第155話 堀口明日香2、城と魔族


 わたしがこの世界にやってきてさっきまでいた場所を振り返って見たらすごく立派な・・・廃墟だった。


 かなり長い間廃墟のままだったみたいだから、いきなり崩れることもはないと思いたい。けれど、逆に言えばいつ崩れてもおかしくない。


 なにせ大切な召喚魔法陣が鎮座する大切な場所だ。早急に崩落しないよう全体的な片付けをして、ちゃんと住める新たな建物を作りたい。



 今わたしが立っている場所は雑草の生えたボロボロの広場で、広場の先の方には塀の残骸らしきものがわずかに残っている。


 塀の残骸の間から見えるのはところどころに小さな森と廃墟らしきものがある一面の草原だった。その草原のずっと先に青く連なる山並みが見えた。頂上辺りに白いものが見えてはいなかったけれど、かなり高い山々に見える。


 この辺りのどこかに魔族が住んでいるはずだけど、どのあたりに住んでいるのかはここからだと全然分からなかった。


「ジゼロン。召喚魔法陣のある広間の天井が抜けたりしたら大ごとだから、崩れる前に上から順に瓦礫を取り払って適当なところに片付けてくれる? それくらい出来るわよね?」


「だいじょうぶです。

 手前から片付けていきましょう」


 そう言ってジゼロンはわたしから少し離れて金色の光に包まれた。


 だんだん金色の光の渦が大きくなって、光が消えた時、金色のドラゴンが立っていた。演出は大事だとは理解できるけど、毎回これを見せられるとなると早送りしたくなるわ。


 ドラゴンの姿に戻ったジゼロンは廃墟の玄関部分から解体を始めた。手を使って崩れかけの石材をどこかに片付けていくのかと思ったんだけど、ジゼロンの手が触れた石材が消えていく。


「ジゼロン、あなた石材をどうしてるの? 石材が消えてるんだけど」


『アイテムボックスの中に一度しまってから、適当なところに行って処分しようと思っています』


 なるほど、便利スキルマシマシのジゼロンだけのことはある。


「すごいじゃない」


『ありがとうございます』


「アイテムボックスって容量に限界があるんじゃないの?」


『ありますが、この廃墟程度なら全部収納できます』


「あらま。スゴイじゃない」


『わたしはドラゴンの最高位、エンシャント・ゴールドドラゴンですから』


「そうだったんだ。どうりで立派だものね」


 話しながらも廃墟はどんどん片付いていき、1時間ほどで床の石材だけを残して廃墟はすっかり片付いてしまった。ジゼロンもドラゴン形態からまた人化した。


「ジゼロン。ここって何だったと思う?」


「おそらく城だったのではないでしょうか」


「やっぱり」


 ここにやって来た時は屋根の下で雨風がしのげると思ったんだけど、上物うわものが何もなくなった以上露天で寝ることになっちゃった。でもいつ崩壊してもおかしくないような廃墟で寝るよりいいでしょ。


「屋根がなくなっちゃったから、今夜は野宿だね」


「陛下、地下室があります」


 床はしっかりしているから、地下室もしっかりしてると思うけどどうなんだろ?


 その前に、お城の地下室って本当の意味でダンジョンじゃない。長いこと使っていなかったとしても拷問部屋とかそんなところで寝起きしたくはないんだけど。


「ジゼロン。その地下室が使い物になるか見てきてくれる?」


「使い物というと?」


「当面わたしが寝起きするという意味で清潔かどうか」


「了解しました。その観点で確認してきます」


 ジゼロンは軽い足取りで廃墟跡の石の床を歩いていき階段らしきところから地下に下りていった。そして5分ほどで戻ってきた。


「だいじょうぶでした。いろいろ不要物が転がっていましたので片付けておきました」


 魔族の白骨化した死体もあったんだろうな。


「ありがとう。案内してくれる?」


「はい」


 ジゼロンのあとについてわたしも階段を下りて地下に入っていった。


 階段を下りた先の地下には天井のかなり高い通路がまっすぐ続いていて、その通路の左右の壁には出入口が何個かついていた。ジゼロンが片付けたのか今は扉のようなものは何も付いていなかった。


 一番近い出入り口から中をのぞいたら、そこは間口10メートル、奥行き20メートルほどの結構広い部屋だった。部屋の床は石材で、以前何かを置いてあったのか色の違うところがあった。心配していた血の痕などどこにもなく結構きれいな部屋だった。


「どの部屋もここと同じような感じで倉庫だったようです。使い物になりそうなものは何もなかったのでアイテムボックスの中に片付けました」


「どれも同じなら、ここを当面のわたしの部屋にするわ。

 明日になれば、いろいろなものが召喚できるようになるはずだから、そしたら必要なものを揃えてちゃんとした部屋にしましょう」


「陛下、大工仕事のできる魔族を何人か召喚してはどうです?」


「魔族なんか召喚できるのかな?」


「わたしが召喚出来た以上魔族は簡単に召喚できるはずです」


 確かに。


「じゃあ、大工だけでなく、他の技術を持った魔族も召喚した方がいいわよね」


「そうですね。いずれこの地に宮殿を建てることを考えれば建築技師、土木技師のほか、もろもろの工人や職人が必要となるでしょう。大掛かりな土木工事や建築工事での実作業はゴーレムを召喚すればいいかもしれません」


 なるほど。わたしだけだとそこまで思いつけなかった。思いつけたとしても本当に必要になってからだろうから後手後手になっていたはず。ジゼロンを召喚して大正解だった。ここの生活とか魔族のことが落ち着いたら現代科学とまではいかないまでも近代科学的な研究者を召喚するのもアリのような気がする。


 ただ、必要なスキルを持った魔族を召喚するのにどれくらいSPポイントが必要になるのかが問題よね。明日って、午前0時ってことでいいのかしら?


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