第118話 帰還4。慰労祝賀会
ペイルレディ号に帰還した日の夕方。艦長食堂で帰還祝賀晩餐会が開かれた。
わたしたち3人はプリフディナスの宮殿でもらった衣装を着て晩餐会に出席した。ハーネス隊長とカルヒは鎧下姿だった。
ペイルレディ号側は艦長以下ペイルレディ号の幹部3名の出席で、わたしたち3人の姿を見て目を見張っていた。プリフディナスでもらった服だと説明しておいた。確かにこれまで見たこともないような生地だしデザインの衣装だもの、プリフディナスがどういった国なのか少しだけ分かってもらえたかもしれない。
晩餐会のあいだプリフディナスについて何度か艦長から質問があったけれど、ハーネス隊長が無難に答え、ナキアちゃんがうなずくことで、ペイルレディ号の3人は真実の話であることを納得しつつ驚いていた。
この日のメインはわたしがたおした飛竜のステーキだった。傷みにくいので重宝しているとの話だった。モンスターの襲撃は今後なくなるという話だったので、あの飛竜が魔族由来のモンスターだったとしたらこのステーキで食べ納めかもしれない。
晩餐会が引けてわたしたちは船室に戻った。晩餐会で出された酒はもちろん室温の酒だったし薄かったので、どうも飲み足りないということで船室に戻ったわたしたちは2次会を始めた。いい匂いが外に漏れないよう入り口の扉をしっかり閉めたうえで窓を開けて風通しを良くしての酒盛りだ。海の上にいい匂いが漂ってしまうのは仕方ない。
そんなこんなで20日間に及ぶ航海の間に毎日のようにエスケープして王都の商店街に出かけ馬車用の備品の他、肉や野菜も購入した上、大型のフライパンなんかも購入している。もちろん瓶に入った濃い酒も補充済みだ。
それと、一度ブレスカの小鹿亭にわたし一人で跳んでいき、ニーナちゃんに茶色のパンプスと一緒に白いシャツとベージュ色のパンツスーツを渡しておいた。すごく喜んでくれた。
わたしたちは帰りの航海の間王都に抜けだしていたので結構時間を有効に使えたんだけどハーネス隊長とカルヒはいったいどうやって船室内で過ごしているのか気になったので食事中ハーネス隊長に聞いてみた。
「わたしは船室内でできるトレーニングで汗を流している」
納得の答えだった。そのときカルヒはすごく嫌そうな顔をしていた。カルヒの気持ちが分かるような気がした。
ウニス・ウニグ島の沖で錨を上げて20日目の昼過ぎ、ペイルレディ号はディナス港に帰港した。
わたしたちは見送りの船長以下の人たちに礼を言って下船し、海軍の馬車で近衛の訓練場まで送ってもらった。わたしたちは以前と同じ兵舎内の部屋を割り当てられた。
ハーネス隊長はその足で王宮に報告に向かうので証人としてナキアちゃんに同行を頼み、残ったわたしたちに部屋の中で待機しているよう指示した。
ハーネス隊長の報告を聞いて国がどう対応するのかは分からないけれど、少なくとも調査は成功したわけだから、わたしたちはお役御免となりめでたく調査隊は解散するだろう。と、わたしは勝手に考えていた。
わたしとキアリーちゃんは部屋で普段着に着替えて、ナキアちゃんの帰ってくるのを待っていたら、従兵にハーネス隊長の部屋に呼ばれた。部屋にはハーネス隊長の他ナキアちゃん、カルヒもいた。
「王宮への口頭での報告は無事終了した。わたしは報告を文章にまとめる作業が残っているが、今回の調査隊は明日を持って解散することになった。
明日の昼食時、慰労祝賀会が宮殿で執り行われる。褒賞などは祝賀会のあとこの兵舎に届けられる。
みんな、ありがとう。今日は外出自由だが羽目を外さぬよう。明日の午前10時までにはここに戻ってきてくれ。以上。
シズカ。今回の報告では、かなり面倒なことになることが予想されたので、ナキアと相談してシズカが魔族の女王と個人的な面識があり懇意であることについては報告していない」
確かにわたしが魔族の女王と懇意となるといろいろ政治利用されるのは目に見えてるもの。
「ご配慮、ありがとうございます。
ナキアちゃんもありがとう」
「なんの。当然のことなのじゃ」
「ハーネス隊長。キャンプ中、石の台の上に置いてあった魔石が5個ありますがどうします?」
「そうだな。アレについての報告はしているが魔石のことには触れていないし、特別任務中の拾得物について規定など何もないから、ちょうど5人だし5人で山分けにしてもいいだろう」
話の分かる隊長でよかった。
あの魔石はオーガの魔石と区別できないので、適当に魔石を4つアイテムボックスから取り出してみんなに配った。
ナキアちゃんとキアリーちゃんは、持っていても仕方がないからといってわたしにくれた。オーガの魔石は売れば金貨7、80枚になるけど金貨100万枚からすれば微々たるもんだしね。
部屋に戻ったわたしたちは、ナキアちゃんが鎧姿から私服に着替えるのを待って街に繰り出した。
20日間にわたる帰国の航海中、ちょくちょく船から抜け出して王都内に繰り出していた関係もあって、その日はおとなしく兵舎に戻った。
そして翌日の慰労祝賀会。
着ていく服はヘルメットと手袋は着けないけれど、鎧姿ということだった。正装って持ってないしね。武器は持参してもしなくてもいいと言われた。ハーネス隊長はじめだれも武器は持参しないそうなのでわたしもそうした。と、言ってもわたしの場合アイテムボックスに入れているのでいつでも取り出せるから、持参してるのと同じだ。
わたしたちはハーネス隊長に連れられて王宮の中に入っていった。
王宮の前庭から宮殿の出入り口に回りそこから宮殿内に入った。宮殿の中から先は宮殿の女官が会場まで案内してくれた。
ゲランさんとやって来た時は車寄せからそれほど遠くない待合室に通されただけなのでほとんど宮殿の中のことは見ていないけれど、ちゃんと正面から入ってもベルサイユ宮殿的な華美さは一切ない、簡素な宮殿だった。
通された部屋は広間と言うほど広くはなかったけれどそこそこ広い部屋で、髭のおじさんと、真ん中の一人分の席を空けて、ゲランさんとやって来た時会ったことがある宰相の第一秘書メテルニー氏が席に着いていた。天井からはシャンデリアが下がり壁には大きな絵がかかっていた。部屋の隅に置かれた大きな花瓶には色とりどりの花をつけた生花が生けてあった。ちょっと豪華かも。
「わたしは軍務大臣のハインツだ。諸くんご苦労だった。さあ、席に着いてくれたまえ。
ヨーゼフ宰相はもうじきにやってくる。先に始めていてくれとのことだったのでさっそく始めようじゃないか」
その言葉が合図になって侍女たちによって部屋の中に料理と飲み物が運び込まれた。
お酒が行き渡ったところで、ハインツ大臣が、
「調査任務の成功を祝って、乾杯!」
「「乾杯」」
みんな言葉通りグラスの中のお酒を飲み干し、侍女たちがすぐにお酒をグラスに満たしてくれた。
「ハーネスくんからの報告で魔族が大きな国を作ってそれが人族など比べ物にならないくらい進んだ国だと聞いて正直嘘ではないかと思ったのだが、ナキア殿の証言で間違いはないと分かった。魔族の女王に歓待を受けた上、魔族が平和的に人族と交易など行いたいという。わたしの立場からすれば、ありがたいことだ。報告にあったようなモンスターに襲われた場合、撃退できたとしてもかなりの被害が出るわけだからな。
とはいえ、魔族は潜在的な脅威であることも事実。これからのわが国は国力の充実と戦力の強化を図っていくことになると思う。そのためには逆説的にはなるが魔族との交易も重要だ」
軍務大臣のハインツさんはそれなりの人物らしい。
お酒を飲みながら料理に手を付けていたら、小柄なおじさんが部屋に入ってきた。このおじさんが宰相なのだろう。
「遅れて申し訳ない」
そういっておじさんは向かい側の真ん中の席に座った。
すぐにおじさんの前のグラスにお酒が注がれ、ハインツ大臣が再度音頭を取り乾杯した。
「先ほどまで今回の調査について陛下に報告していて時間を取ってしまった。
それで、わが国から魔族の国、プリフディナスに使節団を派遣することになった。使節団にはきみたちに加わってもらうことになると思うので心しておいてくれたまえ」
馬車旅行が遠のいてしまう。そうだ! 明日香に頼んでプリフディナスから使節団をこの国に派遣してもらえればいいんだ。ナイスアイディア。
「ただ、使節団の派遣には条件があって、今後モンスターの襲撃がなくなることが条件だ。一カ月は様子を見る必要があるだろう」
それまでにプリフディナスから使節団を寄こしてもらえればいいわけだね。ジゼロンおじさんが転移で運べば簡単だし、わたしも手伝ってもいいから何とでもなるような気がする。善は急げだからこの祝賀会が終わったら明日香のところに行ってこよう。
「使節団のこととは別に軍の強化が決定された。
軍の強化には金が必要となるが安易な増税ではなく商業ギルドへのプリフディナスとの交易権を担保とした債券の販売と冗費の削減で乗り切りたいとの陛下のお考えだ。貴族の年金も削減されるはずだから、貴族たちは反発するだろうが現王室に逆らえる貴族はいないだろう。
先の話になるがプリフディナスとの交易が軌道に乗れば、産業も育っていくだろうしな」
[あとがき]
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自分の中では一番の傑作と思っているファンタジーです。
『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』
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