第117話 帰還3、馬車。


 わたしたちの旅行用の馬車を買うため王都の駅舎に跳んでいくことにした。駅舎がどこにあるのかはっきり分からなかったので、それラシイところに跳んでそこから歩いていくことにした。


「二人とも、わたしの手を取ってくれる」


 ナキアちゃんとキアリーちゃんがわたしの手を取ったところで『転移』


 王都の大通りの南の端辺りに現れたんだけど、どんぴしゃり、駅馬車の駅舎の前だった。


「駅舎の前なのじゃ」


「ほんとだ」


「この辺りかなって跳んだんだけど、うまくいったみたい」



 駅舎の受付に行って、窓口の女性に馬車を売っていないかたずねてみた。


「この駅舎では馬車の簡単な修理はしていますが、売り物は扱っていません。馬車の購入となると南に500歩ほどいくと右手に馬車工房があるのでそこで頼んでみてください」


「馬はどこで手に入りますか?」


「馬ですと、馬車工房の裏手が牧場になっていて脇の方に厩舎が建っているのでそこで話をしてみてください」


「ありがとうございます」


 窓口の女性に礼を言ってわたしたちは馬車工房に向かった。



 工房の入り口は開け放たれていたので中をのぞいて、そこで作業していた人に馬車が買えないか聞いてみた。


「馬車が欲しいねー。

 悪いが、うちじゃあ一見いちげんの客の注文は受け付けてないんだ。他を当たってくれ」


「ほかの馬車屋さんて、どこにありますか?」


「王都の馬車工房は、ここと北の駅舎の工房しかないが、北の工房でも一見の客の注文は扱っていないはずだ」


 困ったな。この調子だと、駅舎がらみの馬車屋は全滅だ。


一見いちげんの客じゃなくなるにはどうすればいいんですか?」


「ちゃんとしたとこからの紹介があれば、仕事を引き受けよう」


「ちゃんとしたということは、例えば商業ギルドのギルド長の紹介なら?」


「もちろん受けるし、今の仕事を後回しにして仕上げてやるよ。あくまでベネットさんの紹介状があればだがな」


「分かりました。また来ます」




「ベネットさんが商業ギルドにいさえすれば紹介状を書いてくれるはずだから。行こう」


 二人と手を繋いで、商業ギルドの近くに転移した。


 玄関ホールの受付で来意を告げたら、今回も運よくギルド長は在室ですぐに3階の執務室まで案内され中に通された。


「もう戻られたんですね」


「ちょっといろいろあって、わたしたちだけ王都にいるんですけどね。

 それはそれとして、今日はお願いがあってやってきたんです」


「何でしょうか。わたくしにできることなら」


「実は、馬車を造ってもらおうと王都の南駅舎の先の馬車工房に行ったんですが一見いちげんの客はお断りと言われて馬車の注文ができなかったんです。それで、ベネットさんに紹介状を書いていただきたくてやってきました」


「馬車ですか。

 どのような?」


「この3人で旅に出ようかなと思っていまして、幌馬車を造ろうかなと」


「中古でよければ、当ギルドの馬車を差し上げますよ。

 中古と言っても予備で持っているものですから、全く傷んではいません」


「いいんですか?」


「もちろんです。皆さんは当ギルドの大口預金者ですから」


「ありがとうございます」


「それはそうと、オルソン商会の売却ですが順調に進んでいます。今のところ、金貨200万枚、あと3分の1残っていますが、金貨100万枚を下ることはないと思います」


 3人合わせて金貨300万枚、一人当たり金貨100万枚か。金貨1枚25万円とすると金貨100万枚だと。2500億円! ……。凄すぎる。


 その後、ベネットさんが秘書の女性に馬車のことを指示し、わたしたちは秘書の女性の後について商業ギルドの裏手に回った。


 商業ギルドの裏手は広場に面して倉庫が立ち並び荷馬車や幌馬車が出入りして、倉庫の中に物を運び入れたり、倉庫から物を運び出して積み込んだりしてたくさんの人たちが働いていた。いわば物流センターということだろう。


 そういった場所から少し離れた倉庫にわたしたちは連れていかれた。大きな扉の隣りの通用口から中に入ると、馬車が何台も置かれた車庫だった。ただの荷馬車もあれば、箱馬車、もちろん幌の付いた幌馬車もあった。


「この辺りの馬車はどれも2頭引きですが、2頭引きの幌馬車でよろしいですか?」


「はい」


「それでしたら、こちらの幌馬車が幌馬車の中で一番新しいものになります」


 確かに新しいというかほぼ新車。ニスを塗った車体はピカピカで幌も確かに真新しい。夜道を進むときのためか御者台と荷台の後ろにはランプが吊り下がっている。


「馬具と予備の車輪は荷台に、幌の補修用の布や工具、それに蹄鉄など比較的小さなものは御者台の下に入っています」


 何から何までそろってた。


「これ、ホントに頂いていいんですか?」


「もちろんです」


「じゃあ、これいただきます」


「は、はい」


 アイテムボックスの容量は3.3トンなので、少なくともまだ2トンは余裕がある。


 わたしはピカピカの幌馬車に手をかけてアイテムボックスの中にしまった。


「えーと?」と、秘書さん。


「アイテムボックスの中にしまいました」


「シズカちゃん。わらわも驚きなのじゃ」


「シズカちゃんだけのことはある」


「えへへ。アイテムボックスの容量もだいぶ大きくなったんだよ。

 それはそうと、ベネットさんにお礼を言わなくていいかな?」


「それは結構です。わたしの方から伝えておきますので」


「それじゃあ、帰っていいのかな?」


「はい」


「どうもありがとうございました」


「ありがとうなのじゃ」「ありがとう」


 ここで転移で船室に戻っても良かったんだけど、あまり驚かせるのも良くないし、わたしが転移が使えることを教える必要もないので、いったん商業ギルドの建物に戻ってから玄関ホールを通って表に出て、通りを行き来する人の注目を浴びていないことをざっと確かめてから船室に戻った。



 後は馬車馬の調達だけど、今買ってもどこかに預けることになるわけだから、旅行出発前に買っても何とかなるでしょ。


「幌馬車が手に入ったわけじゃから、次は内装を考えないとならないのじゃ」


 確かに。大工仕事など全くの素人なので、改造と言ってもほとんど何もできないと思うけど、荷台の上にカーペットを敷いたり、小物入れなんかを揃えたりするくらいかな?


 いずれにせよ、買い物はまだまだ必要なのでみんなで意見を出し合った。


「まずは、荷台の上に敷物が必要だよね。クッションも。

 それに、ランプとランプ用の油」


「ロープはあった方がいいと思う」


「草がどこでも生えているわけではなかろうから、馬の飼葉用に空樽と桶があった方がいいかもしれんのじゃ」


「馬用に塩は必要だよ」


「後は何かな? 今思い付かなくて漏れがあっても足りないものがあれば、買い出しに跳べばいいだけだけどね」


「しっかし、シズカちゃんの転移は便利じゃし、アイテムボックスも反則級じゃものな」


「すごいよね。シズカちゃんと友だちに成れてホントによかった」


「ほんにその通りなのじゃ」


「二人ともそう言ってくれてありがと。わたしも二人と友だちに成れてホントに良かった」



 夕食に呼ばれるまで3人であれやこれやこれからの馬車旅の話で盛り上がった。



[あとがき]

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ファンタジー『ひっこ抜いたら王になれるという聖剣をほんとにひっこ抜いたら、腰も抜けたので田舎に帰って養生します。』(3万字)https://kakuyomu.jp/works/1177354055597654666 よろしくお願いします。

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