第140話 ゴルレウィン。カディフ2。
ゴルレウィンの山岳地帯で発生した亀裂から湧き出したモンスターたちはオーガ1匹ごとにグループを作って周囲に広がっていった。オーガの数は約3000。一匹のオーガに従うゴブリンはホブゴブリンを含めて20から30。
モンスターたちは寝静まった村落を襲い家屋を破壊し住民を無造作に殺害していった。小規模な街に侵入したモンスターも抵抗らしい抵抗を受けることなく建物を破壊し、住民を殺害していった。
夜が明けるころには、外壁など持たない数十の村と小都市がモンスターによって蹂躙されほとんどの住民は虐殺された。中規模以上の都市ではモンスターとの戦いが続いていたが、どの戦場でも1匹のオーガを仕留めることと引き換えに数十人の守備隊員や冒険者が命を落としている。
都のゴルレウィン軍の動きは鈍く、2日後事態を把握した時には、多数のゴブリンを従えたオーガ約1000匹がゴルレウィンの都の外壁を囲んでいた。都からは各国に救援を求める急使が派遣されたが途上でモンスターに襲われ誰一人として使命を果たすことはできなかった。
都を守るゴルレウィン軍の守備隊と近衛隊は消耗しつつもモンスターの侵入をなんとか防いでいた。しかし防衛戦が半日経過したところで、一つ目の巨人が現れ広範囲にわたって外壁を破壊してしまった。
一つ目の巨人が開けた外壁の破孔から雪崩を打ってモンスターたちが都内に侵入し、ゴルレウィンの都は無数のモンスターに蹂躙されゴルレウィン軍の兵士たちだけでなくほとんどの住民がモンスターによって虐殺された。
一つ目の巨人は街の蹂躙に加わることなくしばらくその場で留まっていたがやがて東に移動を始めた。
ゴルレウィンの都が陥ちて3日後。ゴルレウィンはモンスターによって滅び去った。
ゴルレウィンを滅ぼしたモンスターたちも含め、ゴルレウィン全域に散っていたモンスターたちは一つ目の巨人を追うように東に移動を始めた。モンスターたちの目指す東方にはシズカたちの国ドライグ王国がある。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ナキアちゃんたちが帰ってくるのをフカフカのベッドに横になって待っていたら案の定眠ってしまった。予想通り過ぎて驚かなかった。ナキアちゃんたちも帰宅しており、お風呂の準備もできたと部屋の外から声がかかったので目を覚ました。クリンをかけて頭も体もスッキリ。
わたしは着替えを持って教えてもらっていた風呂場に向かった。
脱衣場で裸になっていたら、お風呂場からナキアちゃんとキアリーちゃんの声が聞こえてきた。
急いで裸になったわたしは、タオルだけを持ってお風呂場に入った。
湯舟にはナキアちゃんとキアリーちゃんが並んで入っていた。
「祈りで湯加減はちょっと難しかったのじゃが、なんとか慣れたのじゃ。溜め湯の方は熱めにしておるから使う時は桶にとって適当に水を足してから使うのじゃ」
溜め湯が入った大きなたらいから桶で湯をすくいその中にウォーターで水を足してちょうどいい温度まで下げて掛湯をした。溜め湯の隣りには水の入ったたらいも置いたあったあったのはウォーターが自由に使えない人用の水なんだろう。
わたしも湯舟に入ったら、少しお湯がこぼれてしまった。
「ナキアちゃん、ここの水はどうやって汲んできたの?」
「子どもたちが井戸から運んでくれるのじゃ。この屋敷の掃除とそういった仕事は子どもたちがやっておる。
ナキアちゃんは本物の慈善事業家だった。
体の温まったわたしたちは湯舟から上がって体を石鹸で洗った。この世界の石鹸は固形石鹸だし泡立ちが悪いと思っていたんだけど、使ってみたらよく泡立ったしいい匂いもした。その石鹸で体を洗ってお湯で流したら気持ちよかった。
「この石鹸泡立ちいいね。匂いはプリフディナスのお風呂にあったボディーソープみたい」
「そういえばそうじゃな。1年ちょっと前にできた雑貨屋から買っておると言う話じゃった。以前の石鹸は泡立ちも悪いし臭いもきつかったのじゃが、この石鹸に変えたら、もう昔の石鹸は使えないのじゃ」
「そうなんだ」
「その分値段はするみたいだよ」
「それはそうだよね」
髪の毛はどうしようかと思ったんだけど、二人とも頭は洗わないようだったので空気を読んだわたしも頭は洗わなかった。
体を洗ってもう一度湯舟のお湯に浸かった。風呂から上がる前に3人で軽く風呂場を掃除してから減った湯舟のお湯と溜め湯を補充しておいた。
脱衣所の中に置いてあったバスタオルで体を拭いたんだけどフカフカでよく水気を吸ってくれた。これもさっきの石鹸を売っていた雑貨屋で買ったという話だった。
わたしたちが出た後子どもたちが入り、夕食後に後片付けを済ませた屋敷の使用人たちが風呂に入るそうだ。屋敷の使用人たちがお風呂に入るころにはかなり温くなるので、ナキアちゃんが温め直すといっていた。
今まで風呂に入る時は午前中からお湯を沸かし、風呂の準備ができたらナキアちゃんから順に風呂に入っていき昼前までに入り終わっていたそうだ。現代日本だとガス湯沸かし器のおかげで好きな時好きな量のお湯が使えるわけだからそう言った工夫は皆無。この世界にいた方が創意工夫とまでは言えないけれど少し頭を使うのかもしれない。
お風呂から上がって簡単に体を拭いてクリンをかけたらすぐに体が乾いた。
持ってきた着替えを着たんだけど、ナキアちゃんとキアリーちゃんはプリフディナスでもらったおしゃれな服を着ていた。何それ、ちょっとずるくない? まあいいけど。
「早く着たかったのじゃが、機会がなかったものでな」
「屋敷の中だと、ビックリさせてもだいじょうぶだもんね」
着替えを済ませたわたしは一度部屋に戻って、アイテムボックスの中に入っていたプリフディナスでもらった服をクローゼットに並べたりしていたら夕食の準備ができたと告げられた。
大食堂の場所は教えてもらっていたので一人でもだいじょうぶと思って部屋を出たらナキアちゃんとキアリーちゃんが部屋の外で待っていてくれていた。
3人揃って1階にある大食堂に入ったら子どもたちはもう席に着いていた。
テーブルは左右に10人くらいずつ座れる長テーブルで、白いテーブルクロスが掛けられ、各自の前に食器類。大皿料理が並べられ、取り皿、コップに果汁の入ったポットなどが所狭しと置かれていた。もちろんパンも大皿に盛られていた。最初は硬かったんだろうけどわたしがパンを手に取った時には柔らかくなっていた。
ナキアちゃんの席は家長らしくテーブルの先端で大食堂の一番奥。わたしとキアリーちゃんはナキアちゃんの一番近くに向かい合って座った。子どもたちは、わたしたちから二席ほど離れたところから5人ずつ向かい合って座っていた。
「みんな揃ったようじゃな。みんな腹ペコじゃろうから、食べてもよいぞ」
「「わーい」」
賑やかに食事が始まった。
夕食の間、ナキアちゃんが精鋭調査隊の選抜、訓練、海軍の船に乗っての往路、ウニス・ウニグ島でのモンスターとの戦い、そして魔族の都プリフディナスの驚異、最後にダンジョンと呼ばれる不思議な場所で魔法を覚えて大魔導聖女になったことを子どもたちに面白おかしく話していた。ナキアちゃん話うまいな。
2時間ほどで夕食会が終わった。使用人の人たちの後片付けを子どもたちが手伝うのであっという間に後片付けが終わった。ナキアちゃんはその間に使用人たちのためにお風呂の準備をしてやったようだ。わたしとキアリーちゃんは後片付けを手伝った。
その後、わたしたちは大食堂の隣りにある小食堂に移って酒盛りを始めた。さー飲むぞー!
いつもは床の上にいろいろ広げて飲んでるんだけど、今回はテーブルの上なのでちょっとだけ新鮮だ。いつもの果汁、氷入り濃い酒を3人で飲みながら駄弁った。肴は台所に用意されていたようで、ナキアちゃんが台所にあったつまみ類をアイテムボックスに入れて持ってきた。
翌日、翌々日とナキアちゃんとキアリーちゃんにカディフの街を案内してもらった。行く先々で街の人がナキアちゃんに頭を下げるので、ナキアちゃんの大物ぶりを実感した。通りを歩いて昨日の石鹸のことを思い出したナキアちゃんが、
「石鹸を仕入れた先はその先に見える雑貨屋じゃと思う」
「ある程度仕入れておこうか。あって悪いものじゃないし」
「そうじゃな」
雑貨屋の看板にはホーリー商会、カディフ支店と書いてあった。ということはこの国に何店かあるチェーン店ということか。
店の中は結構混んでいた。石鹸の他、ろうそくとかランプ用の油を買っていた。話を聞くとどちらも変な臭いがないか、いい匂いのするものだそうだ。そういえばナキアちゃんの屋敷の中も何だかいい匂いがしたもんね。ということで石鹸の他ろうそくとランプ用の油、それとタオル類を買っておいた。
夕食後の飲み会。
「時間があれば他の国にも行ってみたいんだけど、この国の周りの国ってどうなっているの?」
「馬車で教えたとおり西に半日行けばゴルレウィン。
北にはゴグレス。
南にグラッドアデという国があるのじゃ」
「東には?」
「東は海じゃ」
海 海
ゴグレス 海 海
ゴルレウィン ドライグ王国 海 海
グラッドアデ 海 海
「ここから一番近いゴルレウィンってどんな国なの?」
「一言で言うと山国じゃ。国の真ん中に高い山並みが連なっておる」
「何か見どころってあるかな?」
「景色だけは良いところじゃな。あと温泉があったのじゃ。ここから馬車で3日ほど先にも温泉があったのじゃ」
「それいいね。王都に帰らなきゃいけない日までまだ半月もあるから行ってみない? 石鹸とタオルは今日買ったの使えばちょうどいいし」
「そうじゃな」
「あったかい温泉のお湯につかりながら冷たいお酒を飲むのは最高だよ」
「シズカちゃんは恐ろしいことをよく思いつくものじゃな」
「明日の朝から行こうよ。ナキアちゃんが馬車を軽くするわけだから2日目の夕方には向こう着くんじゃない? 着いたらすぐに始められるよ」
「そうするのじゃ!」
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