第116話 帰還2


 朝食を終えたわたしたちは、鎧を着込んで帰り支度を整えた。


 予定時刻になり侍女に展望室に案内された。展望室にはジゼロンおじさんが待っていた。


「最後にプリフディナスの全貌を良くご覧になってください。……。

 二人ずつ運びますからハーネス隊長とカルヒくんから西の海岸に運びます。

 ハーネス隊長とカルヒくん、わたしの手を取ってください」


 ハーネス隊長とカルヒがジゼロンおじさんの手を取ったところでジゼロンおじさんが『転移』と呟いた。その瞬間、3人は目の前から消えた。5秒ほどしたらジゼロンおじさんが現れ、次にキアリーちゃんとナキアちゃんを連れて転移していった。


 最後に残ったわたしに、


「シズカさんは自分で跳びますか?」とジゼロンおじさんが聞いてきたので「先に行った人たちの正確な位置が分からないので連れていってください」と、答えた。


 左手を差し出されたのでその手を取ったらすぐに『転移』と声がして視界が切り替わった。




「それじゃあ」「……」「「さよなら」」「それじゃあ」


「それではみなさん、さようなら」


 その言葉と一緒にジゼロンおじさんがその場から消えた。


 海岸から沖の方を見るとペイルレディ号がちゃんと浮かんでいた。


 沖に向かって手を振っていたら、そのうち舷側からボートが下ろされこちらに向かってきた。帰還予定日よりだいぶ早く帰ってきたんだけど、ちゃんと海岸を見張っていてくれたみたいだ。



 浅瀬まで海の中に入って、やってきたボートに乗り移ってわたしたちはペイルレディ号に帰り着いた。


 舷側に垂らされた網にボートから飛び移ってよじ登り船の上甲板に立ったら、艦長以下船の主だった士官が待ってた。


「ハーネス以下5名、任務を完了して帰還しました」


「調査隊の諸くんご苦労さま。

 予定よりずいぶん早い帰還だが、魔族の城は記録にあった場所ではなかったのか?」


「いえ、記録通りの場所だった・・・と思います。

 現在はその場所には魔族の都市ができ上っていました。

 われわれはその都市で歓待を受けた上、海岸まで『転移』というもので一瞬で運んでもらいました」


「なんと。それは本当のことなのか?」


「わらわが本当のことであると証言しよう」


「ナキアさまの言葉ということは、真実ということ。

 とにかく急いでディナスに戻ろう。

 部屋は元のままなので、諸くんは休んでいてもらおう。

 何はともあれ、ご苦労」



 わたしたちは勝手知ったる船室に戻っていった。これから20日間暇になるなー。と思っていたんだけど、よく考えたら転移術で抜け出してまたここに帰ってくればいいだけだ。転移術のことはナキアちゃんとキアリーちゃんだけに教えておけば3人で出歩ける。それでいこう。


 ナキアちゃんとキアリーちゃんがリュックなどを片付けているあいだに、わたしは船窓を開け外の様子を見ていた。甲板の方から船員たちの声や動き回る音が聞こえペイルレディ号はゆっくりと向きを変え、そのうち南西に向けて帆走を始めた。時刻はまだ10時前。夕食は16時頃のはずなのでそれまでの6時間は暇になる。


「二人に話しておきたいことがあるんだけど」


「なんじゃ?」


「?」


「実はわたし、転移術が使えるようになったんだよ」


「転移術というのはジゼロンがわらわたちを海岸まで運んだあれじゃな?」


「うん」


「うわっー」


「それでね、わたし一度行ったことがある場所ならどこへでも行けるようになったんだよ」


「なんと。ということは、王都にも行けるのじゃな?」


「まだ試してはいないけど、行けると思う」


「おー! 転移術が使えるなら、このまま調査隊は王都に戻ったらだめなのかな?」


「シズカちゃんが転移術を使えることは国にも黙っていた方が良いのではないか。いいように使われると思うのじゃ。転移術でいつでも逃げられると言っても、国を敵に回すのはあまりいことではないからの」


「じゃあこれは3人の秘密だね」


「そうじゃな」


「使わないのももったいないし、夕食までだいぶ時間があるから、ちょっと王都にでも出かけてみない?」


「行ってみるのじゃ」


「おー!」


「鎧下でいいかな? それともプリフディナスの宮殿でもらった服にする?」


「アレを着たいのは山々じゃが、ちょっと目立ちすぎと思うのじゃ。ここは無難に鎧下で出かけていって、町娘の衣装をどこかで買えばいいと思うのじゃ」


「服を買ったら、ここに戻ってきて着替えられるものね」


「おー!」



 3人揃って防具を脱いで片付け、鎧下姿になった。


「今まで一人で跳んだことしかないから、人を連れて転移するってどうするんだろう?」


「ジゼロンは手を持てと言っておったから、手を握ればよいのではないか?」


「じゃあ、手を持ってくれる?」


「わらわは右手じゃ」


「じゃあ、わたしは左手」


「その前に、予行演習で3人揃って跳べるか確かめてみるね。『転移』」


 船室の真ん中で手を繋いでたわたしたちは、船窓近くに移動していた。


「うまくいったみたいだから次は本番いくよ。って王都のどこに行こうか?」


「服を売っていそうなところの近くならどこでもよいのではないか?」


「了解。じゃあ行くよ。『転移』」



 思い描いたのは王都で買い物をした商店街の少し手前の通り。人通りが多いと急にわたしたちが現れたらびっくりさせてしまうものね。あいにく商店街に服を売っている店があったかは覚えていなかったんだけど。ここで服を売っている店がみつからなければ、古着屋が何軒かあったブレスカの中央広場に跳んで行けばいい。


「うおっ! 街についたのじゃ」


「この通りは覚えてる。ちゃんと王都だよ」


「キアリーちゃん、古着屋この先にあったか覚えてる?」


「覚えてる。この先に2軒は見たよ」


 さすがはキアリーちゃん。


 わたしたちはキアリーちゃんの後についていき最初の古着屋に入った。店の中を見て回ったんだけど、予想通りこれと言った服はなかった。わたしはアイテムボックスの中に普段着を持っているので絶対買わないといけないわけではないんだけどね。


「どうもこれはというのは見つからないのじゃ」


「プリフディナスでもらった服と比べちゃだめだよ。

 わたしは、これにするかな」


 キアリーちゃんはスエードのひざ丈のパンツにそれに合わせて綿のシャツと麻の上着を手にしていた。


「ああいったものを貰うのも良しあしじゃな。目が肥えてしもうてそこらのものでは満足できぬ体になってしもうたのじゃ」


「あの服もいつか着ないともったいないから、そのうち揃って出かけようよ」


「そうじゃな」


「賛成!」


 それでも鎧下よりもこの店で売っている服の方が見た目がいいのは確かなので、ナキアちゃんも服を選び終わった。ナキアちゃんが選んだのは、藍色のひざ丈のスカートにキアリーちゃんの選んだ綿のシャツに似たシャツで、上着はなかった。


 代金はわたしが払って、その店を出て、


「もう一軒あるから、そっちにも行ってみようよ」と、キアリーちゃんが言って先に歩いていったので、ナキアちゃんと一緒にキアリーちゃんについていった。



 当たり前だけど次の店でも似たり寄ったりだった。それでもわたしも含めて服を一着ずつとショートブーツを一足ずつ買っておいた。買った荷物はわたしのアイテムボックスの中にしまっている。


「いったん船室に戻って着替えよ」


 船室に戻って、アイテムボックスの中からさっき買った衣服と靴を二人に渡し、わたしも鎧下から普段着に着替えた。


 3人着替え終わったところで、どこに行きたいか二人の意見を聞くことにした。


「どこ行こうか?」


「馬車の下見はどうじゃろ? 注文となればそれなりに日数がかかるものじゃから、注文するなら早めの方が良いじゃろ」


「どこに行けば売ってるというか、作ってくれるかな?」


「それはもちろん馬車屋じゃろ。おそらく王都の駅舎近くに馬車屋があると思うのじゃ。馬もその辺りに売っておるはずなのじゃ」


「王都の駅舎の場所知ってる?」


「もちろん知らんのじゃ。一番の大通りを王都から離れる方向に歩いていけばそのうち見つかるはずなのじゃ」


 確かに。馬車で王都に入っていくとき見たような見なかったような。でも大体の場所は分かるから近くまで跳んで行けると思う。もし見つからなければ、一つ手前の駅舎なら覚えているからそこで何とかなりそう。


「だいたいの場所はわかった。

 そういえばだれか馬車の御者できる人いる?」


「わたしできるよ」


 さすがはキアリーちゃん。


「一人で御者だと大変だから、わたしに教えてね」


「うん」



[あとがき]

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