第75話 再び王都


 追い剥ぎイベントをこなしたわたしたちは、一路街道を進んでいった。途中ベネットさんは駅舎などで泊まるたびに御者を雇おうとしてたんだけどいい人が見つからなかったようでずーっと御者をしていた。


 いい稼ぎになるので追い剥ぎがどんどんやってきてくれればいいとバチ当りなことを思ったけれどやっぱり一度きりのボーナスだったようだ。


 馬車はブレスカを出発して15日目の昼過ぎ王都に到着した。その間わたしは鋭い目つきを何とか和らげようと作り笑いを浮かべたりいろいろ試したところ、落ち着いてはいるけれど鋭いとまでは思われない目つきになった。と、自分では思っている。


 そして、わたしの弓術レベルは4から6になっていた。駅舎に馬車が到着し、夕食までの自由時間不射の不射をしていたんだけど、かなり変な人に見られたようなので、烏殺なしで本当の意味の不射の不射に切り替えた。そっちに切り替えてしばらく弓術の訓練をしていたら、もっと変人にみられてしまった。ドンマイ。


 王都までわたしたちの馬車が先行しその後をベネット家の馬車が後続していたんだけど、王都に入ってからはベネット家の馬車が先導してわたしたちの馬車が後続した。


 そして馬車はベネット邸に到着した。


 馬車を止めて御者席から降りたベネットさんがわたしたちの馬車まで駆けてきて「ここが母の家になります」と教えてくれた。わたしはもちろん知っていたけどね。


 そのあと、ベネットさんが門を開けるよう屋敷の中に向かって大きな声を出したら、屋敷の中から女性が二人、駆けてきて門を開けてくれた。


「先に馬車を中に入れてください」とベネットさんに言われたのでわたしたちの馬車が先に中に入って後からベネットさんの馬車が屋敷に入った。


 すぐに馬車からみんな降り立った。


 迎えに出てきた2人の女性にベネットさんが追い剥ぎに遭い危ないところをわたしたちに助けられたことと、お礼しなくてはならないので連れてきたというようなことを話していた。


 そういった話をしていたら玄関の扉が開いて、ベネットさんのお母さんが執事さんと数人のメイドを従えて現れた。


「母さん、久しぶり」「お久しぶりです」


「みんなも元気そうで何より。

 ソフィアもアレックスも大きくなったのね」


「おばあさん、こんにちは」「こんにちは」


「こんにちは。

 それで、こちらの方々は?」


 そこでベネットさんはお母マリアさんのことをわたしたちに紹介し、わたしたちのことをお母マリアさんに紹介した。


「そんなことが。

 お二人とも本当にありがとうございました。

 どうぞ中にお入りください」


 わたしたちは応接室に通された。部屋にはマリアさんとベネットさんとわたしたちの4人だった。


 椅子に座ったところですぐにお茶と茶菓子が運ばれてきて、テーブルの上に置かれた。


「どうぞ」


 お茶を飲みながら追い剥ぎのことや王都までの道中のことを話していたら、執事のおじさんがトレイを持って部屋に入ってきてそのトレイをマリアさんの前に置き一礼して部屋から出ていった。


「些少ですが、お礼です、お受け取り下さい」と、マリアさんがトレイの上に乗っていた小袋を持って立ち上がってわたしに差し出した。


 わたしも立ち上がってその小袋を受け取った。かなり重かった。


「お二人は王都ではどちらにお泊りでしょうか?」


「ブレスカの市長を務めていますターナー伯爵の王都の屋敷に数日宿泊する予定です」と、ゲランさんが答えた。


「今日一日でもこの屋敷にお泊りください」と、マリアさん。


 今の時間からターナー伯爵の王都邸に到着しても、それから王宮に回ってわたしのことを王宮の担当者に紹介する時間はないだろうということで、今回も前回同様ベネット家に泊まることになった。


 その日の夕食はわたしたち二人と、マリアさん、ベネットベンさんとローラさん、ソフィアとアレックスの7人でとった。


 今回のソフィアとアレックスは終始笑顔だった。



 翌日。昨日のメンバーで一緒に朝食をとった後、わたしたちを乗せた馬車はみんなの見送りの中ベネット邸からターナー伯爵の王都邸に向かった。ちなみに小袋の中には金貨が100枚入っていた。わたしが何か言う前にゲランさんから全部受け取るように言われた。



 わたしたちの馬車はベネット家を出て、当たり前だけど前回と同じく10分ほどでターナー伯爵の王都邸に到着した。


 荷物を王都邸で降ろした馬車はそのまま王宮に向かい、宮殿の車寄せで止まった。


 わたしとゲランさんが馬車から降り、宮殿の中の受付でゲランさんが受付の女性に書類を手渡した。



 しばらくして受付の中から出てきた女性に待合室に案内された。


「こちらでしばらくお待ちください」



 ゲランさんと椅子に座っておとなしく待っていたら、鼻ひげおじさんがやってきた。


「ヨーゼフ宰相の第一秘書を務めますメテルニーです」


「ブレスカ市長のターナー伯爵の秘書を務めますゲランです」


「シズカと言います」


「王国が募集している調査団のメンバーにどうかということで、ターナー伯爵のご推薦でブレスカからお見えになられた」


「はい。こちらがターナー閣下からの推薦状です」


 ゲランさんが上着の内ポケットの中から封筒を取り出しメテルニー氏に手渡した。


 封筒を受け取ったメテルニー氏は「こちらは預からせていただきます」と言って自分の上着の内ポケットにしまった。


「ターナー伯爵のご推薦ですので、間違いはないと思いますが、他のメンバーとの実力差があまりありますとご本人も大変でしょうから、明後日、その辺りを確かめさせていただきます。

 明後日の10時ごろ、武器防具をご持参の上、近衛兵団の訓練場までお越しください。

 近衛兵団の訓練場の場所はご存じでしょうか?」


「はい」と、ゲランさんが答えた。もちろんわたしも知っている。


「門の脇に門衛の詰所がありますのでそこで声をかけてください。

 当番兵がそこから先のご案内をいたします。

 それでは私はこれで」


 そう言ってメテルニー氏は部屋を出ていった。


 部屋の中で椅子に座っていたら、女の人がやってきて出口まで案内してくれた。車寄せにはわたしたちが乗ってきた馬車が回されていたのですぐに乗り込んだ。


 わたしたちが馬車に乗り込むと馬車は動き出し、来た道を引き返していった。


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