼロンの姿が覆われ、その渦がだんだん小さくなって、渦がなくなったら人の姿が現れた。マッパだったら嫌だったけどちゃんと現代風の普段着を着ていた。


「なかなかいいじゃない」


「そうですか」


 ちゃんと人らしく受け答えした。優秀、優秀。


「ドラゴンの時はあなたの声が頭の中で聞こえてたけど、いまは普通にしゃべるのね」


「ドラゴンのままでは口の形状などから人の言葉はしゃべられませんので、ああいった形でお話ししました」


「確かにドラゴンの口だとうまく発音できそうにないものね。納得だわ。

 さっそくだけど、あなたはわたしの片腕なんだから、これからわたしのためにキリキリ働いてちょうだい。いいわね?」


「もちろんです」


「そのためにも、わたしの目的を知ってたほうがいいわよね?」


「はい」


「まずは、この城の周りに散らばっているという魔族を集めて彼らを発展させたいのよ」


「つまり魔族の国を作るということですか?」


「そうね。そういうことになるわね」


「そうすると、わがあるじどのは女王陛下ですね?」


「そういえばそうね」


「それでは、これからあるじどののことは陛下とお呼びしましょう」


「ちょっと大げさだけどまあいいわ」


「それではまず、魔族たちをここに集めて、建国の儀式でも行いますか? そうすれば魔族たちも陛下に忠誠を尽くしやすくなると思います」


「あなた、なかなか鋭いわね」


「ありがとうございます」


「でも、今のこの陰気な場所では建国の儀式といってもちょっと寂しいんじゃない?」


「それもそうですね」


「何とかならない?」


「わたしではいかんともできません」


「ドラゴンなんだものね」


「申し訳ございません」


「ジゼロンを召喚するためにSPを全部使っちゃったから明日になって新しいSPが手に入らないと何もできないのよ」


「それではわたしは何をしましょうか?」


「いちおう、わたしのボディーガードを頼むわ」


「かしこまりました」


「そういえば、ジゼロンは食事できるの? というか食事必要なの?」


「食事はできますが、10年や20年なにも食べなくても支障はありません」


「あら、便利なのね」


「まあ、ドラゴンですから」


「まずは、この場所の周囲を見てみたいんだけど」


「了解しました。出口はあちらです」


「ジゼロン。あなた召喚されたばかりのくせに、分かるの?」


「はい。わたしの周囲500メートルほどどうなっているか分かるんです」


「それは便利ね。どうでもいいことだけどあなたメートル法なの?」


「はい。陛下の頭の中にある単位と同じにしています」


「ありがとう」


「どういたしまして」


 わたしはアイテムバッグ《リュック》を背負って前をいくジゼロンについて歩いていった。大広間の出口には外れて倒れた扉がありそこを踏み越え、暗い通路をまっすぐ歩いていたら少しずつ明るくなって、同じように扉のなくなった玄関らしきところから建物の外に出た。


 途中、ミイラ化した死体や白骨化した死体がいくつも転がっていた。おそらく魔族の死体なんだろう。南無阿弥陀仏。


 建物の外はかつては石畳でちゃんと舗装されていたようだけど、今は荒れ地で石畳の石と石の間とか、石畳の石が抜けたところから緑の雑草が生えていた。ここには白骨化した死体があるかと思ったけど、錆びた金属の混ざった白い堆積があるだけだった。南無阿弥陀仏。


 そんな中、足元を気にしながら少し前に進んで後ろを振り返ったら、崩れかけた大きな廃墟が見えた。





注1:SP

サモンポイントのことなので本来なら別の表記の方がいいんでしょうがここではSPポイントと表記しています。

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