第76話 不射の射


 王宮からの帰り道。


 わたしがすぐに調査隊に採用されず、採用試験まであることをゲランさんがわたしに詫びてきた。


「ゲランさんが気にするようなことじゃないし、わたしならだいじょうぶです。試験には必ず受かりますから」


 ゲランさんはわたしの言葉を慰めの言葉と思ったのかもしれないけど、試験内容は前回と同じだろうし、前回の試験の時より体力は相当上がっているので全然問題ない。



 ターナー伯爵の王都邸に到着した馬車から降りたわたしは、管理人のおじさんの娘さんに客室に案内された。


 わたしは弓術の訓練をしようと思い、防具は着けないまま勝手知ったる王都邸の中庭に出ていった。中庭の真ん中には懐かしのガーゴイル像がちゃんと立っていた。よかった。罪が帳消しになっていることに安心したよ。


 わたしは的をガーゴイル像と定め不射の不射を繰り返していった。


「……98。……99。……100」



 100回で少し汗が出てきた。すぐにクリンでさっぱりして、101回目から不射の不射を繰り返した。


 200回を過ぎたあたりでゲランさんが中庭にやってきた。


 ゲランさんに見られているので、弓を引く動作にそれっぽさを持たせてみようと思い立ったわたしは、擬音を発することにした。狙いも少し難易度を上げてガーゴイルの胴体から頭にした。


「ギュー、シュパッ、225。ギュー、シュパッ、226、……」


 システム音が頭の中に響いた。


『弓術6の熟練度が規定値に達し、弓術6は弓術7にレベルアップしました』


 とうとう弓術レベルが剣術レベルに並んでしまった。やったー!


 それから不射の不射を続けていたら昼食の時間になった。クリンをかけて部屋に戻ったらゲランさんが迎えに来てくれた。


 昼食をゲランさんと終えたわたしは、また中庭に出て不射の不射を始めた。


 午前中はスピード重視で不射の不射を続けていたんだけど、午後からは気持ちを落ち着かせ、精神集中まではいかないまでも、気持ちを的に集中することにした。具体的には、的を睨みつけるようにじっと見るだけなんだけどね。でもそうすると的が大きく見えてくるんだよ。そうなってしまうと必中の確信が持てるんだよね。外すはずないっていう。


「ギュー、……、シュパッ、10。ギュー、……、シュパッ」


 シュパッと口にした瞬間ガーゴイルの頭が破裂した。なにこれ? 遅れてわたしの頭の中にシステム音が響いた。


『アクティブスキル、弓技きゅうぎ「不射の射」を取得しました』


球技きゅうぎ』と聞こえて一瞬『?』となったけど、すぐに頭の中で理解できた。


『不射の射』ってスキルがあったのか。さすがに、中島敦先生の創作スキルがこの世界に昔からあったとは考えにくいから、わたしがこの世界に導入した可能性が無きにしも非ず。どっちでもいいけど。


 威力と、射程と、見えない矢の飛んでいく速さが今のところ不明だけど、ガーゴイルの頭の破裂具合からして真空切りより威力は高そうだ。弓術スキルなんだし、射程も真空切りより長いはず。これは有望なスキルだぞ。


 ガーゴイルを最初壊した時はビビったけど、2度目となると何とも思わないみたいだ。わたしは人として大事なものを失ったのかも? 言い方を換えたらスレちゃったかな。とはいえ、ゲランさんには一言謝らないといけないよね。


 不射の射の訓練をしたかったけど、何でもかんでも壊すわけにはいかないので、わたしは烏殺を取り出して射の不射で弓の訓練を続けることにした。ここなら弓の音が少々してもだいじょうぶだからね。


 夕方まで烏殺をビヨンビヨン鳴らしていたら夕食の用意ができたとゲランさんが中庭に出てきた。


 そこでガーゴイルの首を粉々にしてしまったことを報告した。


「『不射の射』ですか?」


「はい。何も持たず頭の中だけで想像上の弓と矢を持ってガーゴイルの頭を的に見立てて矢を射る訓練をしてたんですが、頭の中の想像上の矢がガーゴイルの頭を破壊しちゃったみたいなんです」


「なんとまあ。

 ガーゴイルがこうなってしまえば修理も難しそうですから、その不射の射の練習に使ってください。所詮は石の像ですし、また創ればいいだけですから」


「それではお言葉に甘えて」


 烏殺をアイテムボックスにしまったわたしは、不射の射の構えを取ってガーゴイルの胴体を狙った。


『ギュー、……、シュ』


 ドガン!


『シュ』の『パ』の前にガーゴイル像の胴体が粉々になり、翼と手足が地面に落ちた。わたしが想像の中で弓の弦を離した瞬間にガーゴイル像に命中した感じがする。


 今度は台座を狙って、


『ギュー、……、シュ』


 ドガン!


 台座が粉々に砕けた。


 こういった立派な物を壊すとスカッとするよね。


 ニヤニヤしていたわたしと違って、ゲランさんはビックリしたまましばらくガーゴイル像の残骸を眺めていた。


「ゲランさん、そろそろ行きますか?」


「へ? 食事でしたね」


 部屋に戻って軽く汗を拭いてからクリンでさっぱりしてから二人で食堂に向かった。



 翌日。


 的がないので不射の射はお預け。


 午前中は胡蝶の舞で剣術の訓練をして、午後からは昨日と同じで射の不射で弓術の訓練をした。



レベル29

SS=20

力:30

知力:30

精神力:29

スピード:42

巧みさ:37

体力:34


HP=340

MP=600

スタミナ=340


<パッシブスキル>

ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


マッピング2(72パーセント)

識別2(59パーセント)

言語理解2(87パーセント)

気配察知1(85パーセント)

スニーク1(44パーセント)

弓術7(65パーセント)

剣術7(45パーセント)

威風(9パーセント)

即死


<アクティブスキル>

生活魔法1(25パーセント)

剣技『真空切り』

アドレナリン・ラッシュ

威圧

弓技『不射の射』

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