第119話 使節団調整


 慰労祝賀会を終えたわたしたちは兵舎に戻り、ハーネス隊長の部屋に集合して各自金貨100枚の報奨金をハーネス隊長から貰った。


「これで調査隊は解散する。ご苦労だった。リュックなどは部屋に置いたままでいいし欲しければ持っていってもらっても構わない。

 申し訳ないが、使節団の派遣のことがあるので1カ月後、ここに戻ってきてくれ」


「りょうかーい」


 そう言ってカルヒはさっさと部屋を出ていった。


「了解しました。

 ハーネス隊長、お世話になりました。それでは失礼します」


「さよならー」「さよならなのじゃ」


 わたしたちもハーネス隊長に簡単な別れを告げていったん部屋に戻った。



「使節団として向こうに行ってると馬車旅ができなくなるからこれから向こうに行って、向うから使節団をこの国に寄こしてもらうよう頼んでみる」


「それはいい考えなのじゃ」


「ナイス」


「シズカちゃんが向うに行っておる間、わらわたちは、とりあえずカディフの公邸に戻っておくのじゃ。

 カディフの公邸の場所は、……。

 キアリーちゃん、覚えておるか?」


「覚えてるよ。ここからちょっと遠いけど、商業ギルドからだと案外近いよ」


 わたしはキアリーちゃんにカディフの公邸の場所を聞いた。だいたいの場所は分かったし、商業ギルドの近くなら人にたずねればいいだけだから何とかなるでしょう。


「それじゃあ行ってくる。その前に二人を商業ギルドの近くまで運んであげるよ」


「ありがたいのじゃ」


「ほー」



 二人はハーネス隊長から手渡された報奨金の袋を手に持っていたのでわたしから二人の手首を持って商業ギルドの近くに転移した。


「それじゃあ」


「公邸で待っておるのじゃ」


「じゃあ」


 キアリーちゃんは盾を左手に持って邪魔そうだったのでアイテムボックスに預かろうかと思ったけれどやめておいた。



 わたしは直接明日香の部屋にも跳んでいけたけど、さすがにそれはマズいのでそのままプリフディナスの宮殿のわたしの部屋に跳んだ。部屋から外に出て、宮殿の誰かを呼び止めてわたしが明日香に会いに来たことを伝えてくれと頼んだら、そのまま明日香の部屋に連れていかれた。


「帰ってきたんだね」


「うん。ちょっと頼みがあってね」


「なに?」


「ドライグ王国に帰ったから慰労祝賀会があったんだよ。ドライグ王国というのはわたしがいた王国ね」


「うん」


「そこで宰相が言うのは、これから1カ月モンスターの襲撃がないようならドライグ王国からここに使節団を派遣したいって。その時わたしを含めた調査隊のメンバーも加わらなくちゃいけなくなったの」


「それは当然でしょうね」


「でもね、わたしはナキアちゃんとキアリーちゃんと3人で馬車旅しようって計画してたんだよ」


「要するに、面倒だからその使節団に加わりたくないってことね。

 それでわたしに何を頼みたいの?」


「この国から先に使節団をドライグ王国に送ってもらえばドライグ王国からわざわざ使節団を送る必要がなくなると思うんだけど、どうかな?」


「こちらからもいずれ送るつもりではあったけど、こちらが送ったからと言ってドライグ王国側が送らないということはないんじゃない? 外交って相互的なものだし」


 言われてみれば確かにそうか。1カ月しかないけれど、その間だけでも旅行を楽しむか。また船に乗って行き来するのは面倒だけど、使節団の一員になれば待遇はこの前よりももっと良くなりそうだし。


「分かった」


「ほかには何かない?」


「そうだ! 日本酒と焼酎もらえないかな?」


「いくらでも上げるけど、静香お酒が大好きになったんだね」


「いやまあそうなんだけど、いくら飲んでもなんともない体に成っちゃったんだよ。それと、ナキアちゃんとキアリーちゃんも欲しいって言ってたし」


「静香はアイテムボックス持ってるんでしょうから樽とかで持ってこさせるわ」


 明日香が部屋の外で待機して侍女を部屋に呼んで、ひとことふたこと言ったら侍女が部屋から出ていき、5分くらいして日本酒の4斗樽を2つと一抱えもあるカメ2つが2台の台車で届けられた。


「これだけあればそれなりに飲めるでしょ? なくなったらまた来て、侍女に頼めばいいように言っておくわ」


「サンキュウ。明日香。

 そういえばこの国って通貨はあるの?」


「まだないの。必要なものは全部支給してるから」


「人族と交易が始まったら困らない?」


「そうねー。いろいろあって、ある程度向こうの通貨は用意してるんだけどそれだけじゃ足りなくなるでしょうから、きんで支払うことにするのかなー。向こうからこっちの物を買う時はそのきんで払ってもらえばいいわけだから。そう考えると用意する金の量は物々交換の差額の決済分程度でいいのかもしれない」


「ねえ、わたしモンスターをたおした時魔石を回収してるんだけど、魔石いるなら上げるよ」


「ありがとう。あれがあると召喚魔法陣を使って何かを召喚する時、召喚ポイントが少なくて済むのよ」


「そうなんだ」


 わたしは飛竜の魔石だけ1個残してあとの魔石は全部明日香に上げた。


「静香、サンキュウ」


「以前、オーガをたおしてしばらく放っておいて戻ってきたら魔石がなくなってたことがあったんだけど、あれってジゼロンおじさんが回収したのかな?」


「きっとそう。わたしのことを思ってそうしてくれたんじゃない」


「おそらく召喚魔法陣だと思うけど、魔法陣の上に魔石が乗っかったままだったのを拾ったんだけど」


「あの仕事、ジゼロンが一人でやってたから、アラもあったのよ。

 もう全部回収したみたいだから、間違っても魔族由来のモンスターは現れないわ」


「うん。

 じゃあ、そろそろ行く」


「それじゃね。何か欲しいものがあれば言ってきて。ここに直接飛んできてもらうとセキュリティー的にいろいろややこしいから、自分の部屋に跳んで、呼び鈴を鳴らしてやってきた侍女かだれかに欲しいものを言ってくれれば部屋まで持ってこさせるよう言っておくね」


「うん」



 明日香のところから、今度は先ほどナキアちゃんとキアリーちゃんを運んだ商業ギルドの近くに跳んで、記憶を頼りにカディフの公邸に向かった。



 ちょっとだけ迷ったけど、割とすんなりカディフの公邸を見つけることができた。


 カディフはこの国で2番目の都市らしく、さすがにターナー伯爵の王都邸よりも大きな屋敷だった。


 門の外から建物に向かって「ブレスカのシズカです」と大きな声をだしたら、玄関から女の人が走り出てきて、門の脇の通用口を開けてくれた。


「シズカさまですね。ナキアさまたちがお待ちです。どうぞ」



 女の人に案内されて玄関に入ったらナキアちゃんとキアリーちゃんがいた。二人とも鎧姿から着替えていた。ナキアちゃんの格好は足首まである白のパンツに白のアオザイ風のワンピース。刺繍が入っていて相当高価な衣装に見える。キアリーちゃんも白のひざ丈のパンツに白のブラウスだった。


「わらわたちの部屋で話をするのじゃ。

 わらわたちの部屋は二人部屋なので、シズカちゃんの部屋は隣に取っておるからの」


 二人の部屋まで案内された。二人の部屋は中庭に面した結構豪華な部屋だった。


 部屋の中にあった4人掛けのテーブルの席に3人で座りプリフディナスでのことを話した。


「話をしたところ、向うからも使節団は出すつもりだったんだって。

 でも、明日香が言うには、こういった物は相互的なものだから、ドライグ側からも使節団を送るはずだと言ってた」


「そう言われればそうじゃな」


「じゃあ、1カ月だけの旅行だね。でも1カ月でもそれなりに楽しいよ」


「じゃな」


「あと、お土産があるの」


「なんじゃろ?」


「なにかなー?」


「米から作ったあのお酒と濃いお酒を貰って来た」


「おー。やったのじゃ。がぜん旅行が楽しみなのじゃ」


「楽しみー」


「さっそく馬を見に行かない?」


「そうじゃな」


「行こう、行こう」


「ここの人に告げずに留守にしていいのかな?」


「夕食はここで食べることになっておるので、それまでは勝手に出歩いても良いのじゃ。シズカちゃんも一緒じゃからな」


「ありがと。それじゃあ、ここから直接跳んで行こう」


 二人がわたしの手を取ったところで『転移』。行き先は馬車工房の裏手にあるという牧場の厩舎だ。



[あとがき]

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『常闇(とこやみ)の女神 ー目指せ、俺の大神殿!ー』

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いたるところにちりばめられたおそらく誰にも理解できないようなマイナーパロの数々。

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